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嫌な感じ

 国境を越えた後、整備された道を進む。

 雨は一気に降り注いだため、空が顔を出し日差しのラインが見える。


「そろそろティリアが疲れてきて限界だな。広そうな場所があったら、脇へ避けて休憩をとろう」

「みなさん、私のせいですみません」


 俺が全体に声をかけるとティリアが申し訳なさそうに頭を下げた。

 もう何度目だろう。


「お城暮らしだったんだから、気にするな」

「……はい」


 ティリアの体力が他の人に比べて極端に少ない。これは体力作りの一環なので俺が抱えずに移動している。


 次の脱落候補は田中姉妹だったが、俺の予想に反して山道ではないため、比較的ついてこれていた。翼と和哉は移動以外にも遭遇したモンスターをチェルツーと交互に相手させている。


 ちなみに盗賊たちの体力は無駄に多い。

 弱音を吐くどころか、休憩のたびに森に入ってモンスターを狩ってくる。


 基本的に拠点を設けるまではキツい訓練はしない予定だ。

 移動中もモンスターが出るからな。休んでるようで周りを警戒しているぐらいで充分だ。


 北と南が国境という名の壁で分断されていたため、出現するモンスターの種類が違う。

 地域ごとにモンスターが変わるのは冒険の醍醐味だ。


「みんなは休憩しててくれ。俺はまだテイムしてないモンスターをテイムしてくる!」

「おっさんなのに、元気すぎんだろ……」


 翼が俺にだけ小言を言う。

 盗賊たちだって休憩のたびに自由に遊びに行ってるぞ。


「シロウ、私も一緒に行きたい!」

「う……。ご主人様、私も行きたいですが、きちんと休まないと、さらに皆さんに迷惑をかけそうです」

「ピイイイイイイ」


 遊びながら体力を付けるというのは個人的に大好きだ。

 でも、今は拠点すらなく移動中の身。

 モンスターのテイムが見たいからと、ティリアが休憩せずに付いてきては本末転倒だ。


 鳥は仮主人のティリアを離れ、俺についてきた。

 餌はどうにかティリアの手から食べているけど、未だに懐いていない。餌以外の時間はよくそっぽ向いている。


「あ、ピー君……」


 ピー君とはティリアの鳥の名前。もちろん鳴き声の『ピー』に由来するのだが、成長して『ギャー』と鳴いたらギャー君になるのか実は今から楽しみだ。


 俺はシルと鳥を連れて森に入る。

 シルも俺同様に全く疲れていない。

 というより魔族は魔力で体力を回復できるから、自然回復を考えると実質永久機関か……。


「シロウ、ゴーストがいるよ」

「任せろ。観自在菩薩行深カンジーザイボーサツギョージン

「シロウ?」

般若波羅蜜多時ハンニャーハーラーミータージー


 手を合わせてお経を言うだけでゴーストがしゅーっと消えた。

 ボトッとドロップ品が地面に落ちる。


「すごい! なにしたの?」

「幽霊にはお経だからな。ちょっと試しに唱えてみた。まさかここまで効果覿面(てきめん)だとはな……」

「シロウの言葉には浄化の魔力が込められてた。でも、ゴーストが成仏しちゃったよ? テイムするんじゃないの?」

「あっ……すっかり忘れてた」


 お経による浄化でもモンスターを倒した事になるようだ。

 ゴーストには肉体がないためドロップ品は魔核だけ。剥ぎ取りの手間がなくてボーナスモンスターだ。っと普通は思うだろうが、このゴーストは物理攻撃がすり抜けてしまうので、魔法で攻撃しなくてはいけない。

