シロウ、次は私が行くよ
「シロウ、次は私が行くよ」
「シルにはあまり派手に動いて欲しくないんだけどな……。【ヒール】」
「師匠が暴れてる時点で同罪じゃないの?」
「それもそうか……」
俺とシルが呑気に笑い合う。
「穂先があったら危ない。これを使え。【ヒール】」
「ありがとう。家宝にするね」
「そこまでの品じゃないぞ」
俺は昨日の鍛練の時に作った棒をシルに渡す。
大事に受け取ると追加の私兵に飛び込んだ。
「大丈夫なのか? 相手は領主の私兵だ。助けに行かねば、殺されてしまうぞ……」
「あの子はゴンザスより何倍も強いから気にするな。心配するだけ無駄だ。それよりももう近い。【ヒール】」
地下に潜る階段の前に到着した。
「この先は宝物庫だ。鍵は領主様しか持っていない」
とりあえず階段を下りる。
宝物庫を守る私兵二人は、秒単位で眠らせた。
「きっとこの扉の向こう側だ。あと一歩なんだよな……。破壊するから、後で修理してくれ。【ヒール】」
「ちょっと待ってくれ。場所が特定できたなら、まずは領主様に事情を……」
「距離が近くなったせいで、吸われる量がさらに跳ね上がった。【ヒール】」
領主を説得している時間が惜しい。
そもそもこれだけの騒ぎを起こして、説明程度で納得してもらえるとも思えない。
俺は腕を引いて、扉を殴る。
ガーンッと拳と金属がぶつかり合った音とは思えない音が出た。
さすがに領主の宝を守る扉。頑丈だな。
拳の形がハッキリわかる凹みが出来上がったのに、破壊できなかった。
ジリリリリリリリリリ。
今さらながら、警報器のような音が建物内に響く。
宝物庫に設置された盗難防止用の魔道具でも作動したかな?
「もう終わりだ……。ブザーまで鳴らして領主様へなんと弁明すれば……」
「一度目は中の宝を巻き込まないように手加減したが、今度は本気で殴る。【ヒール】」
俺は扉を開けるためではなく、吹き飛ばすために腕に力を入れた。
「待たれよ」
俺が振りかぶって殴る直前。
階段の方から声が聞こえてきた。
「領主様! これは――」
まだ顔は見れていないが、大人の男の声だ。
「ミレア君の裏切りはすでに報告を受けた。弁明は不要だ」
気が付けば警報器の音が消えている。
静寂の中、コツコツコツッと靴が階段を叩く音が響く。
「…………」
ミレアが唇を噛み、苦い顔をした。
すぐに表情を戻したけど、あれは絶対に雇い主に見られてはいけない顔だ。
俺はミレアという女を極々短時間でしか見ていないが、これだけはわかる。
この女は領主に忠誠を誓っていない。
「前代未聞ではあるが、地上は二人の冒険者により、あっという間に制圧されてしまったよ。ミレア君が裏切らなくとも、さして状況は変わらんかった。我々の完敗だ」
「勝ちとか負けとか後でいいわ。早くこの扉を開けてくれ。【ヒール】」
「これが宝物庫の鍵だよ。君の望みの物があると良いんだけどな」
領主が腰に付けた鍵を外し、こちらに向かって投げた。
俺は鍵を難なくキャッチする。
「これからもう一戦始まるかもしれない。死にたくなければ離れててくれ。【ヒール】」
俺は宝物庫の鍵を鍵穴に差して、開錠した。
扉を開けると、カビ臭いニオイが鼻を刺激する。
「【ヒール】」
ラインの続く先を見た。
あ、いました。
可愛らしい金髪幼女が……横になっている。
「うぷっ。もう食べられない」
いや、ならエネルギーを吸うなよ。
「なぁ……シル。ラインの先を確認したし、もう切ってもいいか?」
「いいよ」
領主とミレアは姿を消していたシルに気が付いて驚いている。
俺は青年と繋がっていたラインを掴み、左右に引きちぎった。
これで流れ出るエネルギーは止まったはずだ。
「【ヒール】」
回復魔法をかけると、見るからに青年の顔色が良くなった。
あとはしっかり静養して英気を養えば、今まで通りの生活を送れるだろう。
「さて、この満腹娘はどうしたらいいんだ?」
「その子は『はぐれ』ちゃんだね」
「『はぐれ』ちゃん?」
初めて聞く単語だな。
