寝返りを打っただけでトップニュースになるよ!
別にマーニレがどうなろうと構わないとまでは言わないが……。
「殺されるとわかっていてマーニレと角を返却するのもな……」
俺の流儀に反する。
それをするぐらいなら、いっそのことマーニレをお風呂に三日間入れて、角の修復をさせた後に魔族領に送り返す。
シルたちの『絶対服従の誓い』が公になるリスクを伴うが仕方ない。
うまく行けば、情報に誤りがあったと勘違いしてもらえるはずだ。
「でしたら、マーニレを返却せずに、手元に置かれてはどうでしょう?」
手元にか……。考えなかったわけじゃない。
あの性格じゃなければな。
絶対にみんなと不仲になるぞ。
「正直、いらん……」
「シロウ」
「どうした?」
「ゴニョゴニョゴニョ」
ベッドの左で待機してたシルが内緒話をしてきた。
「その手があったか! よし、マーニレを仲間に迎え入れよう」
「えっ? シロウ様? シルはいったい何と?」
「そうと決まれば、マーニレの性格を矯正するぞ」
「シロウ様、私にもわかるように教えてくださいよ……」
子供の頃より次期魔王として育てられたはずだから、人間と相容れない可能性はある。
それでも俺の監視下で制御できるレベルかどうかが問題だ。
さっきみたいにデススパイダー地獄でお灸を据え続けるか……。
角が修復されれば、また魔王病が再発してみんなに迷惑をかけてしまう。
どうしてもダメな場合は魔族領に送還するしかないな……。
「俺がマーニレの身元引受人になったとして、三ヶ月以内にマーニレの弟が俺たちの拠点に乗り込んでくるケースはあるか?」
マーニレも問題だが、マーニレの弟も問題だ。
弟が魔王をすると兄との違いが浮き彫りになり『やはり兄が良かった』と言う輩はいるかもしれない。
その時、死んでてくれれば、諦める事もできるだろうが……生きてる限り『魔王の座』に戻せる可能性がある。
客観的に弟の立場から考えると面白くない。
だから、マーニレには死んでもらった方が助かる。
「それは考えにくいと思います。現在魔族領で注目の的のシロウ様に危害を加えれば他の魔族が黙っていません」
「注目の……的?」
人生でそんなスポットライトを浴びた経験はないぞ。
「はい! 人間初の第一級危険生物認定おめでとうございます!」
「わー。シロウ、すごーい! 獣王や竜王並みだ! 寝返りを打っただけでトップニュースになるよ!」
「いや、全然嬉しくないぞ」
誰だ。獣王と竜王。
トップニュースになるなら寝返りを打てないじゃん。って、それは今朝の状況だ!
冗談にも程がある。
二人とも拍手喝采。
昨日のレベルアップ報告の盛り上がりとは雲泥の差だな。
「私は嬉しいですよ。やっとシロウ様が正当な評価を受けました」
リーが右腕に抱き付く。
「私たちだけのシロウじゃなくなるけど、私も鼻が高いよ」
シルは左腕に抱き付いてきた。
「いや、だから全然嬉しくないって……」
でも、二人に褒められるのは照れるな。
「今後はシロウ様とお近付きになろうと娘や姉妹を差し出す魔王も出てくるはずです。騙されぬよう用心してくださいね」
お近付きに娘や姉妹を差し出すって……。
戦国時代じゃないんだから……。
有り得ないと思うが、せっかくリーが忠告してくれたんだ。素直に心に留めておこう。
「わかった。話し合いはそろそろいいな。シルは二人を呼んで来てくれ」
「はーい」
シルが部屋を出ていく。
真面目な雰囲気ではなくなったため、頃合いだろう。
「少しの間だけど、角を舐めてやる」
「いいんですか?」
「いいぞ」
「是非お願いします!」
三階と五階だから、時間にすると僅かしかない。
リーを後ろから優しく抱き締めて、丁寧に角を舐めた。
危うくリーが気絶しかけたのは二人だけの秘密だ。
なんとか、みんなが戻ってくる前に服の乱れを直し、居住まいを正せた。
「リー嬢のくれた『火炎の斧』のおかげでギガンテスを討伐できました。ありがとうございます」
「喜んでもらえて良かったです」
ゴンザスがやっとリーにお礼を言えたな。
「俺はこれから魔法の特訓に行ってきます」
「魔法の特訓は拠点に戻ってからでもできる。それより街にいる事だし、みんなで街を練り歩きたい。子供用の外套を買ってきてくれないか?」
「わかりました」
「お金になりそうな素材って何かあったかな……」
「お金なら大丈夫です」
「あれ? ゴンザスってお金持ってたの?」
俺たちの財布を握ってるのは頼りないが、コックだ。
みんなの食料を買うんだから仕方ない。
「いえ、冒険者ギルドに寄れば、ギルド長のお爺さんからギガンテス討伐の報酬が貰えます」
「そんなのがあったのか……」
「残念ながら、素材の大部分は燃えてしまい、高値は付かないそうですが、外套程度なら買えるはずです」
「なら、それでよろしく」
どう考えても俺のお金じゃないけど……。
ゴンザスがそのお金から払うって言うんだからいいんだ。
それにたまに恩返しできるチャンスを与えた方がゴンザスも俺も気が楽になる。
「アニキも名乗り出てはどうでしょう」
「あの爺さんだけなら問題ない気はするな。どうせ身バレしてるようなもんだし……。とりあえず、外套が先だ。みんなで遊ぶお金が尽きたら俺が冒険者ギルドに行く」
「わかりました」
ゴンザスが頭を下げて部屋を出ていった。
「ゴンザスが外套を買ってきたら、みんなで買い物をするぞ!」
「おー!」
「「…………」」
経験者のシルは元気よく返事をしたが、リーとマーニレは未だにフリーズをしている。
「シロウ様、私もマーニレも魔王ですよ? 人間領を堂々と歩いてはいつ誰に狙われるか……」
「その時は俺がきちんと守ってやる」
「頼りにしてます!」
「ロリコンが何を言っても説得力ないぞ」
「マーニレは後で雪だるまの刑な」
「貴様はロリコンだろ!」
「雪だるまの刑を二回な」
「ぐっ……」
少しずつ矯正だ。
「マーニレ」
「……なんだよ」
「先ほどシロウ様には言いましたが、シロウ様は『第一級』に認定されましたよ」
「嘘だろ……。寝返りを打っただけでトップニュースになるじゃねーか」
やっぱりなるんだ……。
シルを迎えに行かせたけど、仕込みじゃないよな?
あれからマーニレが俺の顔をチラチラ見てくる。
余程『第一級』がヤバい認定なのは理解できた。
獣王や竜王はいったい何をしたんだ?
リーに助けを求めたいが、さっきからソワソワして何度もベッドと窓を往復している。
扉が開く音がすると、リーが高速でベッドに戻ってきた。




