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お風呂④

「俺ちょっと思ったんだけどよー。おっさんって全属性の魔法が使えるんだろ? なら、土魔法で簡単に浴槽の壁を作れないのか?」

「……翼は頭がいいな」

「おっさん、まさか……。気が付いてなかったのかよ!」


 翼がどっと疲れたようにスコップを手放し、その場に尻餅をつく。


「魔法の練習からしてくる……」

「おっさんはすげーのか、アホなのかわかんねーな」

「頼む。一発殴らせてくれ」

「和哉は落ち着け。おっさんにだけは何があってもケンカを売るな」


 翼に渡した小説のとあるページを開いて和哉に見せている。


「これがあのおっさんのステータスか?」

「十中八九間違いない。城壁の粉砕も小説に載ってた。そんな真似ができるのが何よりの証拠だ」

「うへー」


 無駄な努力をさせた事には素直に謝った。


「【サンド】」


 俺は浴槽をイメージして魔法を放つ。

 地面がどんどんせり上がり、魔法の効果範囲にあった木は土に飲み込まれて消える。


「おっさん、もう土魔法は使わなくていいぞ。和哉、呆けてる暇があったら地面を掘ろうぜ」

「……お、おう。そうだな」


 俺が土魔法で作った浴槽は二五メートルサイズのプールだ。

 平らじゃない地面だったのにも関わらず、きちんと滑らかな地面、壁もぶ厚くできあがっている。


「全員で同時に入るには、このサイズの浴槽がいるだろ?」

「へぇ~。おっさんにはこれが浴槽に見えるのか。俺にはプールに見えるぞ? それともこれに湯を張るって言うのか? 問題はそれだけじゃねー。このままだと壁なしの混浴になっちまうぜ?」


 ここまで言われてはもう引けない。おっさんの意地だ。

 やってやろうじゃないか!


 俺は靴を脱いでプールの真ん中に立つ。

 マキナと戦闘した時の魔力量ではさすがにマズいが、プールのサイズを考えるとそれなりの水量がいる。


「【ウォーター】」


 俺を中心に水が生まれてプールの水位を上げていく。

 俺には蛇口レベルの【ウォーター】がある。

 少ない量を必要な時間継続させながら水の量を増やす。それを参考にして魔法を放てばいい。

 毎分五センチずつ。だが、プールの大きさを考えれば上出来な水量ではないだろうか?


「おっさん……どんだけチーターなんだよ」


 腰の下辺りまで水があれば、もういいな。


「今度は【ファイア】」 


 水中にしゃがんで右手を前に突き出す。手のひらから二メートル級の炎を放出し続ける。水中に出す炎はサイズが大きいほど維持するのに大量の魔力を消費するのか。俺には関係ないけど、はっきり言って燃費が悪い。


 んー。これではダメだな。右手の周囲の水温だけが上がっていく。普通の浴槽とは桁が違うんだ。発想を変えよう。


「やったことないけど、魔法二つ同時に……【ウィンド】」


 左手でドライヤーレベルの風魔法を放って熱された水を対流させる。

 もう少しだけ風の出力を上げた方が良さそうだな。空気を押し出すイメージを強くした。

 魔法放出中でも威力の変更は可能か……。


 ゆっくりとだが確かな手応えを感じる。

 魔法のコツは急がない事だ。



「おっさん、そろそろいいぞ」


 翼がお湯に手を入れて水温を確認した。

 俺はずっと湯に浸かっていたから適温がよくわからんかったから助かったな。

 指示を受けて魔法をストップする。


「ふー。あとは壁だな。【サンド】」


 プールの中央辺りに仕切りを作った。っと言っても広いからいいが大半が男な事を考えると、真ん中で区切ったのは少々失敗だったか?

 出来上がった壁は城壁かと見間違うレベルの厚みのある壁だ。

 魔法って難しい。


 最後に水深が少し深いため、プールの壁に槍で穴を空け、丁度いい水位までお湯抜きをした。

 実に四〇分以上の時間をかけて、プールサイズの露天風呂が完成する。


「シロウ……一緒に入っちゃダメ?」

「うーん。せっかく仕切りを作ったし、シルは女湯だな」

「それじゃあ、つまらない」


 つまらないの意味が分からない。

 どうしてそこまで一緒に入る事に拘るんだよ……。


「バトルスーツを着て、男湯(こっち)に入るか?」

「うん!」


 一緒に入ると言って、抱き付いて離れないシルを見て、田中姉妹にはケダモノを見るような目で見られた。

 バトルスーツを着てれば、水着着用の混浴に入るようなものなので、許してもらいたい。


「見た目のスペックはともかく、魔法としての価値はあったから、ちょっといいかなと思った自分が恥ずかしい」

「お姉ちゃんも思った? ハゲたおっさんがロリコン趣味ってさすがにアウトだよね」


 俺は断じてロリコン趣味ではないぞ!

