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○○さんが素敵な男性に見えてきたな

「アニキ、その女もう起きてますよ」

「…………」


 そうだったのか……。全然気が付かなかった。

 ゴンザスがバラしても、チェルは気絶を装っている。起きてると言われてもう一度チェルを見るが俺にはさっぱり見分けがつかない。

 素人の目は誤魔化せても、元軍人の目は欺けなかったようだ。

 隙あらば逃げ出して敵の情報を持ち帰る気だったのだろう。


「シロウ、この子もらっていい?」

「一応捕虜だけど……何するんだ?」

「そうですよ。生かしてこその捕虜ですよ! ここで殺したらせっかく連れてきた意味がありません」


 捕虜として連れて来たが、国を出た後の方針は決まっていない。

 今のところティリアの中ではチェルを人質に国境を越えるつもりだ。

 人質をとる辺りはあの王様の娘なのか、それが最善策なのかはわからない。

 ティリアは『せっかく』と言ったが、実際に連れてくる苦労をしたのは俺。ティリアは俺の左腕の中で運ばれていただけだ。

 鳥? 鳥はチェルの頭に乗って、雪だるまから出てる蜘蛛の糸の束を咥えて必死に振り落とされないように耐えていた。最初はきちんと飛んだんだ。ところが、一〇秒も経たずに移動速度についてこれなくなり、ピーピー鳴きながら失速してしまった。今は体力を使い切って仰向けで寝てる。コイツも体力ないな。


「殺さないよ。下級魔族にするの!」

「ま、魔族だと!? 貴様はいったい何者だ!」


 あ、チェルが声を出した。

 相手の意志に関係なく一方的に魔族にできるなら、気絶したフリを続ける意味がない。

 ティリアも俺と同様に驚いている。人間を魔族にする(すべ)が存在するのか……。

 ちょっと興味あるな。

 ティリアは悩んでいるが、このままではどちらにしろ移動に支障をきたしそうなので、見守る事にしたようだ。

 二人でシルに頷く。


「私の名はシルヴァーン。魔王軍四天王の一人。今からお前は私の駒になるのよ」


 シルが魔族の雰囲気を醸し出して、ニヤリと笑う。

 鞄から饅頭を一つ取り出して、包装紙を丁寧に開く。開くたびに禍々しい空気が漏れ出している。

 マキナが食べてた時、あんなに禍々しかったかな? 単純に饅頭を持つシルの手からオーラのようなモヤが出ている気がする。単なる演出か……?


「やめろ! 私は魔族の手下にはならん!」


 雪だるま状態で逃げる事ができないチェルが慌て出す。もちろんシルはお構いなしだ。顔に饅頭を近付けて恐怖する姿を楽しんでいる。


 それを見せられたティリアは自分には関係ないのに顔が真っ青だ。


 普段は穏和な幼女のイメージだが……やっぱりシルって魔族だな。

 シルは暴れるチェルの口を左右から手で押して開かせる。そして饅頭をチェルの口に押し込んだ。


 吐き出されないように頭を上下から押さえる。シルは幼女に見えても筋力値が四〇〇を超えているからな。チェルがどんなに足掻こうが五倍の差は埋まらない。それでも何とか吐き出そうとチェルが必死に頑張る……。

 抵抗は一〇秒ほどで終わり、チェルが白目を剥いて動かなくなった。


 マキナ! それからリー!

 やっぱりヤバい饅頭だろ!

 二〇〇年物は伊達じゃない。


 盗賊たちが知らずに食べたら大変な事になってたな。


「これ……本当に死なないの?」

「体に変化が起こったから成功したよ」


 ティリアがシルに恐る恐る確認する。

 失敗した場合については聞かない方が良さそうだ。

 見ている目の前でチェルの体が縮み、顔が幼女になっていく。

 魔族=幼女なのか?


