ご褒美タイム延長で……
布団に入るとシルが抱きついてきた。
「どうした?」
「シロウ、寒いからギュッとして」
「そうか? 今日は風がないから寒くないと思うぞ。それに洞窟の中はもっと寒かった気がする」
「いいからギュッと抱きしめるの!」
「はいはい、わかったわかった」
「もういい!」
シルが怒って布団の中に隠れてしまう。
「みんなが周りに寝てるんだから、あんまりわがまま言うなよ」
掛け布団を軽く開いて布団の中にいるシルを注意する。
ダメか。亀の甲羅のように丸まったままだ。
ふてくされたシルを包むように抱き寄せる。
子供の体温は温かい。
そういえば今日は朝から忙しくて全然シルを構ってやれてないか……。だから、急にお風呂に入りたいって言い出したんだな。
頭を撫でた後にそっと角に触れるとシルの体が一瞬強張った。
むくむく動き布団からゆっくり顔を出す。突然の刺激に声が漏れないように手で口元を押さえている。
「もう少し……力入れて」
やっぱり甘え足りなかったか。
シルが満足するまで角に触って魔力を注入してやる。
手に力を入れると目を見開いて身悶え始めた。
「シロウ、これ好き♪」
夜目がある俺には恍惚としたシルの表情が見える。
魔力酔いのおかげで機嫌はすっかり直ったな。
うっとりして幸せそうだ。
「今日は裏方の仕事ありがとな。きちんと街まで音が聞こえたぞ」
お礼を言おう言おうと思っていたけど、伝え忘れていた。
シルは何をすれば喜ぶかな?
「えへへ。なら、ご褒美タイム延長で……」
「わかった」
シルの魔力量が天井知らずで上がっていくわ。
俺は角を握ってる手を上下に動かして緩急をつける。
シルの全身が俺の手の動きに合わせてビクビクッと反応するから楽しい。
仕上げに角を舐めようと顔を近づける。
シルが俺の唇を手で押さえた。
「それしたらダメ。それすると……絶対に声が出ちゃう」
走り回ったわけじゃないのに、すでに息も絶え絶えだ。
俺の方こそシルの反応が良くて、周りにみんなが寝ている事を忘れてた。
「また明日だな」
「うん♪」
「今日はもう寝よう。おやすみ」
「んー。おやすみのキスは?」
「そんなのした事ないだろ。調子に乗るな」
「んじゃいいもん! おやすみ」
シルが俺の首にキスして布団に潜り込んでいく。俺の腕を誘導して自分の体に巻きつけた。
――――――――――
《勇者:田中志穂》
「あの二人ヤバくない?」
「ヤバいよね。押し殺した声が聞こえたけど……」
美穂が助かるなら悪魔にこの身を差し出してもいいとさえ思っていた。
だから美穂を救ってくれた事には感謝してる。
ところが、シルとかいう魔族がおじさんにベッタリで近づく暇さえない。
翼は翼でティリア姫に色めき立っちゃって……。
口には出さずとも視線がティリア姫を探してるからバレバレなのよね。
ティリア姫のどこがいいのかしら……。
顔? それとも胸? 裏をかいて姫って肩書き?
ティリア姫なんて、おじさん狙いなのが見え見えだって……。
魔法は確かに魅力的だったけど、二人で猛アタックするほど、あんなおじさんのどこがいいのかね。
わざわざ割り込んでまでロリコン趣味のおじさんに恩返ししなくてもいいかな?
「お姉ちゃん、変な事考えてないよね?」
「変な事って?」
「あのおじさんの事。おじさんに恩返しするならお姉ちゃんじゃなくて私がしてあげるからね」
「美穂は小さい頃から『ハゲだけは嫌』って言ってたじゃない。それに和哉君はどうするの?」
「ハゲは今でも嫌だよ……。お姉ちゃんが私のせいで思い悩んでるのがわかるんだもん。和哉は……」
「心配しなくても大丈夫よ。ちょうど今、ロリコン趣味のおじさんに恩返しは必要ないって結論に達したから……」
「それなら良かった。ほっ。ライバルが減った」
「……何か言った?」
「なんでもないよ。おやすみ、お姉ちゃん」
「おやすみ」
バッチリ聞こえてましたよ……。
きっと美穂は牢屋に捕らわれて無力だった自分を救ってくれた男性を美化してるだけだわ。
一時の気の迷いで取り返しがつかなくなる前に美穂の目を覚まさなくちゃ!