 ほら、シル。いつもの言ってやれ!


「今日も抱き締めてね♪」

「…………はい」

「うわー」

「やっぱり」


 当たり前だが、ティリアとチェルツー、田中姉妹は女湯に入った。その間、覗き魔の撃退やモンスターの警戒をするという名目で翼と和哉がプールの周りを監視する。正確には監視役をさせられていた。


 ロリコン趣味という不名誉なレッテルとともに……俺の信用は地に落ちる。

 俺は断じてロリコンじゃない!


 盗賊たちは初めてのお風呂にどうやって入っていいのかわからないようだったので、俺が先に服を脱いで、お手本を見せる。

 今回も残念ながら脱衣所は設けていない。

 服はプールの(へり)に置くだけだ。


 シルが俺に続いてお風呂に入ろうと、翼を広げて空を飛ぶ。なるほど、お風呂に出入りする時に使う階段がないのか……。

 俺もそうだったが、みんな縁に手をついてジャンプで乗り越えていた。次回作には必ず階段を作ろう。


 あとは各自、好きなタイミングに上がってもらった。

 俺とシルは一時間コースの長湯だ。


「広い風呂なのに、結局俺の太ももの上でいいのか?」

「ここがいいの!」


 そうですか。シルがいいなら気にしない。俺はいつものようにシルを左腕で固定してお風呂を楽しむ。

 広いとは言え外気が冷たいため定期的に追い焚きをしなくてはならないようだ。

 女湯の追い焚きは知らん。

 行ったら逆に何を言われるかわかったもんじゃない。


 翼たちは女性陣四人のお風呂が終わると男湯に入ってきた。


「やっぱり風呂はいいな~」

「疲れた体が生き返るわ~」

「翼、爺かよ!」

「うるせえな!」


 静かに入れ。他にもお風呂に入ってる奴がいるだろうが!

 お湯の掛け合いが始まって、騒がしいが距離が離れてるため、そこまでの被害はない。

 小さな波が少し起こってるぐらいだ。


 ちなみに体を拭くタオルがないので、一旦濡れたまま服を着て、俺が湯船から一人ずつ【クリーン】をかけていく。


「うわー。美穂見て、本当におじさんと一緒に入ってるわよ」


 田中姉妹に【クリーン】をかける時に後ろからだが、俺たちの姿を確認された。


「私がシロウと一緒に入りたいの! あまりゴチャゴチャ言うとシロウが一緒に入ってくれなくなるでしょ! そうなったら二人とも……()()からね♪」

「「以後、気をつけます!」」


 魔族からの死の宣告を受けて田中姉妹が逃げていく。俺がシルとのお風呂を拒否するとあの二人の命がなくなるな。遠回しに外堀を埋められた気分だ。


 そんな事をせずとも、俺はシルとお風呂に入る事は嫌いじゃない。むしろ一人で長湯するよりもシルと星を眺めながらゆっくり入る方が好きだ。

 今後シルから一緒に入りたくないと拒否される事はあっても、俺から拒否する事はないと思う。



 夜営はプールのお湯を抜き、その中に布団を敷いて寝る事に決まった。

 図らずも丈夫な壁があるから安心というわけだ。


「うげ、翼と一緒に寝るのかよ」

「それは俺のセリフだ。だが、俺たちのためにわざわざ布団を提供してもらったんだ。贅沢を言うな。布団をお借りします」

「……お借りします」

「いいって事よ」


 翼が和哉の文句を(たしな)めてから、盗賊たちに頭を下げた。この辺りの礼儀はさすが日本人だ。もちろん和哉も翼に倣って頭を下げていた。


 どうしても布団の数が足りなかったため、二人で一つの布団を使用する。

 俺はもちろんシルと一緒だ。

 隣の布団ではティリアとチェルツーが寝る。

 田中姉妹も二人で一つだ。この姉妹は召喚されてからよく一緒に寝ていたらしい。心細かったんだろう。


 この世界に来て初めての夜営は意外と大所帯になった。

 夜の見張りはテイムモンスターたちに任せる。

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