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今日のシル可愛い。

 俺は急いで冒険者ギルドに舞い戻る。

 さっきお金を貰った受付に行き、ゴンザスに言われた通り、両替してもらう。


 金貨一枚→銀貨一〇〇枚。

 銀貨一枚→銅貨一〇〇枚。


 金貨二枚分を銀貨と銅貨にした。

 一万円を全部一円玉にした感じ。金貨よりお金持ちになった気がする。


 両替で詐欺を防ぐには目の前で枚数を数えるのだとか……。

 海外旅行の気分だ。地味に枚数が多くてキツい。


 みんなと合流して食べ歩きを開始した。

 食べた事のない料理ばかりだから、みんな食べる食べる。


「シロウ、次はあれ!」

「いえ、シロウ様、次はあちらにしましょう!」


 俺はシルに左腕を引かれ、リーに右腕を引かれた。

 何かの童話であったな。左右から二人の母親に引っ張られた子供が『痛い痛い』って叫ぶ話。


 まさか子供役になる日が来るとは思わなかった。

 俺の場合は痛くはないが、それでも別々の方へ引っ張らないでくれ。


「さっきはリーの意見でグリーンリザードの尻尾焼きを食べた」


 グリーンリザードの尻尾は大人二人が手を繋いだぐらい太さがある。

 それをケバブの肉料理のように横回転させながら焼き、表面を削いで皿に盛る。味付けは塩胡椒だが、脂が多くて美味かった。

 しかし、その脂身が庶民には人気がないらしく、脂を少しでも減らす焼き方が考案されたようだ。


「次はシルの番だな」

「やったー! シロウ大好き!」


 シルが体当たりで抱きついてきた。

 他にも住民はいるんだぞ。

 引っ張られても平気だったのに、周りの視線が痛すぎる。


「わかりました。その次は私の番ですよ!」

「リーレン、残念だったな。次は俺様の番だ!」

「マーニレ……。私の邪魔をするとは……」

「へへーん。順番だぞ。じゅ・ん・ば・ん」


 マーニレの言う順番は確かに正しいが、絶妙なタイミングでリーの嫌がらせをするために使っているに過ぎない。


「ゴンザス、早く戻ってきてくれよ……。俺一人で三人のお守りは荷が重すぎるぞ」

「たまにいなくなりますが、ゴン太様はどちらへ?」

「避難所巡りをして奥さんを捜してるんだ」


 観光をするために残っているのではなく、あくまでもゴンザスの奥さんを捜すためにこの街に滞在している。


「ゴン太様には奥様がいらしたのですね」

「マキナに聞いてないか?」


「シロウ様とマーニレが激突するかもしれないという話は聞いておりました。回避する可能性があるとも……。シロウ様が西領に来られたのはゴン太様の奥様捜しだったのですか」

「そういう事だ」

「でも、妙ですね……」


 妙?


「おじさん! それ四つください!」

「元気のいいお嬢ちゃんだ。お持ち帰りはできないけど、大丈夫かい?」

「食べていきます!」

「一つ銅貨一枚だよ」


 肉の二倍。結構いい値段するな……。

 おじさんがナイフ一本でオレンジ色の果物の皮をむいていく。


「「「「おー」」」」


 早い。

 リンゴを軸に刺して、シュルシュル皮をむく機械を思わせる。

 一つ三秒でむき、カットして深めの紙皿に入れ、最後にヘタと爪楊枝を添えて寄越す。


 シルが受け取り、早速一つ食べた。


「おじさん、これ甘くて美味しいね!」

「お嬢ちゃん、ありがとよ。コイツは『柿』って言うんだ。ほら、二つ目がむけたぞ」


「ありがとうございます。お代はここに」


 銅貨四枚を置きながら柿を受け取る。


「確かに美味しいな。甘い物って少ないから貴重だ」


 如何(いか)におじさんの皮むきが早かろうが、ここにいる全員の目が捉えたはず。

 俺たちに柿を差し出す前に皮を捨てる動作に隠すようにしながら柿の皮に触れた指を舐めた。


「褒めてくれるのは嬉しいんだけどよ。今年の柿は不出来な物が多くてな……。ほい、三つ目がむけたぞ」

「ありがとうございます。本当に甘くて美味しいですね」


 リーがおじさんから受け取って、すぐに一つを口に入れた。

 顔が綻んで幸せそうだ。


「不出来な物……。なるほど。それでむいた皮の味をチェックして、渋柿か確認してたんですか……」

「いやー。そこまでお見通しとは、参ったな。ほい、四つ目だ」

「…………」


 マーニレは無言で受け取って口に放り込んだ。


「おじさん! これうめーな! 気に入ったぜ。俺様にもう一つ、いや、五つくれ」

「マーニレ……。もらう時に『ありがとう』だろ」

「次は言う。だから、五つ追加だ」


 本当かよ……。


「そんなに食べたらお腹壊すぞ……」

「俺様がこの程度で壊すかよ」


 ダメだ。全然聞きやしない。

 お腹壊したら魔法で治せばいいか。


「なら、追加で五つ……やっぱり八つください」

「まいど!」


 マーニレが五つ。俺、シル、リーが一つずつだ。マーニレほどじゃないが、シルもリーも気に入った顔をしている。


「ちなみに渋柿の率はどのくらいですか?」

「二割ってところだな。廃棄が多くて儲けが少ないんだ」


「廃棄? 捨てるなんてもったいないな。干し柿でも作ればいいのに……。これ、お代です」

「干し柿ってなんだそりゃ?」


 干し柿文化は伝わってないのか。


「作り方は簡単ですよ。柿の皮をむいて、ヘタのところに紐を通して、風通しのいいところに干しておくだけです。干し柿は渋柿で作るから、皮を舐めた時点で渋柿なら干し柿にすればいい」


 お持ち帰りできないのは、渋柿を売るのを恐れたからだろう。

 一度でも渋柿に当たれば、お客さんは離れていく。


「渋柿にそんな食べ方があったのか……」

「キレイじゃないと成功しないから、干した時に【クリーン】でもかけてください」


 カビとか雑菌って言ってもわからんだろ。

 俺は柿の種をこっそりアイテムボックスにしまう。


「生活魔法か……。いい情報を聞いた。帰ったらおかんとやってみる。お代は貰えない」

「んじゃこれは先行投資です。増えたら返してください」


 俺は銅貨一二枚の横にさらに銀貨五枚を置いた。

 柿の種を貰った代金だ。


「こんなにたくさん……」

「あと渋柿なら渋柿だった時でいいんで、三〇個ぐらい柿をください」


 屋台のおじさんが柿を包んでくれた。

 土産ができたな。


「シロウ、干し柿って美味しいの?」

「俺は柿より干し柿の方が好きだ」

「んじゃ、私も干し柿の方が好き!」

「まだ食べてないだろ……」


 今日のシル可愛い。


「ゴンザス遅いな。ちょっと捜してくる。二人はここで待っててくれ」

「いってらっしゃいませ」

「お土産は『柿』でいいぞ」


「目の前にあるだろ。っていうか、お前はまだ食うのか……」


 俺はシルを連れて避難所へ向かう。

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