シロウ様のため
「シルの言う通り、宿の部屋割りはリーとマーニレを同室にしたぞ」
「さっきマキナちゃんが魔力波長を探って戻ってきたよ」
「報告ありがとう」
ゴンザスを避難所に捜しに行った帰りにシルがマキナの存在に気が付いた。
まさかマキナがこの街に来てるとはな……。
これで百人力だと思い、その場で声をかけようとしたが、シルが『まだ泳がせておこう』と言うので、気が付かなかったフリをした。
隠し事は得意じゃないけど、お互いにマキナの話題を出さないのだから、関係ない。
「リーちゃんを救ってよ?」
「任せろ!」
シルに抱えられた俺は三人が密会してる現場に窓を開けて突撃した。
部屋の場所は通路を挟んで向かい側だが、扉に鍵がかかっているのは知っている。
だから『周辺地域をモンスターボックスへ反映』してモンスターボックスで窓の位置はチェック済みだ。
「シロウ様?」「おっさん?」「ロリコン野郎?」
「ほら、三人とも床に正座しろ!」
「リーちゃん、マキナちゃん、ごめんね」
「「シル……」」「俺様は無実だぞ」
「マーニレも連帯責任だ」
「…………」
三人とも渋々正座をする。
「さて、俺に何か言う事はあるか?」
ベッドに腰を下ろし、三人の顔を順番に見た。
左のマキナは微妙な顔。
真ん中のリーは真剣そのもの。
右のマーニレは『俺様は関係ない』と外野気分。
「シロウ様! 全ては私が悪いのです。二人に罪はありません」
「それを判断するのはリーじゃない、俺だ」
「ゴン太様の奥様をマキナに捜させましたが、発見する事はできませんでした」
「ゴン太の奥さんはもう少し先の街にいたぞ」
「マキナ!」
「いや、おっさんに隠し事したっていい事ないから……。リーの毎日苦しむ顔を見るぐらいなら、最初からおっさんに全てを打ち明けて、おっさんを悪者にするつもりだったし」
確かに以前マキナにはそんな事を言ったな。
「それでいいぞ。マキナは釈放だ。ご褒美に柿を三つ贈呈する」
「やったー! って渋!」
手渡した瞬間、トマトを食べるみたいに皮ごとかぶりつく。
「それは外れだ」
二割を引いたか……。
持ってるな。
「その果物は皮をむいて食べるんだぞ」
「そういう事は早く言えよな」
言う前にかぶりついただろ……。
それに柿屋でリーたちが柿を食べてるところを目撃してなかったのか? 柿って皮をむいても同じオレンジ色だからな……。
シルがマキナに果物ナイフを渡す。
入り用だと思い、柿を貰った後に購入した。
「俺様は無実だ」
「ほー。何か白状する事は?」
マーニレと目が合う。
こういう時は逸らしたら負けだ。
「フンッ! どうせ全部知ってるんだろ? リーレンに角の返却を迫るように言った。見返りに鉄壁人間を鍛えるようにリーレンに交換条件を提示されて了承した」
「マーニレ!」
そこまでは知らなかったな。
でも、マーニレがどこかのタイミングで角を取り戻そうとするのは予想できていた。
「そうか。シル、マーニレの角をくれ」
「はーい」
角は俺が一本、シルが一本持っている。
シルは鞄から角を取り出すと、俺の差し出した手に置く。
「マーニレ、一度しか言わないぞ」
「なんだよ」
「角を返してもらいたかったら、俺の仲間になれ」
「おいっ! 俺様を脅すのか?」
「もともと捕虜だろうが……。次はないぞ?」
「…………」
睨んでくるだけで、俺の要求に応じない。
どうしよう。
「本当に二人とも頑固だよな……」
「魔王はね、みんなの意見を聞いて判断するから、簡単に流されたらダメなんだよ。おっさん、二個目は当たりだった」
マキナは柿に夢中かよ。
お気楽なものだ。
「マー君、怒られてるのにチラチラ柿を見てるよ」
言われてみれば、マーニレは柿に出会ってから柿の事ばっかりだ。
「よーし。なら毎日柿を食べ放題。俺の果樹園にある他の果物もな」
「本当か?」
すげぇ食い付き。
魔族領には果物がないのか?
魔素が充満して空がくすんでるって言ってたな。まともに植物が育たないのかも……。
「男に二言はない。ただし、お前には『支配』の能力を使って果樹園の外敵である鳥を手名付ける任務をしてもらうぞ」
シルが思い付いたマーニレの利用価値だ。
俺の悩みの種がマーニレの能力で解決する。
「でも、三ヶ月経たないと……」
「それは何とかする。交渉成立だな」
俺は指を切ってマーニレに『絶対服従の誓い』をした。
角を二本ともくっつけると頭に収納されるようだな。服を着てて見えないが、バトルスーツや翼も吸い込まれたはずだ。
「マーニレも釈放」
「俺様にも柿をくれ!」
手を広げて差し出す。
「ほら、二個」
「マキナーゼは三個だったのに、どうして俺様は二個なんだよ! 不公平だろ!」
そこ?
「マキナより遅かった」
「…………」
マーニレは大人しく引き下がり、柿をむき始める。
「良かった。甘い柿だぜ。こっちはどうだろうな。よっしゃー。二個とも甘い」
大人しく食え。
「さて、最後に残ったのは一番頑固なリーだな……」
「シロウ様のためにした事です! ゴン太様には修練に励んでもらわなければなりません!」
シルが心配していた通りになった。
目には絶対に譲らない強い意志がある。
これは長期戦になりそうだな。
「シル、今日はリーと寝るわ」
「……うん。リーちゃんをよろしくね」
「任せろ」
俺はリーをお姫様抱っこして向かいの部屋に戻る。
部屋の鍵を閉めて、リーをベッドに寝かせた。
「私は悪いとは思っていません!」
あのリーが『シロウ様のため』と言ってるぐらいだ。
どんなに拷問をしても、折れる気はないだろう。
しかーし!




