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こんな怪しい男から薬を買いたいか?

 シルには足を踏まれたが、俺の作った下級の体力回復ポーションを羊と交換していれば、お孫さんが服用した時点で騒ぎは起きていた。


 俺たちが目の前にいたのか、いなかったのかの違いだ。

 俺は胸の隙間にアイテムボックスを開き、中に入っているポーションに手をかける。


 待て。効力の不確かな物を本当に渡してしまってもいいのか?

 まだこのポーションを飲めば重傷のお孫さんが治ると確定しているわけではない。

 あくまでも俺が『特級寄り』と言ったに過ぎん。


 出会ってすぐの相手だぞ。普通は疑ってかかるはずだ。ましてや俺はフードを被って顔を半分隠している。こんな怪しい男から薬を買いたいか?


 それなのにこの食いつきよう。少しきな臭い。


 何か打開策は……。

 あー。簡単な方法があるじゃないか。


「それではお孫さんにポーションを飲ませ、効き目を判断した後に、それ相応の対価分を羊で支払ってもらうという事で……。まずはそのお孫さんの容態を診させてください」


 俺は医者ではないが、ステータスを見る事が出来る。それにもしかしたら体力回復ポーションだけではなく、解毒ポーションも必要な可能性だってある。


 どちらにしろ俺のポーションをそのまま置いて行くのは得策とは思えない。でも、この場で使ってさえしまえばどれだけ証言しようが、実物がない以上大きな騒ぎには発展しないのではなかろうか。


 それに何をしたって治せないケースだってきっとある。その時はポーション代をもらわなければいい。


「できれば……診せたくない」


 診せたくない?

 どういう意味だ?

 女性だった場合、顔に大きな怪我をしたとか?

 重傷で全身が包帯だらけという事も……。

 身内を晒し者にするぐらいなら、不確定要素のあるポーションの購入は避けるか?


 うーん。やっぱりきな臭いな。


「それではポーションをお譲りできません。私たちは他の牧場を訪ねて羊を購入する事にします」


 魔核で損をするぐらいなら問題ない。

 俺が槍で一突き二突きすればいいだけなんだから……。


 今問題なのはこの老夫婦が何かを隠して体力回復ポーションを欲しがっているという事だ。

 俺は交渉決裂したので席を立つ。

 シルは文句を言うかと思ったが、何も言わずに席を立った。


 この牧場の事は小説には書かれていない。

 書かれていれば、この老夫婦が何を隠しているのかわかったのに……。

 助けられるならお孫さんを助けてあげたい。

 だが、俺だって慈善事業をしてるわけじゃないんだ。いつまでもここに留まり、二人が心を開くまで待つわけにもいかない。


 シルは羊が手に入ればどちらでもいいだろう。


 俺は黙り込んだシルを抱えて来た道を戻る。

 一度休憩ポイントまで戻ってから整備された道を走った。

 山や森を斜めに突っ切って道にぶつかる場所を探してもいいが、みんなが通った後なのかどうかが結局わからない。

 だから、面倒でもスタートまで戻って確実に追いかけている。


「ただいま」

「おかえり。だいぶゆっくりだったな。今度は何が手に入った?」


 最初の頃は遅刻する俺に文句を言ってた翼だったが、俺が自由に動くメリットは大きい。


「今回の収穫は残念ながらなしだ。ちょっと翼に相談事ができた」


 歩きながら牧場での出来事を翼に話す。


「おっさんの判断は正しいと思うぜ。ぜってーにあのポーションは置いてくるな。混乱の元だ。でも少し気になるから、早めにこの地区から離れた方がいいな。おっさんはティリア姫を抱えてくれ」


 特級寄りとはいえ上質なポーションを持っている可能性のある奴がわかっているなら、奪えばいいと考える奴がいてもおかしくないと結論付けたようだ。

 翼の人間不信は酷い。

 国に裏切られたばかりだからな。


「わかった。そうしよう」


 俺がティリアを抱えて、ここからは歩くから走るに切り替えた。


 村を二つ避け、やっと大きな街が見えてくる。


 今日は街の近くに夜営地を設けてコックが買い出しと情報収集に向かう。


「門番が街に入る者に『特級の体力回復ポーション』を持っていないか聞いてましたぜ。この辺りの領主が特級の体力回復ポーションを欲してるようです」


 俺はコックのもたらした情報を聞いて頭を抱えた。むしろ、あのタイミングでお爺さんが距離を置く発言をした理由に納得がいったというべきか……。


「俺の目は節穴だったんだな」


 お婆さんの人柄は人を騙すようには見えなかった……。

 あの老夫婦には俺とシルが(カモ)(ネギ)を背負っていたように見えたわけだ。

 買い取って領主に高く売り払う。


「シロウ、あのお爺ちゃんは嘘を言ってるようには見えなかった」

「俺にも嘘を言ってるようには見えなかった」

「二人の目から見て、その爺さんが情に訴えかけて体力回復ポーションを騙し取ろうとしてるようには見えなかったんだよな?」

「ああ。そもそもお爺さんは下級の体力回復ポーションがないか聞いてきた」


 俺の手持ちがないために事態が悪化しただけだ。


「ならよー。領主の件と老夫婦の件は別と考えるか、そもそも領主がその老夫婦って可能性はないのか?」

「あー」


 違いがよくわからないけど地主って可能性はあり得る。でも、領主って雰囲気ではなかった。


「領主って街に住むんじゃないのか?」

「世界が違えば、住むところも変わるかもしれねーだろ。はぁ。おっさん、面倒くせーわ。気になってる事があるなら今夜中に解決してこい! 明日からは街の近くに拠点を作って、俺たちは修行をしなくちゃいけないんだ」


「わかった。シルも行くよな?」

「うん!」


 もう暗くなってきたし、本気で走っても見られる心配はないだろう。



 俺はシルを抱えて牧場に戻った。


「シロウ、もふもふは何匹までバレない?」

「♂♀二頭。って違う!」


 盗みに来たんじゃないぞ。

 俺たちは暗くなって寝静まっている家に近付く。


「周辺地域をモンスターボックスへ反映」


 まずは建物の構造を調べる。

 あの老夫婦に足腰の衰えは見られなかった。

 寝室は二階にあっても変ではないな……。


 お孫さんの部屋をピンポイントで捜す方法。

 俺は屋根を排除して部屋の模様を観察する。

 介護が必要と考えると怪しいのは一階だよな。


 命まではコピーできないが、重傷者に使う道具という物は必ずある。


「シル、目星はついた。お孫さんの姿を確認しに行くぞ」

「シロウ、もふもふはあっちだよ?」


 あれ? シルってもふもふのために付いてきたの?

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