先手必勝
人が死にます。
苦手な方は飛ばしてください。
《魔王軍四天王:マキナーゼ》
姿を認識させにくく出来ても、実際に気配まで断てるわけではない。
だから話に夢中でこちらに気が付いていない今がチャンス。
オレはリーに振り返り『首を斬る』ジェスチャーをして尋ねる。
リーが頷いたので、戦闘開始だ。
先手必勝。
鞄から新作の小瓶を八本取り出し、上に向かって放り投げる。
全てが同時にとはいかないが、地面に小瓶が落ちた瞬間が合図だ。
ガラスが割れる音が響いた。
「何事だ!」
「罪人を水の牢に閉じ込めよ! 【ウォータープリズン】」
「ぐっ」
リーの水魔法。
処刑のために対象者を水球の牢に閉じ込める魔法だ。
優に三メートルはあり、頭まで水の中に入ってしまうため、早く脱出しなければ、溺死する。
強い力が加わるとすぐに破られてしまう欠点はあるのだが、中からでは水の抵抗が激しく難しい。
茶髪男が水の中でもがくけど、水牢は対象者が水球の中心に来るように形が変化する。
リーの方は大丈夫か……。
小瓶のおかげで立っている奴は三人。
ステータスが一定値を超えてると全然効かないようだな。
オレは茶髪男が手放した『火炎の斧』を拾う。
「斧の回収ミッションは終了。続いて目撃者の排除に移る」
「お前たちは何者だ!」
「これから全員死ぬのに教える必要があるのか? 炎よ、オレの敵を燃やせ! 【ヘルファイア】」
リーを狙って近付いた男に火魔法の中級をお見舞いする。
おっさんと『絶対服従の誓い』をしてから、魔法の制御がとても楽だ。
ただし、魔力量をかなり抑えたつもりだが……。
「ギャア……」
一瞬で炎に包まれ、末端部位からみるみる消し炭になっていく。
これなら【ファイア】でも充分だったか?
「てめぇ、わかってんのか。今のは殺人だぞ!」
「魔族と人間の『友好の証』に手を出して……よく言うぜ」
ゴン太は『火炎の斧』が『友好の証』と知らずにリーに返却してきた。
本来その行為は『友好の破棄』を意味する。
「ま、魔族だと?」
「死をもって償え。はっ!」
茶髪男と一緒にいた男に向けて、オレは『火炎の斧』を振り下ろす。
「やばっ! 余計な事を考えてたら魔力を込め過ぎた!」
斧から一〇本の火炎が飛び出し、放射状に伸びていく。
火炎は使用者が敵と認識している相手に自動で向かって進む。
「火から俺を守りたまえ! 【ウォーターシールド】」
意識がない人間共も含めて火炎に飲み込まれ、火柱が一〇本上がる。
そんな下級の防御魔法では『火炎の斧』は防げない。
すぐに保護膜ごと燃え尽きた。
「事前に『派手な魔法』は禁止したはずですよ」
「ごめん! つい……」
「火炎の道を消火せよ! 【アンチファイア】」
ファイアと名が付くが歴とした水魔法の一つ。
火を消すのに特化した魔法で相当魔力を消費するけど殺傷力は皆無。
「ま……て……」
「【アンチファイア】を使ったせいで、水牢が解除されてしまいましたか……」
茶髪男が地面に這い蹲り、意識朦朧の中で、リーに話しかけた。
オレは死んだ者の武器と回収し易い盾類を集める。
思わぬところで、いい素材が手に入った。
これで鍛冶ができるな……。
「マキナ、前!」
「えっ? いってー」
慌てて横に跳んだが、左腕を浅く斬られた。
オレのステータスは『賢さ』よりだから、不意打ちを避ける『敏捷』は持ち合わせていない。
その上『耐久』も高いわけじゃないから、腕が切断されなかったのは助かった。
いったい誰だ?