 魔法を使えないパーティーにはまさに天敵。

 幸い美穂が攻撃魔法が得意な後衛職よりのステータスだったため、ゴーストが出たら美穂が活躍していた。


「モンスター少ないな……」

「さっきのお経で土地が浄化されてモンスターが嫌がる地になったみたい。みんな嫌がって逃げちゃったよ」


 そんな事も起こるのか……。


「しかも、シロウの濃厚な魔力だからね。周囲一キロぐらいに影響が及んだんじゃないかな?」

「変なところで高性能だな……」


 浄化の力か。

 休憩の時に使えば、モンスターを遠ざける事ができそうだ。


 今は移動と戦闘訓練のみに絞っているから、やらないが……。


「シル、モンスターに遭うまで一気に走るぞ。鳥はついて来れなければティリアのもとに戻れ。まだまだ修行不足で足手まといだ」

「ピイイイイイイイ!」


 俺はシルをお姫様抱っこする。

 シルも俺の体に抱きついて準備万端。

 鳥は文句の鳴き声をあげる。


「いくぞ」

「おー!」

「ピー!」


 俺が走れば時速三〇キロぐらいを維持できるから、一キロを走るのなんてすぐだ。

 鳥? すぐに諦めた。


「シロウ、右に羊の群れ」

「是非素材が欲しい! 羊毛と羊肉! ジンギスカンだ!」


 牛肉、豚肉、鶏肉を三大肉とするなら、俺の四番目は羊肉だ。人によって馬刺好きは馬肉だったり、高タンパク低脂肪の鹿肉だったりするかもしれない。

 羊の群れ、今行くぞ!


「シロウ、もふもふは殺しちゃダメだよ?」

「う……。シルはジンギスカンが嫌いか?」

「ジンギスカンが何かは知らないけど、もふもふは殺しちゃダメ!」

「テイムに拒否した個体ならいいだろ?」

「それなら許す。でも、モンスター化させたら、すぐに素材採取できないよ?」

「あっ……」


 俺の計画は早くも破綻した。

 とにかくシルが捕捉した羊の群れに近付く。

 視界が悪くて見えなかっただけで、距離的にはすぐそばだった。


「シロウ、見て! もふもふがいるよ♪」

「…………」


 柵の中に『メェ~メェ~』鳴くたくさんの羊。

 ただの牧場じゃないか……。

 そりゃあ群れでいるわ。


「シロウ、早くテイムして!」

「これは動物だし、誰かに飼われてる羊だ」

「あのもふもふは奪ってでも欲しい!」


 俺とは違う意味で羊を欲しがるシルの本気が怖い。

 俺は外套を着て、フードを被る。

 牧場の近くにあった大きな住宅に向かう。

 その途中で空模様を見ている男性がいた。


「すみません」

「なにかな? こんな天気の悪い日に子連れとは珍しい」


 子連れと言われて早くもシルがムッとしている。幼女なんだから子供扱いは仕方ないだろ。

 きっとシルが話に加わると話が拗れるな。


「羊を♂♀一頭ずつ買いたいんですが……」

「すまんな。たまに聞かれるけど、うちはそういうのやってないんだよ。最近は『もふもふ可愛い』とか言って、興味本位で手を出してすぐに面倒が見れなくなる人が多いんだ。引き取りならやってるからいつでも歓迎する」


 この男、嫌な感じだな。

 シルの限界が来ませんように……。


「どこに行けば羊を買えるか、わかりますか?」


 なんか男が手を開いて、こちらに差し出す。

 情報が知りたければ金を払えって事か……。

 俺この世界の相場を知らないんだよな。こういう場合って……いくらだ?

 交渉系はコックが得意そうだ。


 俺は脇に体温計を入れる時のように、服を引っ張って胸元に空間を作る。手を入れてこっそり出したアイテムボックスから五〇〇円程度の価値のある硬貨を取り出した。


「しけてんな……」


 どうやら少なかったらしい。

 でも、場所を教えてもらうだけだからな。

 さすがに五〇〇〇円とかはいらんだろ?


「向こうの山を越えた先にある牧場なら買えるだろうよ。せいぜい頑張って歩くんだな」


 男は用事が終わったと言わんばかりに手をシッシと振ってきた。

 二度目だが、嫌な感じだ。

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