なんで、年長者が低血圧で朝によえーんだよ
バンバンバンッと強めに体を叩かれた。
「…………?」
「おっさん、起きてくれ」
「あと五分……」
「シロウはなかなか目覚めないよ」
「頼りにならねー、おっさんだな」
翼とシルが何かを言っている。
「おっさん、起きろって。なんで、年長者が低血圧で朝によえーんだよ」
あれ? 俺って低血圧だっけ?
ただ、二度寝が好きなだけだった気がする。
昨日は……確か……みんなで夜営して…………。
そうだ! 夜営してたんだ。
「何があった?」
眠いな。
まだ暗いじゃないか。外で寝たのに暗いって純粋に日が昇ってないって事だろ。
ん? 水滴?
「屋根なしで夜営した日に限って雨かよ……。もっと早く起こせ」
「いや、みんな一時間以上も前から起きてっかんな……」
「すみませんでした」
俺はとりあえず雨を凌ぐための屋根を作る。
その間、みんなにはプールの外に避難してもらう。
「【サンド】」
丁度いい感じにプールの中央の仕切りが分厚く高めに設計されているので、それに斜めの薄い壁を立てかけた。
「マジ……おっさん起こすだけで一苦労するとは思わんかった。熟睡し過ぎだろ」
「本当にすみませんでした」
俺に夜営は向いてないかも……。
夜更かしはできるんだが、寝てるのに途中で起きるとか難易度が高すぎる。
俺は人、布団、建物に【クリーン】をかけた。
吸った水が汚れ扱いなため、一気に乾く便利魔法。
プール内に焚き火スペースを四つ設けて、冷えた体を温めてもらう。煙は屋根と壁の隙間があるから心配ない。
夜襲もあったようだ。モンスターの山が女湯のスペースに積み上がっている。
俺はどんだけ暢気に熟睡してたんだ……。
一体ずつ手を翳して剥ぎ取りをし、素材をアイテムボックスに入れた。小さいのも含めて合計二七体。基準はわからないけど、結構襲われたな。
「屋根作ってもらってなんだが、みんな起きたし、進まないか?」
「まだ暗いから危ないぞ? 夜は夜行性のモンスターが活発に動いてるはずだ」
あと一時間程で朝日が顔を出すと思う。木の茂り方を考えると山道が明るくなるのはもう少し先かな……。
「暗くて、雨が降ってるうちに国境を越えたい」
「それか……。翼がそう言うって事は、まだ小説の中盤までは読んでないって事だな。まぁいいか、みんなが進みたいなら進もう」
よりによって雨なのが痛い。
「えっ? 小説に国境の越え方が書いてあるのか?」
「書いてあるぞ」
「…………」
翼がショックを受けている。
ただし、天候は雨じゃない場合のだが……。
「ところで、このプール……どうしよう」
「本音が出たな」
「えっ?」
「昨日は『浴槽』って言い張ってただろ? やっぱりおっさんもこれは『プール』だと思ってたんだな」
お前は揚げ足取りのガキか!
「最初見た時からプールだと思ってた。これでいいか?」
「今度は簡単に認めるのかよ。つまんねーな」
「……で? このプールどうする?」
森の中に四角い建造物がある異常な空間。
アイテムボックスに入れたいが、地面とプールが固定されているため持ち上げられない。
破壊するにしても俺なら槍を刺せるが、きっと他の奴じゃ無理だろう。
「土を操れるなら、土をなくす事もできるんじゃないか?」
「なるほど。やってみるか……」
土魔法。これは土を作る魔法じゃない。土を自在に操る魔法と思えばいいんだ。
プールの壁に手を触れ、更地になるイメージをしながら魔法を使う。
「【サンド】」
屋根と中央の仕切りが溶けて、どんどん形が変化していく。
その調子…………その……ちょう……し?
「おっさん、土魔法苦手だろ?」
「土魔法に限らず、魔法の威力が高すぎて、抑えるのが難しいんだよ」
ゆっくり長く使える魔法なら対処法を編み出した。しかし、今回みたいな大きな物を消し去るにはそれ相応の魔力がいる。
「その言葉、全世界の人を敵に回すからもう言うなよ」
「……はい」
今日は何だか翼に怒られてばっかりだ。
寝起きが悪かったからかな…………。
俺たちは二五メートルの直方体の土に早変わりした元プールを背に歩き出す。
入れ物の中が平らにならなくてもいいと思うんだよ……。
魔法って難しい。
俺は外套を持っているが、他の人は誰一人持っていないため、使うのをやめた。
「キャ!」
「志穂、大丈夫か?」
「……う、うん」
時々、田中姉妹が山道の泥濘に足を取られている。
翼が志穂に駆け寄り手を貸す。
「おっさん、志穂と美穂が限界だ。一日延期してもいいか?」
翼が志穂の靴を脱がして足の状態を確認した。
靴擦れが酷く、足の踵の皮が剥けて、血が滲み出ている。
ずっと隠して歩いてたのか……、なぜきちんと言わないのかな……。
工事現場でも熱があるのを隠して働いてる奴がいたが、事故の原因に繋がるためよく注意した。
いざ走って逃げなくてはいけない状況になった時、あの足では走れないだろ……。
「この雨が九日目の雨なら、一〇日目の明日も雨だ」
小説内の天気はこの世界でも同じ天気になるはず。
ただし、北と南、平地と山地でも天気が変わってくるため、小説のポイント限定でしか天気は分からない。
しかし、俺たちが向かっているのは北。小説の俺も一〇日目は北の領地にいる。天気はさほど変わらないだろう。
「俺が作った体力回復ポーションをやる。靴擦れぐらいなら一口飲むか、患部に直接かければ簡単に治るはずだ」
どの程度まで回復するかは試してないから正確には知らないが、ティリアの手首の痣は酷かったけど一口で治った。
他にも昨日盗賊の一人が腕を斬られたそうだが、俺の作ったポーションを使ってくっつけたらしい。患部に直接かけると皮膚組織がそこを中心に修復されるため、腕も治るんだとか……。
接着剤ではないんだけどな。
実際に斬れた部分を見せてもらったけど、不思議な事に傷が全く見当たらなかった。疑うわけではないが、現場にいた翼に裏付けは取ってある。
失った腕を復元させるには上級の体力回復ポーションの上である、特級が必要らしい。
腕をくっつけるだけなら上級の体力回復ポーションでできるそうだ。
ん? 俺が作ったのは下級の体力回復ポーションだけど……っと疑問に思ったが、言おうとしたらシルに口止めされた。
「とにかく国境まではもうすぐだ。ここを乗り切らなくては確実に追っ手を振り払う事はできない。俺たちは殺人犯から逃げてると思え」
「わかった。このまま歩こう。志穂と美穂は辛いだろうが、とにかく付いて来い。汚れはあとで【クリーン】をかけてもらうって事で気にするな」
「「……うん」」
田中姉妹は戦闘に不向きという理由で、靴を取り上げられ、この世界の革靴を履いている。足のサイズは確かに合っているけど、伸び縮みしない材質で作っているため馴染むまで時間がかかる。それがどうしてもうまく歩けない原因のようだ。
その上、整備された道ではない山道に雨が降ってぬかるんでいる。
靴底にゴムが付いてないから、最悪だ。例えるなら夏靴で雪の上を歩いてる状態に等しい。
俺たち男組はスニーカーやブーツを履いていたので、この世界に来ても普通に履けている。
予備の靴はなく、足のサイズが違うから靴を貸すわけにもいかない……。人数が増えれば移動速度が落ちる。みんなが田中姉妹のペースに合わせる結果となった。




