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いつか獣王か竜王を

《魔王:リーレン》


 マーニレが珍しく食べ物を抱えて食べている。

 その所作は魔王というより、ただの食いしん坊。


「おじさん、もう一つもらってもいいかしら?」

「何個でも言ってくれ。………………ほれ、むけたぞ」

「ありがとうございます」


 シロウ様がお代をたくさん置いてってくれたから、屋台のおじさんが気前よく柿をむいてくださる。


「リーレン」

「どうしたのよ」


「こんなうまいもんがあったんだな。俺様はこの『柿』っていうのが好きだ」


 六つも食べれば、さすがに言われなくてもわかるわよ……。


「そうね。甘くて美味しいわ。マーニレは魔王をやめて、シロウ様に仕えたら?」

「俺様を慕う魔族がいるんだぞ。そんな事できるかよ!」


 口の周りに柿の汁を付けたまま言われても全く説得力がないんですが……。

 お気に入りのピンクの刺繍が入ったハンカチを渡しながら言う。


「でも、角のないあなたでは魔王に復帰は出来ないんじゃない?」

「リーレンの色仕掛けで、あのロリコン野郎から……」


 実際にはロリコンじゃないから、いくら私が色仕掛けをしても通用しないんだけどね。


「私が頼み込めばシロウ様は角を返してくださるでしょう」

「なら!」

「残念ですが、私はシロウ様を裏切るつもりはありませんよ」


 角を受け取ったら雲隠れしそうな状態ではマーニレに渡すわけにはいかない。


「どいつもこいつもロリコン野郎のどこがいいんだ?」

「それを見極めるために街の散策に同行してるんでしょ?」

「バレてたのかよ」


「そりゃあ、わかるわよ。あなたが『第一級』とはいえ、人間に興味を持つんですもの……」

「違う! ロリコン野郎が俺様の角を持ってるからだ」


「シロウ様はそんな小さな器ではありませんよ。いつか獣王か竜王を――」

「そんな事ができるわけがないだろ!」


 獣王、竜王、魔王と三大勢力と言われていたが、数世代前よりその勢力図は大きく崩れた。

 原因は亀裂。それまで脈々と受け継がれてきた魔王の血筋が分裂し、血が薄まったからだと言われている。


 そのため私が産む子供は私よりもさらにひ弱な魔王に育つだろう。だから、私は何としてもシロウ様の血を子供に授けたい。


「マーニレはシロウ様の攻撃を一度でも避けられましたか?」

「あれは完全な不意打ちだ! 油断さえしてなければ……」


「本当にそうでしょうか。私の配下で一番敏捷の高いシルがシロウ様には手も足もでないそうですよ。敏捷で翻弄しようにも逆に翻弄されるようです」

「フンッ! だが、敏捷だけでは奴らには勝てん」


「私の配下で一番……。いえ、魔族随一と言われるマキナが魔法対決で敗れた事は御存知ですか?」

「……いや、初耳だ。いったい誰に……まさか、あのロリコン野郎に?」


「はい。私も初めて聞いた時は、(にわか)には信じられませんでしたが、シロウ様の【ウォーター】に敵わなかったそうです」

「【ウォーター】に? そんな事あるはずがないだろ……」


「では、本人に直接聞いてみましょうか? マキナ、そろそろ出てきなさい」

「はい」


 私が背後に声をかけるとマキナが姿を現す。

 帰りの護衛要員にシロウ様の顔見知りを選出しておいて良かった。


「お前、いつの間――」


 私は軽く手を振ってマーニレの発言を止める。


「あの日、私に報告した事は事実ですか?」

「そうだ。おっさんはオレの【インフェルノ】を【ウォーター】で防いだだけじゃなく、あろう事か、その水でオレを溺死寸前まで追いやった」

「証明はこれで充分でしょうか?」

「……あぁ」


 マーニレがマキナの表情をジッと見つめ、小さく頷いた。


「マキナに確認したい事があります」

「なに?」


「あなたはゴン太様に奥様がいた事をご存知だったの?」

「……いいえ」


「はぁ……。またイタズラですか? シロウ様には迷惑をかけるなと、あれほど言ったではないですか……」


 イタズラ好きが玉に(きず)。これさえなければ、もっと優秀な魔族として名を馳せたのに……。

 もったいない。


「リーレン、こんな誰が聞いてるかわからないようなところで配下を叱るなよ」

「マーニレは黙ってて。マキナはその場で叱らないとすぐに逃げ出すの」


 私が怒るとマキナが頭を下げた。


「すみません。最初はイタズラでした。ですが、魔力波長が近い者がいる事は事実です」

「……わかりました。この件の処罰は一旦保留にしましょう。あなたは夜までにその者を調べて来なさい」

「はい!」


 マキナが護衛の任務を離れて西の空へ飛んでいく。

 やはり、この街ではなかったようですね……。


 それからすぐに三人が戻ってきた。


「ごめん、二人とも。ゴンザスが赤斧を持ってなかったから、不審者扱いされてたわ」

「遅くなってすんません」

「大丈夫ですよ。ゴン太様も柿をどうですか? 美味しいですよ」


「さっきまで怒ってたのに、変わり身の早い女だ」


 マーニレを軽く睨んでおく。



 夜の宿屋。

 シロウ様が二人部屋を用意してくれた。

 マーニレと同室というのが気に食わないけど……。


 マキナを呼び寄せるには都合がいい。

 部屋の窓を開けて、マキナを招き入れる。


「では任務の報告を聞きましょう。ゴン太様の奥様はファーナムというそうよ。見つけられましたか?」

「はい。ファーナムという女性はこの先の街におります」

「わかりました。マキナは先に魔族領に戻っていなさい」


「えっ? ちょっと待ってくれ。おっさんにこの事を報告しなくてもいいのか? もしそれでおっさんがリーに不信感を抱いたら……」


「ゴン太様には申し訳なく思いますが、あの方にはシロウ様を支える忠臣になってもらわなければなりません」


 今はまだその時ではない。


「俺様にその話を聞かせちゃまずいんじゃねーのか?」

「マーニレには角を返しますから、ゴン太様を鍛えてください」


「お前、俺様の話を聞いてたか? 俺様があの鉄壁人間の女の居場所をロリコン野郎に教えれば全てが片付くんだぞ?」


「今城に戻れば自分の身が危うくなるとわかってて戻るつもりですか?」

「ぐっ……。角が修復されるまでの三ヶ月間だ。それ以上は待たん。それが終わったらお前はロリコン野郎に全てを白状する。それが協力する条件だ」

「わかりました。三ヶ月間お願いします」


 これで三ヶ月の時を稼げた。

 お風呂に入れればもっともっと早く角の修復は終わるはず。

 それでもマーニレは魔王だ。約束を果たさない魔王はそれだけで信用を失う。


「あーあ。魔王の俺様が人間を鍛えるのかよ」

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