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街騒動

《冒険者ギルド:ギルド長》


 朝の配給が終わり、そのまま昼の配給に移行した頃。

 フード付きの外套を着た不思議な男が食料難に苦しむ住民を救済するために大量の食料を提供してくれた。


「あれだけの食料、本当はどこから強奪したんですか?」

「フードを被った男が提供していった……」


 何度も同じ説明をしたんだが、一向に信じてもらえない。

 あの場にいたのは俺だけだ。

 現場を見ていなければ信じられん事もあるだろう。例えば動物がモンスターに変わる水のように……。


「またまた~。この街は未曽有の食料不足。いくら世情に疎くてもそんなマネをする人がいるわけないじゃないですか! 嘘をつくなら、もっとマシな……」

「いるわけなかろうが、現に食料が倉庫にある事は良いことだろ? これでしばらく安心して配給が行える」


 不安がない今日は久しぶりに家に帰ってふかふかのベッドで寝られるな。

 この八日間、家にも帰れず、ギルドに泊まり込みで仕事をしている。

 最近は妙に忙しくて、きちんと熟睡できなかった。俺はいったい何日ぐらい不眠で働いたんだろうか……。


「そうですね……。配給のためにも今夜から徹夜作業ですよ」

「ん? 徹夜作業……? 何の事だ?」


 さすがにもう徹夜で作業する事はないはずだ。

 配給だって寝静まってる時はさすがにしないぞ?


「食料庫が襲撃されたら飢え死に確定です。気を付けなければなりませんね!」

「…………」


 そうだった。俺は食料を提供してくれたフードの男と必ずこの窮地を乗り越えると約束したんだ。

 むざむざ奪われるわけにはいかない。


「今夜から交代で警備に当たる。ローテーションを組んでくれ」

「それならこちらに……」


 ほー、さすがだ。仕事が早くて助かるな。どれどれ……。

 手渡されたそのメモ書きには《食料庫の警備について》というタイトルの下に『ギルド長の担当に賛成の人:正正正正……』っと満場一致で可決された内容が記されていた。


「どうしてその仕事を俺がするんだ?」


 こんな仕事を押し付けるような決の採り方で反対票が入るケースの方が珍しいだろ。


「街の中が騒がしいですね」


 今それ関係あるのか?

 それのどこが俺の仕事になる理由なんだ?


「ギルド内なら俺たちの管轄だが、街で冒険者が問題を起こしたとしても、それは街の衛兵の管轄だ」

「ですが、冒険者ギルドの食料庫を死守するのは冒険者ギルドの管轄ですよね?」


「だからこそ、みんなで順番に見張ればいいと言っているではないか……。どうしてその仕事を俺がするんだ?」

「ギルド長が一番強いからですよ。街が騒がしくなってからすでに一〇時間が過ぎています。未だに鎮圧に成功していません。とにかく長い! それなのに国は情報を開示しないで何かを隠している。絶対に今夜騒ぎが起こりますよ!」


「熱弁ご苦労。お前も俺並みに強いだろ?」

「私は受付嬢で、重役ではありません。夜間残業は八時間睡眠に支障をきたします」


 重役ではない?

 八時間睡眠に支障をきたす?


「今すぐ人事の変更をする。この瞬間より君には空席だった、副ギルド長の座をやろう! 給料は今までの三倍だ。それなら文句な……」

「丁重にお断りさせて頂きます。毛布は食料庫の前に運んでおきました。今夜は冷えそうです。きっと明日は曇り空ですね。風邪をひかないように気をつけてください。ギルド長の体調に住民の命がかかってますよ」


 そう言って、執務室を出ていく。


 えっ…………?

 本当に俺一人で見張りするの?

 住民の命がかかってるんだろ?