「魔族の中には魔王に従わない魔族がたくさんいるのね。それが『はぐれ』ちゃん。その内の一人だよ」
魔族全員がどこかの魔王の傘下にいるわけじゃないよな。
「コイツってやっぱり強いのか?」
満腹で苦しそうなのに、ビリビリした空気が伝わってくる。
魔王に従わないという事は、どの魔王も屈服させる事ができなかった魔族だ。
「すごく……」
「今はお腹いっぱいだから、後にして……」
魔族側から『待った』が来た。
どうするかな。
卑怯と罵られても、今が絶好のチャンスに違いはない……。
待った挙げ句、ガチバトルとかそれこそ嫌だ。
「すまんが、そこに何かいるのか?」
「魔族がお腹いっぱいで寝てる」
姿が見えない奴に現状を教えてやると、何とも悲しい表現になる。
「魔族だと? 寝てるなら、今のうちに退治してくれ! 隊長も呼んでくる」
止める間もなく、ミレアがゴンザスを呼びに行く。
そりゃあ、そんな反応になるよな。
服がボロボロなのに顔が清々しいゴンザスが現れた。
「アニキ、魔族が寝てるんですか?」
宝物庫に顔を入れたゴンザスが思わず『あー』って声を出した。
見えるか見えないかの差はデカいな……。
お腹がポッコリ膨らんだ魔族が、無防備に寝ている。
「いつ目覚めるか知らないけど、これ以上は関わらない方がいいよ」
シルと『はぐれ』の処遇を協議した結果、このまま放置が一番らしい。
街のど真ん中に凶悪な魔族を放置って……。
「どちらにしろ、ここで暴れられたら、街の被害が凄そうだ。俺が説得を試みて拠点に持ち帰る」
寝ている『はぐれ』の隣に行き、声をかけると、二つ返事で了承してくれた。
「ここ臭くて嫌い」
「今から移動するから暴れるなよ」
俺は無害か有害かよくわからん魔族のバトルスーツを掴んで輸送する。
「うぷっ。あまり揺らすと吐いちゃう」
単純にエネルギーの食べ過ぎだ。
俺の回復魔法を何回分食べたんだよ……。
ステータスだけなら二倍になる前のマーニレより強い。
「それで……。わざわざ『はぐれ』を連れてきたのかよ。シルヴァーンは『はぐれ』の危険性をロリコンに説明しなかったのか?」
「したよ。シロウは優しいから、無抵抗の魔族を攻撃できないんだよね」
「いや、このロリコン。俺様の事を容赦なく槍で刺してきたぞ」
「それはお前がリーの悪口を言ったからだろ?」
「いーや、違うね。お前がロリコンだから幼女を傷付けられなかっただけだ!」
「……女性には優しくすべきだぞ」
「ほら、シルヴァーン。今の聞いたか? 本性を現したぞ」
「マー君も女性に優しくしないと嫌われちゃうよ。今日はもう疲れたから、先にお風呂に入ろ?」
「そうだな。賛成だ」
夕食前だが、疲れた体を癒すにはお風呂が一番。
「え……? 俺様が悪いのか? ロリコン、この『はぐれ』はどうするんだ?」
「起きたら呼んでくれ」
「起きた瞬間、暴れるかもしれないぞ?」
「…………任せた!」
「はぁ? ちょっと、一人じゃ無理だって。おい!」
果樹園に『はぐれ』を置いていく。
住宅側で目覚めて、戦闘になった場合の被害に比べたら【ウォーター】で済む果樹園側がいい。
お風呂からあがっても『はぐれ』は目覚めていなかった。
ただ……お風呂でシルに『今夜は寝ずの番だよ』と何度も釘を刺される。
「なんで、俺様まで……」
お風呂をあがったマーニレを捕まえて、連行した。
初めて夜通しで警戒に当たるのに、それがまさか拠点で行われるとは……。
「ギガンテスを配置しておけば、良かったんじゃないか?」
ふと疑問に思った。
ギガンテスなら強いし、防御力もある。
「それで機嫌を損ねて戦闘になるぐらいなら喜んで徹夜をするぜ」
「マー君が正しい。シロウは寝たらなかなか起きないから、念のため仮眠も禁止ね!」
「……仮眠ぐらいいいじゃん」
「言っとくが、コイツ一人で魔族の城を半壊できるかんな」
満腹で気持ち良さそうに寝ている幼女を見下ろす。
今頃になって自分の蒔いた種のヤバさを噛み締める。
「それとあんま変なもんを拾ってくんなよ!」
「……すみません」