「シロウ、ステータスを見て」


――――ステータス――――

 名前 チェル

 性別 ♀

 職業 近衛騎士→下級魔族

 レベル 四〇→一


 HP 二二〇→二〇〇

 MP 三四→五〇


 筋力 八八→六〇

 体力 六二→四〇

 素早さ 九五→四〇

 かしこさ 三→一〇


 称号

・人工魔族


 能力

・剛剣

――――――――――


「チェルの職業が下級魔族になったぞ」

「この子の名前はチェルって言うのね。なら、君の名前は今からチェルツー。私の命令は絶対です」

「……はい!」


 口の中に残っていた饅頭を全部飲み込んでから、チェル改めてチェルツーが返事をした。

 俺はアイテムボックスから槍を取り出して一振りする。チェルツーを縛っていた蜘蛛の糸が左右にバサッと開く。

 今日の全知全能は有能すぎる。


「前の記憶は……残ってるから会話が成立するんだよな……」

「人格形成はこれから時間をかけて行われるの。引き継がれるのは言語や技術と言った能力だけ」


 あと容姿な。チェルの幼少時代の顔を知らないが、きっと目の前の幼女の顔がそうだろう。


「チェルとしての器がリセットされてチェルツーとして生まれ変わったの! すごくない?」

「すごいとは思うけど……これ大丈夫なのか?」


 人格がねじ曲げられたどころか、角ありの幼女になった……。色々と心配だ。


「生まれたてだから弱いけどね」


 いやいやいや、レベル一の割には絶対強いぞ。

 下級魔族でこのステータスなら、魔族は確かに全体的に強くなる。


 立ち上がったチェルツーの下着が重力に負けて落ちた。

 誰か幼女魔族に羞恥心を教えてくれ。

 服はシルの予備を渡す。受け取った服をその場で着替え始めやがった。

 ゴンザスは空気を読んで離れて行く。その時に顔色の悪いティリアをさりげなく連れて行った。

 俺も逃げ出したかったが、シルが俺の左腕に抱きついてこの場を離れる事を許さない。


 チェルツーを紹介するために勇者たちのもとへ行くとチェルツーの顔を見て、ギョッとする。顔はチェルを幼くしただけだからな。

 あらましを説明すると、渋々だが了承してくれた。チェルには苦い経験をさせられたのだろう。そんな奴と一緒に行動はしたくないよな。

 志穂と美穂は同じ女性として少しだけ同情していた。


 休憩も終わり、国境に向けて歩き出す。


「チェルツー、モンスター退治」

「はい!」


 体格の割りに剣が長すぎるが、もともとチェルが持っていた剣を持たせている。

 剣を片手にネズミのモンスターに突っ込んで行った。数は多いが弱い。

 チェルの頃の動きは技術として覚えているようだが記憶の中の体格と手足の長さが違うため空振りが目立つ。


 実戦に勝る練習なしとはよく言ったものだ。

 最初に比べて五分後では見違えるように動きが良くなった。

 この順応性の高さが近衛隊のチェルの実力か……。


 五〇体ほどの巣で暴れてレベルが一気に四まで上がった。

 攻撃もたくさんもらったために服がところどころ破れている。


 モンスターが出るたびにチェルツーが働く。

 ゴンザスはそんなチェルツーの立ち位置に自分を重ねて自分なら複数のモンスターからの同時多方向攻撃をどう対処するか、斧を手に持ち演武をしていた。


 たまに箒を振り回してたのは……イメージトレーニングだったのか……。

 元隊長だと思って動きを見ると、すごいけど、盗賊のボスが箒片手に同じ事をしていた時は、ドン引き以外の何ものでもなかった。


「国境に着くまでに少しは成長してくれればいいけど……」


 レベル一から始まった幼女に道中のモンスターを任せている俺たち勇者一行って傍から見たら、鬼畜だな。新人に仕事を押し付けている上司の気分だ。


「今日はこの辺りに夜営しよう」


 さすがに一〇人を越える人数で歩けば足並みは遅くなる。

 半日では国境までたどり着かなかったため、多少開けた山道で一夜を明かすことになった。

 国境越えを果たすにはそれなりに体力がいる。


 今はコックが作った料理をみんなで堪能し終わったところだ。

 俺は全員に【クリーン】をかけて一日の汚れとニオイを取り去る。


「シロウ……」

「どうした?」

「お風呂に入りたい」

「無理難題とは言わないけど……それなりに森だぞ」

「えっ? お風呂があるんですか?」


 いきなり田中姉妹の姉の志穂が俺とシルの会話に参加してきた。彼女も日本人だ。【クリーン】だけでは、嫌なのだろう。


「風呂桶のような物はないから、地面を掘って浴槽を作らなくちゃいけない……。それさえ手伝ってもらえれば、お風呂に入る事ができるぞ」

「わかりました! 翼、地面を掘って!」

「やっぱり俺がするのかよ!」

「可愛い彼女のお願いは聞くものよ?」

「何が可愛い彼女だよ。自分が風呂に入りたいだけだろ? 魔性の女め」

「そんな事言っちゃうんだ。四郎さんが素敵な男性に見えてきたな……」

「出た得意の『○○さんが素敵な男性に見えてきたな』発言」


 志穂は男をアゴで使うタイプだな。

 美穂が戻ってきたおかげで不安感が薄れて、少し心に余裕が出てきた証拠か……。


 翼は文句を言っているが、盗賊のアジトにあったスコップを持って地面を掘り始めた。

 すでに翼が地面を掘り始めて一〇分が経過。その間に美穂の彼氏の和哉も穴掘りに強制参……自主参加している。


「おっさん、どのくらい掘ればいいんだ?」

「肩まで浸かれればいいぞ」

「翼、もう少しだ。頑張ろうぜ!」


 和哉が汗を(ぬぐ)いながら翼を励ました。

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