「いや、これドッキリだよな? ギルド職員に通常業務外の配給の仕事をさせたけどよ……」


 執務室を出るとギルドの営業時間が終了しているため、【ライト】の魔法が解除されて室内は真っ暗だ。


「実は……みたいなのもなしか……」


 周囲にはどこにも人の気配はない。

 みんな定時で帰りやがった……。


 俺は彼との約束を守るため、食料庫に向かう。

 折り畳まさった毛布を拾って食料庫の扉を開けた。


「さむっ!」


 中は魔道具で低温管理が行われ、食材の腐敗を抑えている。

 もともとここは大量の剥ぎ取り依頼や大型種の素材の売却がある時にのみ解放される場所だ。


 いちいちギルド内を通らずとも直接入れるように入口は表と裏の二ヶ所設けてある。

 表は職員が使う冒険者ギルド側からの通用口、裏は冒険者が外から直接荷馬車で乗り入れられる両開きのガレージ扉。


 俺はギルド側の扉を施錠してガレージ扉の外で毛布にくるまった。

 街の中だから仮眠ぐらいならとれそうだな。

 何日も徹夜してられるか!


「街の騒ぎっていったいなんなんだ?」


 表通りはいたるところで【ライト】の魔法が灯されて夕方並みに明るい。

 俺はギルドの裏手にいるので、少し先からは路地になっていて真っ暗だ。


 ガサッ……ガサッと路地の奥から足が地面に擦れる音がした。


「誰だ!」


 俺は毛布から抜け出し、足音がした方に声をかける。

 ギルド内ならともかく、ここはギルドの外。相手を確認する前から武器を抜くわけにはいかない。


 友好的にいくべきか、好戦的にいくべきか……。

 後出しになってしまうが、街の中で法を破る事は出来ん。

 護身用の剣の柄に手をかけて相手の返事を待つ。


「すまねー、ギルド長。俺だ。二時間ぐらい匿ってくれないか? 俺にはあんたしか信用できねーんだ」

「ん? その声は……エリクか? お前は確か窃盗の疑いで城の牢屋に捕らわれているはずだろ? どうして……。まさか、この騒ぎはお前が脱獄したせいなのか?」


 落ちていた財布を親切に兵士に届けたら、持ち主が『中身が減っている』と主張した。

 エリクはソロ専だが、一端(いっぱし)の冒険者。


 落ちてた財布に手を付けずとも、暮らしには全く困らない額を稼いでいる。

 だから俺の見立てでは、拾った時点で中身が減っていたか、兵士が小遣い稼ぎに財布からお金を抜き取ったか、のどちらかだと思う。


「俺だけじゃねーぞ。誰かが牢屋の鍵を開けたままにした。みんな城の隠し通路から外に出たんだが、通路は外壁の内側で終わってたんだよ」

「そんな事が起こってたのか……。尾行されてないな? とにかく誰かに見つかる前に中に入れ」

「恩に着る」


 俺たちはガレージの扉を少し開けて、隙間から中に入った。


「倉庫には初めて入ったけど、さみーんだな」


 大量納品や大型種はソロ専のエリクには無縁だから、入る機会はなかったのだろう。

 俺はガレージ扉を施錠してからギルド内の通用口の鍵を開ける。


「ここでは寒くて休めないから、ギルドの方に移動するぞ」


 基本ギルド内は治外法権。

 匿っているのがバレても俺の権限でどうにでも処理できる。できるが、信用がなくなればギルド長の座を降ろされる。

 目撃者がいないなら口止めの必要がいらない。

 今日の見張りが一人だった事が幸いした。


「ありがとう。それにしてもギルドって随分と食料を貯め込んでるんだな……」

「エリクは牢屋にいたから知らないだろうが、実は街は食料難だ。朝昼晩と住民に配給を行っている」

「配給か……。相変わらずギルド長はお人好しだな。言っちゃあ悪いが、あんたがあれだけの量を確保できるのに、食料難が起こるのか?」


「エリクの言いたい事はわかる。俺は誰かと競ってまで勝ち取ろうとは思わんからな。実はあれは全部、フードを被った正体不明の男が配給用にって置いていった食材なんだ。今、食料を街に持ち込めば、いつもの五倍の値でも売れるぞ」

