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あの勇者は意外と使える

「あとゴンザスはゴンザスで火魔法の練習な」

「火魔法ですか?」

「その真っ赤な斧の正式名称は『火炎の斧』って言うんだが、火魔法が扱えないと本来の性能を発揮できない武器だ」

「これは属性武器でしたか……。通りで斧を振った時に炎が出たわけだ。さすが魔王がくれたプレゼントですね」

「リーが魔王だって気が付いてたのか?」


「いえ……単なる消去法です。アニキはアジトに魔王が遊びに来たと言いました。アジトに来た魔族は三名。シル嬢は魔族領に戻らないので、魔王じゃありません」


 暢気に俺たちに同行してるからな。

 今は立派な密命の最中だが……。


「斧を持ってきた幼女はお使いを頼まれたようでした。魔王がお使いを頼まれるとは考えにくいです」

「確かに、そうなるとリーしか当てはまらなくなるな」

「ですが、リー嬢が魔王だとすると……とんでもない事をさせた気がしますが……」

「魔王にお酌をさせた件だろ?」

「……はい。アニキはリー嬢が魔王だと知ってたんですから、止めてくださいよ。それこそそれが理由で戦争に発展しますよ……」

「不愉快な思いをして帰ったなら、そもそも斧のプレゼントは届いてないぞ」

「言われてみれば……」


「その斧は所謂(いわゆる)友好の象徴だ。でも、せっかくあげたプレゼントが十全の状態で使われてないと知れば、それはショックだろうな!」

「!」


 ゴンザスの肩を叩いておいた。

 斧をもらったのは俺ではない。あくまでもゴンザスだ。

 魔族と知りながら普通に接したからこそ贈られた品だと思う。


 だが、ゴンザスの最大魔力は七。

 賢さも一桁で壊滅的。

 聞くところによると、レベルアップした際には、よく使うステータスが伸びる傾向にあるらしい。

 はて? 魔力がない人はどうすればいいんだろう。


 朝日が完全に昇って雨が強くなった頃、とうとう国境が見えてきた。

 実物の万里の長城を見たことはないが、きっと目の前の壁と大差ないのではなかろうか。


「おっさん、本当に監視の目を欺いて国境を越えられるのか?」


 壁付近は見晴らしを良くするため木々が全て撤去されている。

 森の終わりから壁までの距離はおよそ二〇〇メートル。壁の上を巡回する兵士に見られずに近付くのは不可能に近い。


「雨が降ってなければな」

「…………」

「経路を確認して使えなさそうなら、正面突破する。周辺地域をモンスターボックスへ反映」


 翼が求めてる道は確かに存在する。

 そのルートを探すために小説内の俺がここで『周辺地域をモンスターボックスへ反映』を使った。俺はそれを参考にして王宮の隠しルートを見つけたに過ぎない。


 まずは国境を越えるための道を確認しに移動した。


「ここだな」


 俺は木の根元にある草に偽装された(ふた)退()ける。


「予想通りか……」

「こんなところにも地下道が……」


 ティリアが頭を抱えた。

 ここを通れば国境の価値はない。


「「「…………」」」

「みんな正面突破の覚悟はできたか?」


 九日目、一〇日目の天気は雨だ。

 そして水は低い方へ流れていき、地下道を水浸しにした。


「アニキ、ちょっと待ってください」


 正面突破を提案したら、ゴンザスから待ったがかかる。


「この地下道は泳いで通過はできないんですか?」

「四〇〇メートルぐらい息継ぎなしで泳げるなら問題ない」


 俺はモンスターボックスの地形を操作して全長を確認した。

 潜って横に泳いで浮上するわかりやすい経路だが、泳ぐには距離があり過ぎて息が持たない。


「急ぐ旅でもないですし、四・五日近くで過ごして水が抜けた地下道を使いませんか?」

「理由は?」

「ルフが国に戻り、行き先がバレたとしても、国境を統べる部隊が俺たちの通過を確認していなければ、国に国境を越えていないと思わせる事ができます。他にも下手に騒ぎを起こすと隣の国に入った時点で目を付けられます」


