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俺の選択肢はただ一つ。

 ゴンザスが袋をいくつか抱えて部屋に入ってくる。

 荷物持ちにシルを同行させれば良かったな。

 俺はアイテムボックスがあるから気にならないが、外套ってコートだから畳んでも結構かさばるか……。


「こちらが獣人用の外套です」

「獣人用?」


 手には子供サイズの外套がある。

 獣人がいるのは知ってたが、獣人用があるとは思わなかった……。


「はい。これならフードの耳の部分に角を隠せると思います」

「そんなのがあるんだな」


 俺は『外套』と言っただけなのに……。


「あと他にもこんなのも……」


 ニット帽だ。

 頭の部分に膨らみがあり、こちらも獣人用だな。

 外套は雨の日以外だと目立つから、帽子の方が……。


「色々種類があると、迷ってしまいますね。シロウ様が選んでくださいませんか?」

「シロウが選んで!」

「色ぼけ共め。角さえ隠せれば何でもいいだろうが。リーレンはこれだ。シルヴァーンはこれな」


 マーニレが七種類あるニット帽からリーとシルのを選んで放り投げた。


「マーニレが選んだらシロウ様が選んでくださらないじゃないですか!」

「マー君の馬鹿!」


「きっと俺が選んでも同じ帽子だった。よく似合うぞ」


 髪の毛と同じ系統のピンクと黒だ。

 雑に選んでいるようで、きちんと選んでいる。


 角を隠す意味が含まれてるから帽子に視線が行き過ぎないのもいい。


「それなら良かったです」

「マー君を特別に許そう」

「女って面倒くせーな」


 マーニレは帽子ではなく外套を選んだ。角が切れて髪の毛に隠れてるから頭を隠す必要がない。

 でも、意外とノリノリで外套を見比べてたな。


「お? なんだよ。そっちにも、まだ袋があるじゃねーか」

「そちらはマー坊の子供服です。どうぞ」


 袋を拾ってゴンザスがマーニレに手渡した。


「俺様をマー坊だと!? 貴様、調子に乗るなよ!」

「嫌なら袋を返しください」


 ゴンザスがマーニレに手を差し出す。

 意外と鬼だ。


「ぐっ……」


 まだマーニレを迎え入れる事をゴンザスに言ってないんだが、魔王相手でも容赦しない。


 これがリーの評価した『魔族扱いをしなかった』って奴か……。

 マーニレが悔しそうな顔で未開封の袋を開けた。


 マーニレは黒いバトルスーツのみだったから、ゴンザスが気を利かせたんだろう。

 ここに来るまでは雪だるまの中にいたから良かったけど、外套だけで外を歩くとなると危険だ。


「マー君の教育係りは師匠だね!」

「俺様がこんな奴に教わる事なんか何もねーよ!」

「俺もこんなガキのお守りは嫌ですね」


「俺がマーニレに教えるからいいよ」

「えっ? シロウって人にモノを教えられるの?」

「それは心外だな。俺だって後輩にモノを教えてきた。ガキのしつけぐらいできる」


「本当かな~? シロウと稽古した時、手加減してくれなかったからな~」

「俺様は……シルヴァーンの師匠に教わる。よく考えたら人格者だ」


「おい、何が人格者だ! 俺がマーニレの教育係りをするって言ってるだろ!」

「貴様はすぐに『雪だるま、雪だるま』って言うだけじゃねーか!」


「それの何がいけないんだよ!」

「あんなの教育じゃねー! ただの虐待だ!」

「なんだと! もう一回言ってみろよ」

「何度でも言ってやるよ! あれはただの虐待なんだよ!」


「二人とも少し落ち着いてください」


 リーが俺とマーニレの間に割って入る。


「シロウ様、ここは一旦ゴン太様を信じてマーニレを預けてみましょうよ。マーニレもゴン太様がいいと言ってますから、それなりの効果が期待できるはずです。もし、ダメだった場合はシロウ様の思う存分再教育をされればいいじゃないですか。マーニレもそれでいいですね?」


「お、おう」


 っと言った感じで、マーニレの教育係りはゴンザスに決まった。

 実はこれはシルとリーが考えた芝居だ。


 普通にゴンザスに教育係りをお願いしてもマーニレはきっとゴンザスを馬鹿にして、話を聞こうとしない。

 マーニレを知る二人だから簡単に手玉にとれた。


 俺は……大根役者だから何も知らされていない。

 シルの手のひらで踊らされ、まんまと筋書き通りに白熱した自分が恥ずかしい。



「ゴンザス、赤斧は一旦しまうか」

「その方が良さそうですね」


 人混みに紛れるには目立たない方がいい。

 魔族一人だった場合はゴンザスを目立たせて、俺がシルの体を隠せた。だが、魔族三人だと護衛対象が多すぎる。


 ゴンザスが先頭、間に魔族たち、俺が最後尾を担当。


「シルは何をしたい?」

「まずはたくさん食べたい!」

「結局朝ご飯を食べてないもんな。でも、今日は赤斧様を封印したから、お金が必要だぞ」


「シロウは何をしたい?」

「俺は宿屋で飲んだような酸味の少ないお酒を買いたい」

「アニキ、それなら冒険者ギルドでお金を用意してください」


 ゴンザスが足を止めて、左前方を指差す。

 そこには冒険者ギルドが……。夜とは(おもむき)が違うな。


「俺が中に入るとまた騒ぎになるんで、外で待ってます」

「私も外で待ってますね。万が一冒険者に取り囲まれたら逃げ場がないですから……」


「度胸のねー女だな」

「ゴンザスはリーと近くで買い食いをしながら待っててくれ」

「わかりました」


 俺はシルとマーニレを連れて冒険者ギルドに入る。

 朝一番じゃないため、人は(まば)らだ。

 ただし子連れは珍しいのか、建物を入っただけで注目を集めた。


「シロウ、見て。みんな並んでるよ」

「俺たちも並ぶか」


 シルが俺の腕を引っ張って冒険者の後ろに並ぶ。

 俺たちは五組目だ。


 端から見ると、シルがずっと俺の腕に抱きついているように見えるが、実はそうではない。

 俺が職員の女性を見るとシルが俺の手の甲を爪を立てて(つね)る。地味に痛いからやめてください。


 ギルド職員って女性が多いんだよ。どっちに顔を向けても必ず女性が視界に入る。


「人間は不細工な奴ばかりだと思ってたが、意外とキレイな奴もいるじゃねーか」


 シル、マーニレも抓れよ。

 マーニレの方が酷いぞ。なんで俺だけなんだ。


 俺の選択肢はただ一つ。

 シルの笑顔から目を離さない事。


 シルの目が笑ってない。

 誰だよ。俺を冒険者ギルドに差し向けたのは……。


 やっと俺たちの番だ。


「すみません。モンスターの素材を売りたいんですが……」

「素材の買い取りなら窓口が違うわよ。あっちね」


 並んだ挙げ句、窓口が違う……。


「人間は面倒くせーな。そんなもん一発ぶん殴れば言うこと聞くだろ?」

「マー君は自分勝手言わないの!」

「よし、あっちだな……」


 俺は受付嬢が教えてくれた、右手の方へ進む。

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