共闘①
ファーナムの作ったお茶は緑色でニオイは柑橘系で悪くない。
「ゴンザスの奥さんが薬を煎じてくれたぞ」
「師匠の……奥さん?」
翼たちの家に舞い戻り、声をかけた。
翼たちは辛そうに顔をあげてファーナムを見る。
「これを飲んだら、二日酔いはすぐに良くなりますよ」
ファーナムが一人一人の手にお茶を配った。
俺ならテーブルに置いて『さぁ、飲め!』で終わるな。
「うえー」
一口飲んだ翼が変な声を出した。
実はさっき興味津々のシルが味見して『にがーい』と言ってコーン茶で口直しをしているのを見ている。
「全部飲まないと、治りませんよ!」
ファーナムが飲むのを中断した翼たちを見兼ねて怒った。
なんかファーナムが怒ると、子供の頃にお母さんに叱られた記憶が甦る。
俺は翼たちがお茶を飲み終えるのを見届ける前に建物から避難した。
「あれって何で作られてるんだ?」
翼たちのプライベート空間に許可なく入らない律儀なゴンザスに聞く。
「あれは薬草の葉を煎じて、飲みやすいようにオレンジで香り付けしたものですよ。薬草の葉のエキスが体内のお酒を除去してくれます。俺も隊長時代にはよくお世話になりました」
「へぇー」
ゴンザスと世間話をしていると翼たちが建物から出てきた。お茶を飲んでからおよそ一〇分で動けるまでに回復。
俺の期待した錬金術でも、調薬でもない。ただの民間療法だが、素晴らしい効能だ。
完治にはほど遠いけど、薬草の葉の新たな活用法を目の当たりにした。
ちなみにオレンジは果樹園に実っている。
「おっさん、すまねー。鍛練をサボっちまったわ」
「知ってる。二日酔いはもういいのか?」
「師匠の奥さんのおかげでなんとかな。あー、辛かった。もう一生酒は飲まねー」
俺と翼の会話に盗賊たちを中心にドッと笑いが起こった。
「みんな同じセリフを吐くんだぞ。そしてまた馬鹿みたいに飲むんだ」
俺が言うと盗賊たちが頻りに頷いている。
これが人生経験の差だな。
「ファーナムの紹介は今更いらんだろ。もう一人、向こうで果樹園の世話をしてるのが、元魔王のマーニレだ。仲間にしてきた」
「アイツか……。俺たちが倒そうとしていた魔王って、どんだけつえーんだ?」
魔族慣れして『元魔王』と聞いても動じなくなったな。
「戦闘してるところを見たいか?」
「ああ、見てー」
翼の要望で午後からのランク上げを中止し、ゴンザス対マーニレの一戦を観戦する事にした。
のだが……。
「もっと真面目にやれ!」
いや、ゴンザスは真面目にやってるぞ。
刃を潰した模擬戦用の剣を使っているから大事に到っていないが、寸止めをしないマーニレの容赦のない事……。
せっかく高い耐久値もマーニレのほぼ同じ筋力値相手ではその効果は薄いようだ。
ダメージが確実に蓄積されていく。
しかも、シルの敏捷が五〇〇台で高かったはずだが、ステータス二倍になったマーニレは七〇〇台に到達。
動きを捉えるだけでも一苦労だ。
「相手の早さに慣れろ!」
「はい!」
「ロリコン、回復してやれ」
「【ヒール】」
実戦さながらの訓練に、救護班として待機。三〇分間に一〇回も回復を行った。
今までは回復なしで痛みがあっても戦闘する根性を養っていたが『回復魔法があるなら本気で殴れる』というマーニレの考えだ。
そうは言うが、結構痛いぞ。
「これが魔王の実力かよ」
「急所は避けてるようだし、練習相手には申し分なさそうだな」
ただし普通の奴なら、強くなる前に心が折れる。
「俺もたまには鍛練に参加するかな。【サンド】」
槍を模した棒を作った。
「マーニレとシルの共闘でいいぞ」
「へぇー。やっと積年の恨みを晴らせるのか……」
積年の恨みってほど、出会ってから日が経ってないぞ。
「シロウが相手なら本気でいくよ!」
観客席に座っていたシルが立ち上がって服を脱ぐ。
ニヤリと笑顔を作り体が変化した。
「「あれがシルちゃん?」」
一際大きな声を出したのは、志穂と美穂の二人だが、初めてシルの戦闘形態を見て、どよめきが走る。
「ボスクラスは変身が定番だよな」
「だな。まさかシルさんが大人になるとあんなにグラマーな美人とは予想外だ」
和哉と翼が呑気に会話を楽しむ。
「アニキ! 魔族って変身するんですか?」
「そうだぞ。この状態にならないとステータスを完璧に引き出せない」
元近衛隊隊長でも魔族が変身できる事を知らなかったようだ。
ステータスに差があるから拝む機会がないのも無理もない。
「シルヴァーンが本気なら、俺様も本気でいくぜ」
マーニレも続いて変身した。
「肉体よ、更なる強化に応じよ! 【エンチャントパワー】」
おいおい。
補助魔法でマーニレの『筋力』が一〇〇〇を超えたぞ。
開始の合図を待たずにマーニレが突進してきた。
シルもそれに合わせて側面から迫る。
「魔法有りなのか? 【ウォーター】」
正面のマーニレに向けて左手の指先から鉄砲をイメージした水弾を発射させた。
すぐに反応したマーニレが水弾を剣で迎撃しようと振り下ろしたが、散弾銃のように弾が分かれる。
そのままなす統べなく後ろに吹き飛んだ。
「咄嗟に放った魔法だから、収束が甘かったな」
「えいっ!」
シルの横薙ぎを柄で受けた。
これでは共闘ではなく、二人が勝手に闘っているだけだ。
「ロリコン、隙ありだ」
あれ? お前吹き飛んだはず……。
なんで、そこにいる?
右にシル、左にマーニレ。
マーニレが刺突しようと剣を突き出す。
俺は棒の先端で剣先を受け、そのまま力に逆らわず、逆側の先端でシルのお腹を強打する。
今度はシルが吹き飛んだ。
「何だよ、今の……」
マーニレが攻撃の手を止めた。
「マーニレの一撃を無力化してシルに攻撃した。ただ……シルも腕を上げたな」
俺はシルがいる方に声をかける。
シルは自分から後ろに飛んで強打を受け流した。
「うふふふふ♪ シロウに好かれるためにね、私だって努力してるのよ♪」
ノーダメージとはいかずとも、そのまま次の戦闘に支障がない程度にはダメージを抑えた。
それに魔力を使えば傷は癒えるので、消費魔力量が減った事を意味する。
その結果、戦闘継続時間が劇的に延びる。
「「せーの。シルちゃん、頑張れ!」」
「ありがとう♪」
志穂と美穂の声援に、手を振って笑顔で対応した。
ギャラリーを味方につけて何してるんだ。
「これが『第一級』の強さか……」
「今のは先に飛び出したマー君のせいで失敗したんだよ? わかってる?」
「わかってるよ。今度はきちんと共闘する」
マーニレとシルが作戦会議に入った。
初のタッグ戦だし、それぐらいは仕方ない。




