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ここは俺が引き受けます

「アニキ、《宿り木》って何ですか?」


 全知全能によれば、他者が体に寄生している状態とある。


 つまり――。


「この青年の持つエネルギーが他の者へ流れている。だから、エネルギーがどんどん失われて衰弱していくんだろうな。どこかに栄養を吸っている奴が隠れているはずなんだが……」


 巧妙にステータスの内容を隠蔽していたようだけど、俺の鑑定眼の前では無駄だった。


「原因がわかったなら、早く坊ちゃんを治せ!」

「ミレアは落ち着け。アニキに任せろ」


「うーん。こんな事をできるのは、人間の仕業じゃないよな……。やっぱり魔族の仕業か?」


 魔族情報は魔族に聞くのが早い。

 俺はミレアとゴンザスを無視して、シルに話しかけた。


「うん。北領でよくある手口だよ。今回は師匠の息子さんがターゲットになったみたいだね」


 よくある手口?

 疑問に思った事を聞いてみる。


「こんなまどろっこしい事をしなくても、直接殺した方が早くないか?」


 魔族は人間に比べて圧倒的な強者だ。

 領主の息子を殺そうと思えば、姿を消して近付き、心臓を刃物で一突きすればいい。


「ジワジワいたぶる場合は、これが一番有効なの。それに《宿り木》を増やせば増やすほど《寄生体》は強くなるんだよ」


 魔族にも無限にステータスを上げる裏技があったのか。


 でも、俺が《勇者の加護》を与えると相手からステータスの一割をもらってるのと類似しててなんか嫌だな。


「相手を捜し出す事ってできないのか?」

「マキナちゃんみたいに魔力波長を読めれば栄養の行き先を探れるかもしれないけど……」


「魔力波長なんて読んだ事はないぞ……」


 正確には試した事はある。

 でも、修得ができなかった。


「シロウ、集中して。マキナちゃんも最初はできなかった。きっと体のどこかから細い糸が出てるはず。それを見つけるの」


「わかった。やってみる」


『読む』と表現するんだから、目を開けて何かを『見る』のが正しそうだが……。

 俺は実際にマキナが魔力波長を読む仕草を目撃している。


 その時、マキナは必ず目を閉じて魔力波長を探っていた。

 俺もマキナに倣い、目を閉じて青年のいる方を向く。


 ダメだ。ただ暗いだけで、何もわからない……。


「隊長、この二人は何をしてるんですか?」

「体から出てる魔力波長を探ってるんだ」


「そんな事ができるんですか?」

「らしいな。俺もお前も、この件では何も役に立たん。静かにしてろ」

「……はい」


「シロウ、体力回復ポーションを頂戴」

「ん? 今忙しいぞ?」


 (はた)から見たら、目を閉じているだけだが……。


「栄養の送る量を増やせば、繋がってるラインを見つけやすくなるかも」


「なるほど。いい考えだ。ミレアはゴンザスに口止めしてもらえばいいな。【ヒール】」


 俺は手始めに青年の体力を回復させる。

 ゴンザスの体を探った時は指先の感覚に集中するだけで、魔力波長を読むなんて発想はなかった。


 俺は目を瞑り、回復魔法を使っている自分の手に意識を集中させる。


 俺の手から淡い光が放出され、青年に降り注いでいるのがわかった。

 キラキラしてる光が全身に行き渡り……。


「……見つけた。栄養の抜け出ているポイントはおへその辺りだ。これを断ち切ればいいんだろ?」


 俺はそこへ向けて手を伸ばす。

 しかし、シルが俺の手首を掴んだ。


「シロウ、まだダメだよ。それを切れば相手に気付かれちゃう」

「んじゃどうするんだ?」


「そのラインの先には必ず魔族がいる。そいつをやっつければ全てが解決するよ」


 シルは名探偵になれるな。

 逆探知みたいなものか。


「言ってる事はわかるが……。まだ慣れてないから回復魔法をかけないとラインが見えないぞ?」


「師匠は息子さんを抱えて。シロウは回復魔法を定期的にかけながら、移動するよ」

「ま、待ってくれ。坊ちゃんの衰弱した体にそんな無茶をさせてはダメだ」


 みんなあと数日は持つと思っているだろうが、俺が良質な回復魔法をかけたせいで、明らかに吸う量が増えた。


 こちらに回復魔法をたくさん使わせて、術者のエネルギーもついでに奪う腹積もりだ。


 この青年はもう用済み。あとは抜き取れるだけ抜き取ろうと最後の追い込みに入りやがった……。


 俺たちから動かなければジリ貧とは言え、俺も青年を動かすのは反対だ。


「アニキ、やりましょう」

「隊長! 自分の息子ですよ!」

「俺は二人を信じる」


「ですが……。もし、この事が領主様の耳入れば、大問題になります。それに途中で坊ちゃんが死んでしまったら……」


「このまま放置したらあと数日の命だ。俺は息子に親らしい事をしてやれていない。今やらないと後悔する。アニキ、お願いします!」


「ゴンザスが覚悟を決めたのに、全力で治療をすると約束した俺が躊躇ってどうするんだろうな……」


 俺なら回復魔法をかけ続けても、魔力が尽きる事はない。

 だから、その間にシルにマキナを呼びに行かせるのが、俺の中では一番の安全策だ。


 ゴンザスが息子を布団から出して抱えた。


「アニキ、行きましょう」

「わかった。【ヒール】」


 ラインを切るのは簡単だろうが、もう少しだけ我慢してくれよ。


「まずは廊下に……」

「私が先行します!」


「よろしく。出て左だな」


 俺は回復魔法でラインを読みやすくしながら、建物内を移動する。


 窓の外に向かっていないという事は敷地内だ。


 領主の私兵にバレるのは早く、ミレアがいても中庭で囲まれてしまった。


「止まれ! これ以上、好き勝手させるわけにはいかない!」

「そこを退きなさい! 今は問答をしてる場合じゃないのよ!」


 ミレアが叫ぶが私兵は領主のためにある。

 ミレアの声は届かない。


「ミレア、息子を頼むぞ。ここは俺が引き受けます」

「手加減してやれよ。【ヒール】」


 振動を与えないように、ゴンザスからミレアに青年が渡される。


「私が残ります!」

「ダメだ。お前はアニキの指示に従え!」


 ゴンザスが武器を持たずに私兵に向けて走り出す。

 領主を敵に回す行動をするとは思っていなかったらしく、私兵に動揺が走った。


 ゴンザスが剣を素手で受け止め、そのまま押し返す。


「数で押さえつけろ! ミレアは奴らに寝返った! 容赦するな! 必ず食い止めるのだ!」


 体を拘束する私兵は持ち上げて、放り投げた。

 客観的に見て、悪いのは俺たちだからな。


 私兵の半分がゴンザスを取り囲み、残り半分が俺たちを狙う。


「アニキ、俺が道を切り開きます!」


 ゴンザスが俺たちを追う私兵に兵士を投げて無理やり間に割って入った。


 まさに一騎当千級の働きだ。


「今です! 行ってください!」


 結局ゴンザス一人で九割以上を引き受けた。


「隊長……」

「ミレア、進むぞ。【ヒール】」


 俺は俺の仕事をする。

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