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リーちゃんは三日ぐらい拗ねたらスッキリする子

 宿屋の前には二頭立ての幌馬車が停車していた。

 馬車を見ると旅って感じがする。


 御者席を除くと、座席は三列あり、一番後ろに荷物を置くスペースがあった。


「私はまだファーナム様にお会いしに行く事は認めてませんからね!」


 一度は折れたんだが、シルとマキナの顔を見た途端、リーの中に眠る魔王の血が目覚めた。

 家族に向ける顔と会社の部下に見せる顔が同一じゃない。そんな感じだ。


 昨日の今日で意見を覆すわけにはいかないんだろう。

 だから、三ヶ月後に会いに行く事は納得できても、今ではないと主張し続けている。


 どうしようかな。


「リーちゃんは三日ぐらい拗ねたらスッキリする子だから、気にしなくていいよ」

「シル!」


「あまりシロウの前で子供みたいに駄々を捏ねると嫌われちゃうよ?」

「シロウ様には責任を取ってもらう約束をしたからいいんです!」


 確かに言いました。言質(げんち)を取られた感じか……。


「リーって本当におっさんに心酔してるよな。オレなら簡単に諦めてるわ」

「私をマキナと一緒にしないでください!」


 ムスッとしながらも頬が赤い。

 一度は諦めた自分を思い出しているのだろう。


 マキナとしてはリーが元気ならそれでいいようだ。一列目に座るマキナが二列目に座る俺たちを見てニヤニヤしている。


 馬車に揺られて、隣街を目指す。

 飛べばすぐだが、大所帯になったため、馬車で移動。


 リーとマキナとマーニレがどうやって門番を通過したか……。

 それは俺たちみんな魔力波長が一緒なんだ。

 普通は他人のギルド証ではギルドマークが光らないため使用不可。


 俺とシルのギルド証をこっそり五人で回して使った。

 Cランク冒険者という肩書きはそれだけで検査を甘くする。


「でもよ、ゴン太の奥さんってさっきの街の住民じゃなかったのに、人間共はどうやって居場所を突き止めたんだ?」


 ゴンザスがその話題にそっぽ向いた。

 自分で言うのは恥ずかしいよな。


「普通に『赤斧の英雄』のために住民が連絡を取り合ってたぞ。その延長じゃないのか?」


 俺も詳しい事は何も知らない。

 これは単なる避難所での情報だ。


「お爺ちゃんがね、近隣の冒険者ギルドに連絡をしてくれたの!」

「お爺ちゃんって事はギルド長か……」


 街の中を捜す事を縦の繋がりとするなら、別の冒険者ギルドに連絡を取って調べた爺さんは横の繋がりを駆使したと言える。


 俺たち爺さんに足を向けて寝られないんじゃ……。


「そんな事よりマキナはシロウ様に迷惑をかけたんですよ。少しは反省しなさい!」


「迷惑? 俺は別にマキナに迷惑をかけられた覚えはないぞ? むしろマキナのおかげでファーナムを見つける手掛かりを得て感謝してるぐらいだ。なぁ?」


 御者席の隣に座るゴンザスに同意を求める。


「はい。あれがなければ西領に訪れるのは何ヶ月、いえ何年後になっていた事か……」


「実はよ。オレ、ゴン太に奥さんがいる事知らなくてイタズラだったって言っても許してくれるか?」

「「…………」」


 魔核の爆竹に続き、あれも……?

 帰り際に何かしてくるとは思っていたが、あれがイタズラ……?

 嘘だよな?


 街一つの命運を左右するレベルの壮大なイタズラに発展してるし。


「やっぱりマキナちゃんのイタズラだったか……。置き手紙の内容を聞いた時から変だなとは思ってたんだよね。マキナちゃんが師匠の奥さんの存在を知ってるはずないもん」


「さすがにシルは騙せなかったか。次回に期待だな」

「うん! 楽しみにしてるよ」


 二人が楽しそうに笑う。

 なに通じ合ってるの?


「少しは反省しなさい!」

「はーい。反省してまーす」


 ダメだ。全然反省してない。これは絶対にまた繰り返すパターンだ……。


「シルにも見せたかったな。二人ともすげぇ食い付きで面白かったぞ」

「「…………」」


 なぜだろう。

 子供のイタズラなのに無性に殺意を覚える。


「マキナ!」

「はーい」


 リーが大声を出すと、マキナがお口にチャックの動作で静かになった。


 五分後、マキナがお口チャックを開く動作をする。

 最後まで開くと『パカ』っと音を出して開口した。


「もう一つ気になってた事があったんだった」

「……なんですか?」


「リーまだ怒ってるの?」

「当たり前です! 全然反省してないじゃないですか!」


「お説教なら今度聞くよ」

「マ~キ~……」


 リーがマキナを叱ると話が進まん。

 リーの小言を手で制する。


「マーの野郎が街を攻撃してただろうけど、どうしてわざわざ手前の街に進路変更をしたんだ?」


「シロウは目の前のモンスターを無視できなかったんだよ」

「ん? どういう事?」


「シロウの建てた棒あったでしょ?」

「あぁ」


 棒ってほど細くはないが、あの三角形の建造物だ。


「最後の最後で進路が左に逸れてたよ」

「…………」


 目印のチェックをする前にモンスターに襲われている街を見つけたから、てっきりその街が目的の街と勘違いしていた……。


 だから……『回避する可能性がある』とか言ってたのか……。

 でも、角度が一度でもズレれば目的地まで数キロはズレる事もあるぞ……。


「ところでよ。なぜ俺様が馬車を操らないとダメなんだ?」

「マーニレは定期的に渡した水を飲んでおけよ。ゆっくりだぞ」

「俺様の話を聞けよ!」


 よく考えたらマーニレはマキナのイタズラの最大の被害者だ。


「あとで柿を追加購入しようかな」

「俺様、何でもできるから、任せろ」


 マーニレの扱いがわかってきた。


 二時間馬車で走ると次の街が見えてくる。

 この区間の移動は徒歩が主流でわざわざ高いお金を払って馬車を使う人は少ない。


 さっきと同じ要領で門番の審査をパス。

 街の中は人通りが激しいため、御者を俺に交代した。

 初体験だが、全知全能が全て教えてくれる。


「あの右の建物だな」


 マキナが一つの建物を指差す。


「ここは?」

「奴隷商館らしいぞ」


 やはりファーナムは奴隷だったか……。

 ティリアの予想通りだ。


 ずっと売れずに奴隷商館にいたとは考え難い……。流れ着いて今はここにいるという事か。


「値段を聞いて、それから考えよう」

「……すんません」


 奴隷商館だ。さすがに見た目が子供の魔族を引き連れて建物に入るわけにはいかない。

 みんなには馬車で待機してもらう。


「何か用か?」


 俺とゴンザスが代表で建物に近付くと、玄関先の掃除をしていた男に声をかけられた。

 魔族四人は馬車から成り行きを見守っている。


「こちらにファーナムという女性がいると伺ってきたんですが……」

「またファーナムか……。さっき『赤斧の男』が引き取りにきたぞ」

「「…………」」

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