 もっともな意見過ぎて否定材料がない。

 強いてあげるとするなら、四・五日待つ間に国の兵士に追い付かれて取り囲まれないかという問題だ。


 どうするべきか……。

 小説とタイミングが違うだけでせっかくのルートを知っていてもすぐには使えない悲しさ。


「おっさんは確か【クリーン】で服の水を乾かせたよな?」

「服の水は汚れ扱いだ。だから水を消せるが、地下道に溜まった水は空中と同じで消す事ができないぞ」


 残念だったな。盗賊のアジトの露天風呂のお湯抜きをする時に【クリーン】を試した事がある。

 土に染み込んだ分に関しては【クリーン】で消せるが、お湯抜きには使えない。

 結局バケツでお湯をせっせと捨てる他になかった。


「水の中に沈めた服に【クリーン】をかけたら?」

「そんなの服一枚分の水しか消せないはずだ」

「なら、おっさんが水に入って【クリーン】を使い続けて来い」

「【クリーン】を使い続ける…………?」


 最初この(バカ)が何を言ってるのか意味がわからなかった。どうせ【クリーン】を使えばきれいになるし言われた通りにやってみる。

 雨水が入り水が溢れ出ているため、落ち葉のようなゴミはなくキレイな水だ。


「つめたっ!」


 足を入れた瞬間、銭湯の水風呂を思い出した。

 体中の熱気が瞬時に奪われてサッパリするのはわかるんだけど……正直あれ苦手なんだよ。よく付き合いで入ったが、腰までが限界だった。


 サウナの後でもないのに、水風呂に入るとか、正気とは思えない。


「アニキ、俺が行きましょうか?」


 躊躇っているとゴンザスが声をかけてくる。

 確かに【クリーン】を使うだけなら、俺が入る必要はない。


「いや、人に任せたら俺はどんどんダメになる」


 簡単に何でもできる能力があるからこそ、体を張る作業もしなくてはダメなんだ。

 それに入口付近なら【クリーン】は届くだろうが、深くなれば結局自分で行かなくてはいけんしな。


 俺は地下に下りるため壁に備え付けられた、ハシゴに足をかけた。

 つめてー。

 体の芯まで冷える。


 腰までで勘弁してください。

【クリーン】

 いつも魔法を継続させてる時と一緒だ。

 連続で【クリーン】が発動すると、水が服に触れた瞬間、消えていく。


 これは恐ろしい効果だ。

 何秒もしないうちに俺が下りた場所までの水がなくなった。


「おっさん、そのまま進んでてくれ」


 俺はハシゴを下りるが、なぜか翼はみんなから離れていく。


 足先が触れた瞬間から【クリーン】を使ってれば冷たい水が体に触れ続けなくて助かる事に気が付いた。

 さらに重要な事に気が付く。これ……水の中に布を垂らしただけで良くないか?


 翼! お前なら絶対にそこまで計算できたよな?


 あとで仕返ししてやる!


 翼の発案により地下道の水は一〇分足らずでなくなった。

 作業後にステータスを見ると俺の魔力が一万も減っている。恐るべし【クリーン】の連続使用。

 作るより消す方が魔力消費は激しいって事だな。


「再び雨水で冠水する前に向こうに行くぞ」

「おっさんが先頭を行ってくれ。俺が殿をする」


 いつの間にか戻ってきた翼がそんな事を言う。

 そういえばコイツ何してたんだ?


「【ライト】」


 盗賊の一人が明かりのない地下道に光を作る。

 俺がその【ライト】を使いたくて何度挫折した事か……。

 明るいだけの光魔法。


「さすがにジメジメしてますね」

「さっきまで水浸しだったからな。【クリーン】」

「ご主人様、【クリーン】は汚れとニオイにしか効果はないと……」


 俺が壁に向かって使うと呆れられた。


「そう思うだろ? 実は壁に使った場合は壁全てには及ばない。有効範囲があって……約二メートルだな。その範囲内の壁は乾くんだよ」


 実際に使った際の壁の乾いた範囲だ。

 きっと壁の裏にも魔法の効果を及ぼすため、地形によって範囲は左右されそうだが……。


「そこから考察すると蜘蛛の巣も範囲内のものは壁との接着面の糸を【クリーン】で消せ

る。一度目の【クリーン】で糸は床に落ち、二度目の【クリーン】でキレイになるんじゃないか?」

「【クリーン】を二回する意味はないと思ってましたが……面白い発想ですね!」


 魔法の考察をしているとあっという間に四〇〇メートルを歩き終えた。


「こっちの入口は蓋が開いたままになってたのか……」


 通りで雨水が地下道にガンガン入るわけだ。


「おっさん、水魔法で地下道に水を入れてくれ」

「はっ?」

「いいから、いいから」


 また翼が何か企んでるな……。

 俺は再び地下道のハシゴに行って、昨夜のプールに水を入れた時を思い出す。


「【ウォーター】」


 体から水が溢れ出て、地下道はすぐに水で水没した。


「シロウ、あの勇者は意外と使える」


 シルは翼の行動を監視していたようだ。

 そしてシルから合格判定がでた。

 すげぇ気になるんだが……。お前は何をしたんだ?


「アニキ、これ以上雨足が酷くなる前に国境を離れましょう。国が変わったんで、もう整備された道を歩いても大丈夫です」

「わかった。二人だけが苦労したわけじゃないが、特に田中姉妹は歩きにくい靴でよく頑張ってくれた。ご苦労様」


 俺が声をかけると二人が微笑んだ。


「拠点造りや生活の基盤作りとやるべき事はたくさんあると思うが、みんなにはやりたい事をやってもらいたいと思ってる」


「おっさんはどうするんだ?」

「俺は……国が変わろうが街には入れないからな。みんなの活動を陰からサポートするつもりだ」


「正式な奴隷として主人と一緒に行動すれば街でも入れますよ」

「そこまでして街に入っても周りからジロジロ見られるだけだろ?」


 転生初日に嫌というほど経験した。

 やっと、リーカナ王国から抜けだせました。

 これにて第一章完。

 あれ? おかしい。

 魔族がリーカナ王国に戦争をしかけるところまでいくはずだったのに……。


 ある意味では新章ですが、第一章まだ続きます。orz


 その前にあれですね。

 火傷したルフプーレのその後!

 二話を予定しています。興味ない人は二話ほど飛ばしてください。

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