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危険、危険。ますます身動きが取れなくなった。

 翌朝。


 俺が目覚めると、左側にシルが、右側にリーが寝ている。

 あれ? どういう状況?

 二人ともコアラのように俺の腕にしがみついて離れない。


 シルは俺が寝てる間に戻ってきたのはわかるが、リーも一緒に来たのかな?

 リーの意見を聞こうと思ってたから、出向いてくれたのは助かる。


「貴様は本当にリーレンと知り合いだったんだな」

「マーニレ、おはよう。これはどうしたらいいんだ?」

「知るか、ロリコン」


 胸にグサッと刺さるからやめてくれ……。

 それに二人が勝手に俺のベッドに入ってきただけで、俺がベッドに連れ込んだわけではない。


 そうだ! 俺は無実だ!


 二人とも飛び疲れているのか、熟睡してるため、起きるまで待つ事にする。


「デススパイダー・クローズ」


 侵入者対策で蜘蛛を召喚したのに、まさか顔見知りの訪問者がそのままベッドに潜り込むとは思ってもみなかった。


 俺が起きたし、見張りはもういいな。


 トントンッと優しく扉がノックされた。


「アニキ、いいですか?」

「マーニレ、ゴンザスだ。鍵を開けてくれ」


 いつもなら俺が寝ててもシルが起きて対応してくれる。


「俺様は貴様の召使いじゃないんだぞ」


 マーニレが扉に近付いて、鍵を開けるとゴンザスが部屋に入ってきた。


「おはようございます。アニキ、この少年は?」

「あー。ソイツがマーニレだ」

「わかりました。そちらで寝てるのはリー嬢ですね。やっと火炎の斧のお礼が直接言えます」

「あまり魔王扱いを望んでないようだから、程々にな」

「はい」


 赤斧はきちんとゴンザスが背負っている……。

 杞憂だった。

 考えてみたら、ゴンザスの隙をついて斧を盗む程の腕前があれば、ギガンテスと対峙できるだけの敏捷があるよな。


「長旅で疲れてるみたいだから、もう少しこのまま寝かせてあげたい。先に食堂に行って飯を食ってきてくれ」


「アニキたちの食事を部屋まで運んできましょうか?」

「俺は付き人って立場だ。主人が付き人のためにせっせと働いてたら変に思われる」

「わかりました」


 ゴンザスは素直に部屋を出ていった。


「マーニレはテーブルの残り物を摘まんでてくれ」

「言われんでもそのつもりだ」


 そうですか……。


「ふーん。アイツがシルヴァーンの師匠か……。なかなか強そうだ。アイツ()人間をやめてるな」


 その発言もやめてくれ。胸が(えぐ)れるんだよ。

 マーニレの野郎、わざと『も』の部分を強調しやがった。


 俺はどうしていいのかわからず、ただ二人の抱き枕になって過ごす。

 体を動かしたと思ったら、シルもリーも当然のように俺の腕を股で挟む。


 危険、危険。

 ますます身動きが取れなくなった。


 ゴンザスは一度戻ってきたが、二人がまだ寝てるのを確認して宿屋の庭に行く。空き地を借りて朝の鍛練をするそうだ。


 片腕だけでも動かせれば違うのに、幼女二人の幸せそうな寝顔を見ていると、起こすに起こせれない。


「ロリコン」


 言うな!