ハゲたおじさんに大事な妹をあげるもんですか!
ファイトよ、私!
――――――――――
《王宮:ルフプーレ》
西の森から王宮の執務室に戻り、王様にご報告をした。
「チェルが行方不明になっただと?」
「……はい」
「近衛隊の鎧には発信機が備え付けてあったはずだ。それはどうであった?」
「……ダメでした」
「向こうにはゴンザスがおるんだったな。なら、チェルは捕虜になったか……」
チェルが一人で戦うと言った時は黙認するために現場を見ないようにしている。それが今回は裏目に出てしまい、チェルの行方がわからなくなった。
他の兵士たちはみな投げ返されたが、チェルは投げ返されていない。
人が移動する気配があったので、再度周辺を捜索したが、武器も鎧も見つからなかった。そのため、捕虜として捕まっている可能性も否定できない。
「『帰属の指輪』が【ディスペル】された後、居場所を特定する機能が働く事を知っていたようです。おそらくティリア様も同行しているかと……」
『帰属の指輪』はここ数年の技術だ。ゴンザスが知る由もない。
「地下牢には勇者の一人がおったからな。一緒に逃げている可能性はあり得る話だ。ルフプーレは引き続きチェルの行方、ならびに、勇者たちの動向を探れ! ゴンザスには手を出さずとも良い」
「はっ!」
ゴンザス、ゴンザス、またゴンザス。
一度目は遅れを取ったが、俺が未だにゴンザスの下だと思うなよ!
次の一騎討ちでは絶対に負けん。
「体の良いやっかい払いができたな」
「王様、ルフプーレに聞こえますぞ」
聞こえてるよ。どいつもこいつも……俺をバカにしやがって……。
勇者とゴンザスの首を取って城に戻れば任務完了で復職できるだろうが……。奴らはきっと近いうちに国を出る。そうなるまでが勝負だ。
チェルの奴がヘマしたせいで、俺は実質隊長の座を解任された。
ここで王様に楯突けばゴンザスの二の舞。俺はゴンザスとは違う。
王様と宰相の話は聞こえなかった事にして執務室を退室する。
出立の準備をするため、王宮内の隊長の部屋に行く。
「闇雲に探しても見つからない。日没までもうすぐだ。チャンスは一度だな」
俺は周辺の地図を机に広げて足取りを確認する。
東の草原にいた勇者が西の森で発見されるというのも今考えれば妙な話だ。
姿は確認してないが、チェルを捕らえるだけの実力がある事こそ、相手がゴンザスであった証拠。そこは疑う余地はない。
「まずは東の草原→指輪を【ディスペル】した洞窟……。これを直線で結ぶ」
なぜか中央には数日前から『悪魔の森』と騒ぎになっている森がある。今は切り株だらけになった『不思議な森』だ。
延長線上には何もないが、すぐ近くには北の国境。東や西に行くよりも北に移動したと考える方が自然だな。
なら、西は囮か?
東は未だにハゲたおっさんを捜索しているはずだ。考えなくていい。もし勇者が現れればすぐに知らせがくる。
北に行ってみるか……。
俺は洞窟を目指して走る。
隊長に支給された武具や装飾品は隊長の部屋に置いていく。
下手に鎧を装着していくと居場所を特定される原因になる。だからと言って、そのためだけに発信機を外すわけにもいかない。
私物の鎧を装備して城を出た。
数日もすれば人事が発表されるが、数ヶ月もすれば俺を思い出す者もいなくなるだろう。
洞窟周辺を調査。
生活していた形跡がきちんとあった。
「よっぽど急いで逃げたんだな。果物が実ったままだ」
建物の裏手に回ると、雑草の折れ方から複数人が歩いた痕跡がある。
「やはりこっちが正解だったか。洞窟内の調査より周辺の調査を優先すべきだったな」
俺は山岳部の足元を観察しながら走った。
こちらは一人、向こうは複数人。いくら昼頃出発したとしても必ず追い付ける。
いつもご愛読ありがとうございます。
王宮:ルフプーレ。
より
《王宮:ルフプーレ》
の方がいいかな?
主人公以外の視点の場合は表記するようにしてますが、果たしてどの表記がわかりやすいのか、試行錯誤中です。
今は続きを書く方に時間を割いておりますので、一括修正の予定はございません。
表現の仕方が色々あり、ご迷惑をおかけしております。




