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昔の肩書きは捨てました。

 朝早くから活動を始めたおかげで、なんとか午前中の内に拠点に到着する事ができた。


 壁を飛び越えて広場に降り立つ。


「ただいま!」


 ティリアとチェルツー、盗賊たちがいつも通り鍛練をして汗を流している。


「おかえりなさいませ、ご主人様!」


 ティリアの弾けるような声が届いた。

 三日会わないだけで、翼か和哉に入れ知恵でもされたかな?


 さすがに志穂や美穂って線は考えにくい。

 王女ならメイドや侍女の真似事ぐらいできるか?


 何だかむず痒い。


 盗賊たちはティリアの速度に一歩出遅れて静かに会釈するだけだ。


 広場の中央でゴンザスとファーナムを下ろした。


「ゴンザス共々よろしくお願いします」


 むしろ、ゴンザスにお世話になっている者が多すぎて、そのあいさつにみんなが恐縮してしまう。


 一人で笑っちゃいそうになったが、ゴンザスの困り顔が見れたので、ぐっと我慢した。


「ところで、翼たちは?」


 隣にいるティリアに確認をする。

 コックがいないのは、みんなの昼飯のためだろう。


「ツバサさんたちは……」


 視線が翼たちが寝泊まりする建物に向く。

 もう昼だぞ。


「俺たちがいないからって、あいつらサボり過ぎだろ……」

「あっ! ご主人様!」


 俺は翼たちの家の扉をノックなしで勢い良く開けた。


「酒くさ!」


 部屋中にお酒のニオイが充満している。

 これはすぐにでも換気が必要なレベルだ。


 俺は居間の椅子で二日酔いに苦しむ四人を放置して、窓を開ける。

 スライド式のガラス窓ではなく、木の板を押し開けるタイプだ。


「やっと呼吸ができるな……」


 空気がうまい。


「ツバサさんたちの名誉のために言いますと、昨日はきちんと鍛練に参加してました。午後からのモンスター討伐も積極的に取り組んでいます。それと、とうとうランクが一つ上がり、Eランクになりました!」


 へぇー。Eランクね。

 昇格祝いでもしてたんか?


 俺は今にも吐きそうな四人を順番に見る。


 どうするかな……。


 ん? テーブルに飲みかけのお酒が置いてあった。

 コップを鼻に近付けてニオイを嗅ぐ。

 これは……。


 少し口に含んで味を確認する。

 理由は知らないが、翼たちも酸味の少ないお酒を見つけたのか。


 ただし、飲む量を間違えて、二日酔いになった。

 馬鹿らし……。


「頭いてー」


 翼が俺に気が付いて縋るように手を伸ばす。

 俺はあっさりその手を払った。


「自業自得だ!」


 自分の飲める量を把握していない若者に有りがちな過ちを犯している。

 娯楽が少ない。だから『酒を飲むな』とは言わん。

 精々苦しんで、そこから学べ。


 それも人生だ。


「連日飲み明かして、鍛練をサボるようなら咎めるが、今回は大目に見る」


 俺はティリアを連れて家を出た。


「アニキ、ツバサたちは大丈夫なんですか?」

「ただの二日酔いだ。心配ない」


「ファーナム、二日酔いに効くアレを作ってやれ」

「はい!」


 ゴンザスがファーナムに指示を出す。


 本当は俺の【キュア】を使えば、一瞬で状態異常を治せるはずだ……。


 でも、二日酔いに効くアレ。

 錬金術かな? 調薬かな? 気になる。


 二日酔いや風邪の時に看病されると、感謝の度合いが違う。

 これは下手に俺が出しゃばらない方が翼たちと仲良くなれるか……。


「奥さん、お久しぶりです。何か必要な物はありますか?」


 食堂の建物からコックが出てきた。

 昼時だからみんなを呼びに来たのか?


「えっ? なんで御子息様が、こちらに?」

「昔の肩書きは捨てました。今は名前はなく『コック』と呼ばれています。気が付いていないようですが、あちらにおられるのは『ティリア姫』ですよ」

「…………姫様!」


 ファーナムが俺の後ろにいるティリアを見て、コックを見た時以上に驚いた。

 俺はそれ以上に驚いている事がある。


 コックてめぇ、ファーナムの扱いは俺より上かよ!

 ティリアは許せるぞ。姫だしな……。


 ファーナムがティリアにどうやってあいさつをしようか悩んでいる。

 俺はティリアの背中を押した。


「ファーナムさん、お久しぶりです。私も昔の肩書きを捨てました。ですので、身分は気にしないでくださいね」

「ですが……。そういうわけには……」


「それに今はこちらの男性に危ないところを助けて頂いたご縁で、お仕えさせてもらっている最中です」


 ティリアの社交的な口調も気になるが、それ以上にファーナムの視線が突き刺さる。


「ここには色々な奴がいる。人間もいれば、魔族もいる。お互いにお互いの身分を主張し出したら歩み寄れないぞ」

「そういう事ですよ! ここにいる間は肩の力を抜きましょ」


 姫モードわずか二分足らず。

 ティリアは力が抜けるまでが早すぎだ。


 もう少し何とかならんのか。


「わかりました」


 ファーナムが二日酔いに効くアレを作りに食堂に歩いていった。

 他のメンバーも昼飯時なので、ぞろぞろ後に続く。


「シロウ、マーニレはどうする?」

「ごめん、すっかり忘れてた!」


「ロリコン、俺様の頭に注目」

「ん? おー、角の修復おめでとう。丸一日も経ってないのに早かったな」


 お風呂だと皮膚から魔力を摂取するが、やはり直接口から取り込んだ方が早いようだ。

 お風呂の時間は短時間だし、比較対象が少し違うか。


「全く驚かねー。さてはリーレンの奴も知ってやがったな……。それにものすげぇパワーアップをしてるぞ」

「俺が《勇者の加護》を与えた。ステータス二倍。お前の仕事場は向こうだ。ついでに柿の種を植えるから付いて来い」


 果樹園に移動した俺は地面に指を刺して穴を空け、柿の種を植えていく。

 最後に【ウォーター】で出した魔力水をかけて成長を促す。


「まさか、今植えたやつが育つのを待つのか?」

「そうだが、きっと俺の【ウォーター】の水を与えれば、数日で育つだろ。その間は他の果物を食べて楽しめ」


 俺が柿の種を一〇粒植えてる間に、鳥たちが静かになった。どうやら鳥たちはマーニレに『支配』されたようだ。


「鳥たちに果物を与えてもいいが、トイレは拠点の外でさせてくれよ」

「んじゃ収穫でも手伝わせるか。邪魔な檻を解除してくれ」


 俺は鳥たちの侵入を防いでいた格子の繋ぎ目を砂に変える。

 一辺ずつアイテムボックスに仕舞った。


「あと水撒きもするから、デカい樽に水を出しておけ。それとリーレンとの約束だ。鉄壁野郎の手が空いたら教えろ。すぐに稽古をつけてやる」


 生意気だが、人間より魔族の方が信用できるんだよな……。

 不思議だ。

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