俺が○○なわけ……
《捕虜:ルフプーレ》
洞窟の中を進む。外より少しだけ肌寒い。
でも、やっと着いた。これで休める。
「お前たち遅かったな」
「コイツ自分で歩こうとしないんですよ。途中で何度捨てようと思った事か……」
「とりあえず火傷男は牢屋に入れて、お前たちもこっちに来て食え。最近食い物が高いからロクな物を食えんかった。食える時にたくさん食っておくんだぞ」
「「へい!」」
俺は牢屋と言われたスペースに放り込まれた。
手足の拘束はされていないが、火傷のせいで体の自由が全くきかない。
俺は満足に立つことも出来ずに、地べたに倒れ込む。
石の床がひんやりしていて、火傷の熱がひいていく。
俺は頭に被せられてた麻袋をやっとの思いで取り払う。
たったそれだけの事をするにも一苦労するほど症状が急変した。
もともとの火傷の酷さを考えれば、一〇時間近くも悪化を抑える事ができたのは、あの奇跡の水の力に他ならない。
俺はこれからどうなっちまうんだろうな……。
遠くでは盗賊たちの笑い声が聞こえる。
「ボス、コイツ死にそうですよ?」
「火傷の状態異常に蝕まれてるんだろ。そこの棚にある体力回復ポーションでも飲ませておけ」
「へい!」
盗賊の一人が牢屋に入ってきた。今の会話から判断すると、ポーションを飲ませてくれるらしい。
「少しでも妙な行動をしたら、棒で殴るからな」
「…………」
「無視かよ」
声を発するのも億劫なだけだ。
介護してくれる奴に妙な行動をする気はない。
半開きの口にポーションが流し込まれる。
「ゴホゴホッ」
「うわ! きたねーな。吐くなよ」
仰向けで倒れてるのに、ポーションを一気に口に入れすぎだ。
陸で溺死しちまう。
「……ありがとう」
ポーションを飲ませてくれた盗賊にお礼を言った。
傷付いた体が内側から癒える。
痛みも多少和らいだが、品質は粗悪品だ。
でも、その多少が今はとても大きい。
定期的にポーションを摂取すれば一時的にせよ体を動かせるようだ。
「俺は街に戻って、上級の体力回復ポーションを飲まなくちゃいけない。すぐに解放しろ!」
「ボス……。体力回復ポーションを飲ませたら今度は元気になり過ぎちゃいましたよ」
「そうみたいだな」
「でも、こんな死に損ないをアジトに置いといてどうするんですか?」
「こんな見た目でも役には立つさ」
クソッ! 盗賊の分際で俺の話を聞きやしない。
「俺は王国軍近衛隊の隊長だ! 今すぐ解放すれば君たちの事は黙っててやる」
「何が近衛隊の隊長だよ。近衛隊の隊長がハゲなわけないだろ!」
ハゲだと?
俺がハゲなわけ……。
俺は恐る恐る頭に手を持っていく。
本来手に当たるはずの髪の毛の感じがない。
それどころか、硬くなった頭皮に直接手が触れる。
炎に包まれた時に髪の毛が全て燃えてしまったのか……。
「俺様に嘘をついた罰だ。歯を一本抜け!」
「「へい!」」
「やめろ! 俺は嘘なんてつい――ぎゃあああああああああ」
二人の男に左右から腕を掴まれ、三人目の男に棒で顔を殴られた。
「ボス! 勢いで前歯が二本抜けちまいやした」
「ああ、構わん。やめろとか喚きながらまた嘘をついたしな。その罰だ。元気になったから暴れられても面倒だ。鎖に繋いでおけ!」
「「へい!」」
口から大量の血が流れ出る。
盗賊たちは床に落ちる血を見て楽しんでやがる。
俺は壁に設置された鎖に手足を繋がれ、無の時間が訪れた。
俺はいったいどこで間違えた。
全てを失った先に見えてくるものなんてあるはずがない。
なんだか眠気が……。
「おいおい。誰が寝ていいって言ったよ。ほら体力回復ポーションでも飲んで回復してくれ。死なれても困るからな」
「ゴホゴホッ」
顔を上に向けられ無理やりポーションを流し込まれた。
眠気は取れたが、やっぱり粗悪品だ。
歯の止血すらされやしない。
それよりも、火傷の症状がさらに進んでしまい、粗悪品のポーションを飲んだぐらいじゃもう痛みがひかない……。
体の節々が痛む。
「まだ足りねーか。もう一本追加だ」
「やめろ」
「やめろだぁ? 人が親切に体力回復ポーションを飲ませてやってるっていうのによー」
「がはっ!」
床に転がっていた棍棒で腹を殴られた。
「てめぇーは自分の立場がわかってねーようだな」
「俺は王国軍近衛隊の隊長だぞ!」
「嘘付きは歯を一本抜く決まりだ。そして態度がなっちゃいねー奴は殴って改めさせる!」
「ぎゃああああああああ」
俺の歯が……。
「早く態度を改めねーと……食い物が噛めない体になっちまうぞ?」
「ぐっ……」
「おっと、まだ寝るんじゃねー。ほら、体力回復ポーションだ」
これが拷問か……。
日が沈み、盗賊たちが就寝。
俺の見張りは交代で行われ、眠たいのに一睡も寝かせてもらえない。
日が昇り盗賊たちが起き出し、また日が沈むと盗賊たちが就寝した。
一日おきのマズい粥。
理不尽な暴力。
あれから五日は経ったか……?
