解毒ポーションを作る。
盗賊たちを食堂に集める。ボスを含め数人が声を荒げていたが、一度全員をワイルドスネークの餌食になった四人の姿を見せたら静かになった。
「解毒ポーションを作る。綺麗な水は……ないよな」
樽に蓄えられた水を見ると虫が浮いている。
ニオイを嗅いでも腐っている感じはしない。
川まで遠いから、雨水を貯めて利用しているのか? 水って意外と重いからな……。
表面の虫をボールで掬って投げる。また掬って投げる。また掬って投げる。
「ダメだ。このままでは使える気がしない」
今回は水を濾す。
濾過器を作って水をキレイにしたいが、そこまで時間をかけていられない。
白装束を解いた布をザルに被せて布巾の代用にした。布の上から水を通してゴミを取り除く。
俺が飲むなら一度沸騰させるが、普段からこの水を飲んでる奴が飲むなら平気だろう。
毒は同時に解毒の素材になる。
俺はワイルドスネークに毒をもらい作業に入った。
毒の成分を反転させるため、全知全能の知識に従い、アイテムボックスからラティアンの実と薬草を取り出す。
ワイルドスネークの解毒ポーションを作る場合、本来はマナの実と呼ばれる実を使う。
マナの実は魔力を多く含んだ薬草から採れる珍しい実だ。魔力溜まりになりがちな山奥や洞窟内で採取できるようだが、俺にそんな実と出会う機会はなかった。だから上位互換のラティアンの実で代用する。
ボールに濾した水を入れ、そこへモンスターの魔核を指で潰して投入。本当は細かく削って粉末にするのが正式だが指の力でも十分に細かくできたと思う。
あとは水と魔核を馴染ませるために箸で混ぜる。氷砂糖が時間をかけて水に溶け出す感じだ。粉末の方がすぐに水に溶けるから作業効率がいいのだろう。
「魔力水はこれでいいか……」
薬草の根を棒で叩いて汁を出す。
ワイルドスネークの毒と根の汁、ラティアンの実を小さな片手鍋に入れ、スプーンで混ぜながら火にかける。
加熱するとラティアンの実が蝋のように溶け始めた。ドロッと溶けた後には小さな種が残る。種は箸で摘まんでアイテムボックスにしまった。種である以上芽が出るかもしれんからな。
沸騰したら効力が落ちるため、ラティアンの実が溶けきったところで火を止める。
「あ、そこの調理場にいたコック」
「は、はい」
「俺が魔力水に魔力を通すから合図があったら少しずつ片手鍋の液体を入れてくれ」
「わかりました」
ラティアンの実は上級素材だけあって、扱いも難しい。
ここからは時間との勝負。
最高の解毒ポーションを作るには片手鍋の液体が特定の温度のうちに終わらせないとダメだ。
俺は作業台の上のボールを両手で挟むように構える。左手から右手に円を描き右手に抜けていくイメージで魔力水に魔力を通す。
この魔力操作が行える者だけが錬金術師として食べていけるそうだ。
慣れるまでは円ではなく、直線で左手から右手に抜ける方法でもいいが、魔力水と他の物を循環させて混ぜ合わせる際に棒で混ぜると品質が落ちてしまう。
そのため円が描けて一人前、直線だと半人前だ。
「よし、いいぞ」
片手鍋の赤い液体が透明な魔力水に触れると、緑色の液体に変化する。見た目最悪な色だな……。
本当に飲んで大丈夫か?
目を凝らすと詳細がわかる。
『ワイルドスネークの解毒ポーション(改)』
材料が違うからな……。
「よし、もういいぞ。完成した」
ボールに手を入れてそれぞれの体に振りかける。白い煙が上がって毒が抜けていく。
最終的には内側から治すために飲ませるが、誰もワイルドスネークの毒に侵されたゾンビ人間に直接手を触れたがらなかっただけだ。
俺もゴム手袋を着用すれば、飲ませてやれたけど、代わりになるような物もないし仕方ない。自分で飲めるレベルまで回復させてやる。
コップに解毒ポーションを注いで配る。
すげぇ効き目だな。
自分で作っておいてなんだが、不思議だ。
飲んだら皮膚の爛れが治った。
体力回復ポーションで怪我が治るんだから皮膚が修復されてもそういうものだと受け入れるしかないか……。
俺は食堂に置かれたお金を見るが、この世界の貨幣を初めて見た。スロットのメダルを二枚重ねた感じだ。価値は何となくわかるけど、めちゃくちゃ多いわけじゃない。
盗賊は全員男。一人ずつステータスをチェックすると数人を除き犯罪歴という枠がある。窃盗、恐喝、傷害、詐欺と多数あるが、殺人をした者は誰もいない。
俺はクマ経由で五人葬っているが、犯罪歴は付かなかった。
犯罪者だから国に突き出したいが、下手したら俺の方が追われている身だ。
どうしたものか……。
「俺もアニキのように頭を丸めて罪を償います!」
「はっ?」
盗賊のボスの言葉に暫し意味がわからなかった。
この世界でなぜハゲがこんなにも避けられているのか。
それは犯罪歴のある者が悔い改める場合に、奴隷落ちした上で頭を丸めるそうだ。
つまり俺は犯罪者のレッテルを張られた奴隷だと勘違いされている。
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《リーカナ王国:王様》
「ルフプーレとチェルはおるか?」
「「お呼びでしょうか」」
「勇者の教官を頼めぬか?」
「我々の任務は近衛隊を指揮し、王様をお守りする事です。壁の補修工事で多くの業者が城に出入りしています。そんな時に隊長と副隊長を欠いては近衛隊が機能しない恐れがあります」
「こんな時だから勇者の力が必要なのだ。わかってくれ」
「「はっ!」」
二人は顔を見合わせてから了承した。
四人の勇者と話してみると、相手を敬う事を知らん。あのような者たちは一度鼻っ柱をへし折った方がいい。
どれほど勇者が強かろうと、所詮はまだ赤子。
近衛隊のツートップには敵うまい。
余に泣いて詫びる姿が目に浮かぶ。