 寝顔を見て『可愛いな』っと思ったところで透かさずマーニレにキツい一言をもらった。


 あとな、シル。お前は二度寝に入るなよ。

 起きたなら離れてくれ。


 結局ゴンザスが朝の鍛練を終え、戻ってきた頃。


「シロウ様、おはようございます」

「リー、おはよう。わざわざ来てもらってすまんな」

「いえ、私の方こそシロウ様の腕をお借りしちゃいまして……ご迷惑をおかけしました」


 リーが寝ながら軽く頭を下げた。


「魔王が人前で頭を下げてるんじゃねーよ」


「デススパイダー・オープン。マーニレを雪だるまにしろ」

「わ、わ、待ってくれ」


 蜘蛛を召喚した瞬間。マーニレが部屋の端まで後ずさる。


「デススパイダー、ストップだ。マーニレは発言に気をつけろ」

「……わかった」


「やんちゃなマーニレがシロウ様の手にかかれば、赤子も同然ですね」

「リーレン、貴様!」

「マーニレ?」

「ぐっ……」


 俺が名前を呼んだだけで、静かになった。

 俺はマーニレがリーやシルの悪口を言った事をまだ忘れてないぞ。

 自分の立場をきちんと理解して欲しい。


「さて、バッチリ睡眠が取れましたし、起きますか!」


 リーが勢いよく上体を起こした。

 その姿は元気いっぱいだ。


「シロウ様、シルの狸寝入りは無視してお話を始めてもよろしいでしょうか?」

「リーちゃん、酷いよ。せっかくリーちゃんが目覚めるまで大人しくしてたのに……」


 指摘されたシルも、あっさり起きた。

『大人しくしてた』っていい理由だな。


「真面目な話をします。シルは少し黙ってなさい」

「はい。すみません」


 リーの注意にシルの印象が変わった。

 真面目な話か……。


「ゴンザス、マーニレをお前の部屋に連れて行ってくれ。話せる内容は後で話す」

「はい。それでは後ほど」


 ゴンザスがマーニレの襟首を掴んで部屋を出ていく。

 マーニレは全く抵抗をしないで出ていったな。


「お人払い、ありがとうございます」


 リーの雰囲気が魔王モードだ。

 いや、最初から魔王なんだけど……。


「まず、シルが倒した魔族二人の角の件ですが、あれは人間領での魔族同士の戦闘に分類され、角を返却する決まりになっています。しかし、シルは現在『絶対服従の誓い』によりシロウ様の手足。魔族のルールは適用されません」

「んじゃ魔族の角は返却しなくていいのか……」


「っという話になれば、とても楽だったんですが、シル、マキナ、そして私がシロウ様と『絶対服従の誓い』をした事は非公開にしています。ですので、その角は私がシロウ様より買い取って相手方に返却という形を取りたいと思います」


 俺と『絶対服従の誓い』をした事は非公開情報なのか。一ヶ月かかるはずの角の修復を一夜で済ませられたからこそ、隠す事ができた。わざわざこちらから手の内を晒す必要はないな。


「わかった。貸し一、いや二か……」


 角は二本ある。


「いくつでもいいですよ? 私はシロウ様のためなら、可能な限り頑張りますから……」

「リーちゃん、真面目な話はどこにいったの?」


「シル、ごめんなさいね。シロウ様が私を対等に扱ってくれるのが嬉しくて……」

「俺はいつでも対等……じゃない、友達だと思ってるぞ」


 俺はアイテムボックスからシルが回収した魔族の角を二本取り出した。


「ありがとうございます」

「マーニレの方はどうしたらいい?」


「過去に魔王が人間に負けた前例がないため、どのように処理すべきか悩んでいます。通常は敗北した時点で死ぬはずですので、便宜上『廃位』になり、後継者が選ばれます」


 魔王が変更されるだけか……。

 俺が魔王城に行って城を落としたわけじゃないからな。


「しかし、今回は魔王が生きています」


 トドメは刺さずに捕虜にした。

 だから、なおさら紛らわしい状況になっているのだろう。


「ここで重要なのが魔王の角が二本とも切られてしまったという事です」

「えっ? そうなの?」

「角が一本なら一ヶ月ですが、二本の場合は三ヶ月が目安です」


 知らなかったとは言え、怒りに任せて角を二本とも切ったのはまずかったな……。大人気なさすぎた。


「そして、その情報はすでに魔族たちに広まっています」

「もしかして、アイツは用済みなのか?」

「魔王自身が生きてますし、シロウ様が魔王と一緒に角を二本とも返却すると宣言すれば交渉は可能だと思いますが……情報が漏れてしまった以上、難しいですね」


「難しい? 三ヶ月経ったら、角がくっ付いて魔王の力を取り戻せるだろ?」

「はい。ですが、マーニレが角を修復させる間、魔王の座を空席にするわけにはいきません。きっと弟が魔王の座に就くと思います」


「あー。三ヶ月経って力を取り戻したから『魔王の座を返せ』はさすがに虫が良すぎるのか……」

「そうですね。弟派の魔族がマーニレが回復する前に必ず暗殺しようと動くでしょう」

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