オレは左腕を押さえながら、相手の顔を確認する。
コイツは確か……。
さっき小瓶の魔素を吸って倒れていた一人だ。
手に持つ剣は赤く染まり、全身血だらけ。
立ってるだけで満身創痍の男だ。
どこにこんな力が……。
「なるほど。起きるとバーサク状態になるのか……」
オレとリーはすぐに距離を取るため、空へ飛び立った。
茶髪男やトドメを刺しきれていない者もいたが、目覚めた途端、勝手に殺し合うなら必要ない。
「『火炎の斧』以外の装備品の回収はミッションにありませんよ。人間相手とはいえ、油断するとは……。体力回復ポーションを飲んで傷を治しなさい」
「すまん……。でも、これ……リーのお気に入りの……」
いつも持ち歩いてる真っ赤なポーション。
「またシロウ様に貰うからいいですよ」
万全の状態じゃなかったから、守れませんでは護衛失格だ。
オレは蓋を開けて、ポーションを一気に飲む。
「うわ、あっま! なんだこれ……」
空になったポーションの容器をまじまじと見る。
これがおっさんの作ったポーション。
左腕を怪我したのも忘れるぐら……。
「あれ? 痛みがない」
オレは急いで袖を捲る。
「傷もない。もう治ってる……」
「作成者と魔力波長が同一なので、通常のポーションより効き目が高いのでしょう。マキナは遊んでばかりいたらゴン太様にも負けますよ?」
「うっ……」
再びリーが『友好の証』を渡す時、オレはゴン太に勝てるだろうか……。
――――――――――
「ゴンザスの妻をしてました、ファーナムと言います。これからよろしくお願いします」
してました?
過去形?
リーとマキナを見送った俺たちは取りあえず奴隷から解放されたファーナムを馬車に乗せて、来た道を戻る。
その道中にファーナムがあいさつをした。
「九年間の恨みを込めてゴンザスを殴ってもいいぞ。何なら俺が代わりに殴ってやる。その時は言ってくれ」
「アニキ! 何を言い出すんですか!」
「あなたは?」
「俺は山田四郎。この世界に召喚された勇者の一人だ。そしてハゲてるせいで、リーカナ王国の王に罵倒されて、復讐の機会を狙ってる」
「えっ?」
「っというのは冗談で、自由気ままに生きる事にしたCランク冒険者だ」
「アニキ……。自己紹介が適当過ぎますよ。何が『Cランク冒険者』ですか……」
「嘘じゃないぞ。ギルド証を見せるか?」
ゴンザスとの出会いから今日までの話をした。
翼たちの話はしたが、魔族たちの話はまだしていない。
「なぁ。まだ話は続くのか? もらった水は全部飲みきったぞ」
マーニレが水筒を振って、空アピールをしている。
「今補充する。【ウォーター】」
水筒の上に指を置き水を出した。
「頑張って御者をしている俺様に柿をくれ!」
往復四時間はさすがにキツいな。
それぐらいの要求は飲むか……。
俺はアイテムボックスから柿を取り出した。
「あ、私がむきますよ?」
「はい、果物ナイフ」
「ありがとうございます」
シルが果物ナイフを渡すと、ファーナムが柿をむき始める。
「お前すごいな。揺れてる馬車の中でも手際がいい」
柿の皮をむいただけで、マーニレの目が輝いた。
そしてファーナムが爪楊枝に柿を刺してマーニレに食べさせる。
「御者、ご苦労様です」
「うめー」
「マーニレ……」
「あー、すまん。ファーナムだったか? ありがとな」
俺が声をかけると、きちんとお礼を言った。
こいつ、早くもファーナムに心を開いてないか?
「紹介がまだだったが……御者をしてるのがマーニレ。こっちの幼女がシルヴァーンで愛称はシル。どちらも魔族だ」
「よろしくね、ファーちゃん」
「えっ?」
柿を食べさせていたファーナムの動きが止まり、馬車の揺れで柿が爪楊枝からダイブした。
「あぶねー。貴重な柿を落とすなよ」
マーニレが落下中の柿を左手でキャッチして、そのまま口に放り込んだ。
「すみません。驚いてしまって……」
あとは魔族の注意事項を軽く話した。
故意に嫌がらせをしなければ無害だ。
「おい、ロリコン。もうすぐ街に着くぞ」
「ロリコン?」
昨日あまり眠れなかったらしいシルを抱っこして、馬車の揺れを軽減してたら、マーニレが爆弾を投下してきた。
打ち解けてきたのに、ファーナムがこちらを睨む。
「俺はロリコンじゃないぞ!」
「シルヴァーンを愛でてる時点で説得力はないぜ」
「……敵対するよりはいいだろ」
冒険者ギルドに馬車を戻す。
シルが『お爺ちゃんに文句を言ってくる!』と言ったが止めた。
下手に詳細を調べられて、奴らが生存してなかった場合、余計に面倒だ。
西領を去る前にマーニレを黙らすため、柿屋であるだけ追加購入をしておいた。
シルがマーニレを、俺はゴンザスとファーナムを運ぶ。二人用の背負子は重かったが、奴隷でやせ細ったファーナムは誤差の範囲。
二泊三日の小旅行を終え、やっと拠点に帰ってきた。