「それで義理堅いギルド長はガレージの前で十八番(おはこ)の『寝ずの番』をしてたのか……」


 いや、寝る予定だったけど……。

 誰も好き好んで徹夜しないだろ。

 勘違いも(はなは)だしいぞ。


「でもガレージから離れていいのか?」

「今の話を聞いたら、食事の用意をしなくちゃいけない気がしてな」

「ちげーねー。俺以外にもギルド長を頼る奴はいそうだ」

「カーテンはしてるが、あまり外に光が漏れない方がいいよな【ランプ】」


【ライト】より【ランプ】の方が薄暗い。

 夜営の時は光に誘われてモンスターが近寄ってくるため、【ランプ】の方が好まれる事がある。


「エリク、そこの商品棚に下級の体力回復ポーションがあるはずだ。今のうちに一本飲んでおけ」

「これ売り物だろ? さすがにそれはマズい」

「何を言ってるんだよ。この街から逃げるんだろ? 疲れを取らないと逃げきれんぞ。靴と服は……これでいいか。あと武器は……」


 俺は初心者支援装備からエリクが得意とする短槍を二本選んだ。


「ギルド長、すまねー。いつか必ず恩返しに来る」

「気にするなって。辛い時はお互い様だ。期待しないで待っててやるよ」


 結局四人の冒険者が俺を頼って集まってきた。

 どいつもこいつも変な理由で国に捕まっていた奴らだ。


「俺は立場上、これ以上の手助けはできない。だが、チャンスは一度。時計の針が一一時二三分を指した時だ」

「「「「はい」」」」


 牢屋に捕らわれていた奴が全員脱獄したなら、当然奴も脱獄してるはず。


 対魔王軍人間兵器として投獄されている殺人鬼『勇者ミツル』。

 冒険者時代は気のいい奴で、勇者だけありすぐに頭角を現した。

 そしてギルドに併設された酒場で知り合った女と将来を誓ってみんなでお祝いをしたのが一〇日前。

 俺も誘われて参加した。


 その日の夜だ。ベロンベロンに酔っ払って城に帰宅中の二人を何者かが襲った。犯人は未だに捕まっていない。

 好きな女を目の前で殺されて怒り狂ったミツルは同じ時刻になると、殺人衝動と共にステータスがアップする能力を得た。


「ミツルには悪いけど、騒ぎが起こったら、とにかく北に逃げろ」


 国境のすぐ脇にある地下道の入口の地図を渡す。

 犯罪歴は付いていないだろうが、逃亡者リストが国境の兵士に伝わっていたら通過できない。


――――――――――


《逃亡冒険者:エリク》


 街で騒ぎが起こった隙に、外壁から紐を垂らして四人で街の外に出た。

 俺以外の三人は獣人で、もともと三人でパーティーを組んでいたらしい。まだ駆け出し冒険者でチームリクパスと言ったかな?


 捕まる前はパーティー経験がなかったため、一緒に行動する事に不安だったが、ギルド長が俺をリーダーとして指名してくれた。どうやら冒険者歴で判断したようだ。


 国が獣人の入国を許可してから日が浅いので獣人とは喋った事がなかったが、ソロ専だった俺でもすぐに信頼して背中を預けられるほどには気のいい奴らだ。


 最初は牢屋に捕まってたし、人間と獣人で軋轢(あつれき)があるかと思って心配したけど、俺の言うことをしっかり聞いて動いてくれる。


「獣人って身体能力が高いな」

「そうですか?」


 三人の中で特に白い犬耳の男の子が俺によく懐いている。

 俺が次のステップに進むにはパーティーを組む道だったんだな。学ぶことが多い。


 食料はモンスター肉を現地調達し、二日かけて、国境まで歩いた……のだが……。


「地図の位置関係から判断して、きっとこの水浸しになってる穴がそうだな」

「雨水が溜まっちゃったのはわかるけど、これずっと使われてなかったんじゃないの? 水草でいっぱいだよ?」


 黒い猫耳の女の子が指摘する。俺も同感だ。

 俺たちは近くの森に身を潜めて、地下道の水が抜けるのを待った。


 五日後。

 日差しが届かないはずの地下道とは思えないほど通路にはたくさんの草が生えている。


「これ……草が踏まれてないし、やっぱりずっと使われてないな」

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