俺はあと何日耐えればいいんだ?
歯は全て抜かれ、殴られるたびにポーションで回復されるため、死ぬ事も許されない。
俺は人の上に立つ男だ……。
「どうなった?」
「すんません。意外と強情な男で……」
「なら、縛ってモンスターの餌にしちまえ。ハゲは生きてる価値もないだろ。餌になれるだけ本望だろうぜ」
「へい!」
これでやっと、死ねるのか……。
ダメだ。こんなところで死ぬわけにはいかない。
「ゴンザスに復讐するまでは死ねない」
「ほー。てめぇ、ゴンザスを知ってるのか……?」
「あ? あんたには関係ない」
「一発殴れ」
「へい!」
「ぐっ……」
殴られ続けてもう痛みの感覚がない。
「俺は気が短いんだよ。覚えとけ。もう一度聞く。ゴンザスを知ってるのか?」
「……はい」
「フン! 『はい』だってよ。育ちのいい返事は人を特定する材料になるんだよ。だから俺たちの返事は『へい』だ。ほら言ってみろ。『へい』だぞ」
「……へい」
「やっと素直になったな」
今に見てやがれ……。お前らもまとめて復讐してやる。
「ゴンザスとはどんな関係だ? この辺り全ての盗賊は奴に取り仕切られて、俺たちはこの五年間、馬車を襲えなかった」
ゴンザスが盗賊を取り仕切っていた?
盗賊の被害がなかったのは、兵士が取り締まってたからだろうが……。
何を勘違いしてやがる。
「そのゴンザスが急にアジトを捨てた。何があった?」
「ゴンザスは北に逃げました」
「逃げる? 誰からだ?」
「国からです」
「火傷男に食事を与えろ。俺はゴンザスを探してくる。奴には犯罪歴があった。国からは出られない」
「ゴンザスの仲間には魔族がいる。今は仲間割れを待った方がいい」
「ボスに対して、その口の利き方はなんだ!」
棍棒が俺の腹を襲う。
「ぐっ……。待った方がいいです」
なんで俺が盗賊の機嫌を気にしなくちゃならないんだ。
「ボス、コイツは嘘付きですよ」
「俺は嘘なんかついてない! ぐっ! ついてないです。近衛隊の隊長の名前を確認してくれればわか……わかります」
「すぐに兵士に聞いてこい!」
「コイツの話を信じるんですか?」
「もし、向こうに魔族が味方してるなら、下手に手を出すわけにはいかない。あと鑑定でステータスが見れる奴がいたよな? すぐに呼べ」
「へい!」
盗賊が戻ってくるまで二時間近くかかった。
国の北側一時間の距離にアジトがあるのは確定だな。
どの盗賊も国の捜索に引っかからないわけだ。
「最近変わったらしくて、ボスから聞いてた名前と違いましたぜ」
「使えない奴だな。本当にコイツが近衛隊の隊長なら……姿が消えた時点で新任の隊長に変わってるはずだろ。前任者の名前を調べてくるんだよ!」
「なるほど、さすがボス! でも、コイツが隊長ならなぜ兵士は躍起になって捜索してないんですか?」
「さぁな? 名前を聞く時についでに調べてこい」
「へい!」
かれこれ一週間ぐらい経ったから、もう隊長の座が埋まったのか……。
隊長と副隊長が同日に姿を消したのに、国は俺たちに興味がないようだ。
「ルフプーレって奴で間違いないそうです」
「本当にこの男が元隊長だったのか……」
「それよりもボス、コイツに懸賞金がかかってますよ」
「懸賞金だと?」
「少し前に荷馬車を襲ったじゃないですか。あの時、コイツ以外は顔を隠してたから、身バレしてないんですよ」
「それでか……」
「生死不問なんで、頭だけ持って行けば金が手に入りますよ!」
「ハゲで、犯罪歴持ちで、懸賞首。コイツ大悪党じゃねーかよ」
盗賊たちが大笑いしている。
「俺をこんな目に遭わせたゴンザスに復讐がしたい。そのためだったら何だってする! 頼む。いや、お願いします! 俺を手下にしてください!」
「信用できるかよ。寝込みを襲われても敵わん」
これだけ痛めつけられて恨みがないと言えば嘘になる。でも、コイツらに恨みを晴らすぐらいなら、その全てをゴンザスの野郎にぶつけたい。
信用を勝ち取る手段を考えろ。
何も浮かばないまま一日、また一日と時だけが過ぎ去っていく。
体を蝕む火傷の進行が日増しに加速する。
このまま粗悪品のポーションばかりでは進行を遅らせる事ができず、あと数日で俺は死ぬだろう。
最後にゴンザスを……。
「俺たちが襲った荷馬車の男が、なぜお前に懸賞金をかけたのかわかったぞ」
牢屋に物が投げ込まれる。
「…………奴隷の首輪?」
「樽の底が二重底になってやがった。元隊長のあんたならそれが何を意味するのかわかるよな?」
「……人攫い」
「お前に機会をやろう。それをはめて俺たちの奴隷になれ。ゴンザスに復讐がしたいんだろ?」
「ゴンザス! ゴンザスに復讐!」
俺はゴンザスを殺すため、盗賊たちの奴隷になる事を決意した。
待っていろ、ゴンザス。俺が必ずお前の首をとってやる!




