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あなたたち英雄様の付き人なんでしょ?

 部屋は二部屋用意され、ゴンザスは一人部屋、俺とシルは二人部屋だ。

 雪だるまは部屋の隅に置き、二人で一つのベッドに腰掛ける。


「シロウ、一緒に寝よ?」


 二人部屋だから当然ベッドは二つ。


「そうだな。俺には魔法のカードなんて必要なかったんだ。シルさえいれば、あとはもう何もいらない」

「私もだよ! こんなカード破いて捨てちゃおう」


 シルがポケットに仕舞った魔法のカードを取り出す。引き千切るために左右の手に力を入れる。


「あ、ごめん、シル。そのカードはないと何かあった時に守れなくなる。破らないでね?」

「はーい」


 今のはちょっと焦ったな。

 魔法のカードの価値を知らないもんだから、冗談が冗談で終わらないところだった。


 トントンッと優しく扉がノックされる。


「アニキ、いいですか?」

「開いてるぞ」


 扉を開けて、ゴンザスが入ってきた。


「宿の人が俺たちのために夕飯を用意してくれたそうですよ。また魔法のカードを出して……。まだカードの威光を発揮できなかった事、悔しがってるんですか?」


 魔法のカードが赤斧に負けて悔しかった事は否定しない。

 ただ、ゴンザスも赤斧の英雄譚に振り回されて困っているって考えたら、何だか笑えてきた。


 みんなゴンザスじゃなく、赤斧しか見ていないからな……。


「シルとの寸劇が楽しくて続けてただけだ」

「そうだったの? でも、シロウがさっきより元気になったみたいで良かったよ」

「シルのおかげで元気が出た。ありがとう」

「えへへへへ」


 ゴンザスが見てなければシルの角を舐めたのに……残念だ。代わりに頭を撫でてやる。

 マーニレに会った事で、魔族全体がシルたちのような存在だけではない事を知った。


 それでもシル、リー、マキナ。ついでにチェルツーとリン。知り合った魔族たちは世界を敵に回しても守ろうと思う。


 だって、俺が落ち込んだだけでそばに居てくれるシルは本当にいい子だ。


「宿屋の人には悪いけど、料理を部屋で食べる事って可能かな? あとパンでいいんだけど、マーニレに食べさせられそうな物がないか、それとなく聞いてくれないか? 料理は後で自分で取りに行くからさ」

「わかりました」


 扉が閉まりきる前に声をかける。


「ゴンザスは祝勝会に参加してこいよ」


 宿屋の主人が近所の住民に声をかけてしまい、宿屋に人が押し寄せてきた。

 俺は本当に目立てないんで、勘弁して欲しい。


 声をかけると再び扉が開く。


「アニキ……本当の事をみんなに言いましょうよ」

「みんな信じないよ。それに『ハゲ』が街を救ったって話より属性武器に愛された『ナイスガイ』が街を救った方が子供たちも喜ぶ」


「でも……」

「俺としては温かい飯が食えて、ふかふかのベッドで寝られるだけで、この上なく待遇のいい扱いを受けている」


 嘘偽りのない言葉だ。

 出来れば拠点以外でもハゲを隠さずに生活したいが、こればっかりはどうしようもない。


「師匠、こっちの事は気にしなくていいよ! シロウ専用の最高の抱き枕付きだから!」

「そうだな。早く戻らないと宿の人が呼びにくるぞ」

「すんません」


 ゴンザスの部屋はこの宿で一番いい部屋を割り当てられている。

 俺とシルの部屋はベッド、テーブル、椅子、トイレがあるだけの普通の部屋だ。


 実は急いでいたし、日帰りするつもりでいたから布団をアイテムボックスに入れて来なかった。

 もし、野宿になった場合は硬い土の上で寝るはめになっていただろう。


 だから、雨風を凌げて、柔らかいベッドで寝られるだけで大満足だ。

 その上、時間外に夕食まで作ってくれた。これで文句を言ったら罰が当たる。


 ちなみに宿代も飯代も英雄料金。つまり無料だ。


 無料の分ゴンザス改め、赤斧が集客を手伝っている。


「そろそろ行くか」

「はーい」


 俺はシルと一緒に一階にある食堂に向かう。

 宿の入口の方がどんちゃん騒ぎだ。


 参加しなくて良かった。あの中には絶対に行きたくない。フードが脱げたら大騒ぎになる。

 俺は誰にも気が付かれないように気配を消して移動した。


 カウンターには女将さんが立っている。


「すみません」

「あら、気が付かなくてごめんなさいね」


 俺が気配を消していたからで、女将さんのせいじゃない。

 トレーが二つある。俺たちの料理はすでに盛り付けが終わっていた。


「あなたたち英雄様の付き人なんでしょ? わざわざ部屋で食べなくても、テーブルの端の方で料理を摘まんで食べたらいいんじゃないの?」

「すみません。俺たち騒がしいところが苦手なんで……」


「みんなに見られながらじゃ、料理を味わえないってもんよね。お酒を付けたから、寝る前にでも飲みなさい」

「ありがとうございます」


 シルは無言で頭を下げていた。


 トレーを持って部屋に戻る。

 ゴンザスに作った料理の残り物なんだろうが、結構豪華だ。

 スープ、サラダ、モンスターの腕一本、パン山盛り。それに追加のお酒。


 二人で一本だが、腕一本で何人前あるんだろうか……。

 モンスター肉だから人間の腕サイズある。


 見た目の予想ではカエルの左腕だな。

 手がパーになって水掻きが付いている。

 俺ができる判断材料はそれだけだ。

 形は違えど、鳥の照り焼きみたいで美味そう。


 きっと祝勝会で作った姿焼き料理の一部をこちらに回してもらえたのかな?


 マーニレの体を【ヒール】で治し、槍で蜘蛛の糸を切って出してやる。


「飯の時間だ。縛ってる糸を切ったから、自分で食えるだろ」

「マー君、おはよう。もう夜だよ!」

「【サンド】。お前は、ここに座れ」

「…………」


 シルは相変わらずか。

 テーブルには椅子が二つしかなかったので、土魔法で直方体の椅子を作り出す。


【サンド】なのに硬度は石だ。


 全知全能によれば土魔法の中にきちんと【ストーン】って魔法が存在する……。そちらは小石を作り出す魔法らしい。


 俺は石を叩いてマーニレを座らせた。

 ムスッとしてる奴は放置。


「「いただきます!」」

「…………」


 シルと食前のあいさつを済ませて、食べ始める。

 カエルの腕の食べ方がわからなかったけど、適当に裂いて、それぞれの皿に載せていく。

 きっちりとはいかないが、三等分だ。

 マーニレは無言で食べている。


「食べ終わったら、リーちゃんのところに報告に行ってくるね」

「あ、俺も一緒に行くぞ。移動中に狙われても敵わんからな」

「一人の方が早いよ?」


「シルさんや。昨日までの俺だと思うなよ?」

「シロウ、もしかして変身できるようになったの?」

「いや、それはできないけど……。晴れてレベルが上がりました。拍手」


 パチパチパチッと俺は一人で拍手をした。


「「…………」」


 俺は拍手する手を止める。


 なぜだろうか。魔族二人の視線が痛い。

 ゴンザスはいいよな。知らない奴にも祝福されてよ……。俺なんてシルですら、この反応だぞ?

 俺のレベルアップってそんなにいけない事なのか?


――――ステータス――――

 名前 山田四郎

 性別 ♂

 職業 勇者

 レベル 七九


 体力 四五七八九→四七五一二

 魔力 二三〇七二→二八七〇九


 力  一七三二→一九〇二

 賢さ  七九〇→ 九八一

 耐久 一五七六→一六六九

 敏捷 一〇三八→一一七一


 称号

・歴代最強勇者


 能力

・全知全能

――――――――――


 上がったうちの半分以上は『絶対服従の誓い』による恩恵だ。

 賢さが上がったのは魔法を使って、お風呂にお湯を入れていたせいかな?

 魔法主体で生活してたから主に後衛側の能力値が上がった。


「シロウはこれ以上強くなって、どこを目指してるの?」

「どこだろう」

「……( )( )( )( )


 マーニレの囁きに今日一番のダメージを食らった。

 それを言われると辛いんだよ。耐久がいくら高くても耐えられない。

 だって、否定しても誰も信じてくれないし……。


「シロウは()()ロリコンじゃない。今は開発中なの!」


『まだ』って。

 シル……お前は俺をロリコンにしようと画策してたのか!

 金輪際、一緒の布団で寝るのは避けるべきかな?


「サキュバスの手にかかって落ちん男がいたのか……。コイツは本当に人間か?」

「シルがサキュバスだろうと関係ない! 俺はロリコンじゃないだけだ!」


 マーニレの野郎。急に饒舌になりやがった。俺が『ロリコン』でショックを受けたのが余程嬉しかったらしい。


「シロウはマー君の相手をしてていいよ。打ち解けたようだしね」

「「打ち解けてないし!」」


 くそっ!

 被りやがった。


「仲いいよ?」

「なんで俺様が人間と仲良くしなくちゃいけねーんだよ」

「せっかく飯を食わせたのに、口の減らない捕虜だな」

「んじゃ飯の借りを返す。その酒から微量の睡眠薬のニオイがするぞ」

「えっ…………?」


 俺は女将さんが用意した酒瓶を見る。

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