これが全知全能の力か……。
「あー、動くな。体力が残り六だ」
たぶん動くとお腹の怪我のダメージがあるのだろう。俺が引き摺ったのが原因かもしれないが……。
せっかく仲間にしたのに、このままでは見殺しにしてしまう。
俺は急いで森に入った。
その間にブラウンベアがモンスターに襲われない事を願うばかりだ。
そして目的の物は目を凝らすとすぐに見つかった。
――――ステータス――――
名前 薬草
レア ★☆☆☆☆
効能 葉を食べるとわずかだが体力が回復する
備考 回復薬の材料
――――――――――
とりあえず根ごと抜いて、ブラウンベアのところに戻る。
あと体力三だけど、生きてるな。
俺は大葉のような葉を一枚千切ってブラウンベアの口に入れる。すぐにムシャムシャ食べ始めた。このクマ図体はデカいのに、なんか可愛い。
手から餌をあげられると愛着が沸くな。
体力が一〇回復して一三になった。
しかし、このままでは体力が微減していつか死ぬ。
薬草は回復薬の材料になるらしいが、作り方がわから――いや、わかる。
錬金術なら体力回復ポーション、調合なら回復薬だ。
これが全知全能の力か……。
知りたい情報を問い合わせると頭の中に直接その情報を入力されてるような感覚だ。
内容は一瞬で理解できる。しかし、知りたいと思うまでは知識がなかったはずだが、もともと知っていたのに、忘れていて今思い出したむず痒さが残る。
魔力が存在するんだから魔法も存在するはず。
ポーションを作るより回復魔法を使う練習をした方が早い気がした……。考えたら負けだ。
それに根ごと抜いてきた薬草にも失礼だ。
入れ物や道具がないと難しそうだけど、遭難者向けの作り方の知識もあった。
効能は下がるようだが、その方法で行う。
まずは薬草の葉を摘み、平らな石の上に置く。
丸い石で叩くようにしながら繊維を砕く。
「子供の頃に雑草を潰して遊んだな……」
本当は乾燥させた薬草の葉を用いるのがいいらしい。乾燥椎茸の方が栄養がある感覚か。そういうもんなんだろう。
細かく潰した葉を手の上に移す。
そこへ川の水を掬い零れないようにかけてやる。
水は綺麗な水ほどよく、蒸留水が最もいいらしい。
そして本来は綺麗な水にモンスターの魔核の粉末を溶かした魔力水を水分として使うそうだ。
モンスターの魔核とはモンスターの体内に必ず一つ存在する。心臓のような物。
今回は手元に何もないため川の水を使った。
だから、とにかく多くの魔力を流す。
魔力と反応した薬草の葉は液体をピンク色に変化させていく。体力回復ポーションは赤色が濃いほど効果が高いとされている。
「全知全能恐るべし……真っ赤じゃん」
俺は出来上がったばかりの特濃ポーションをクマの口に流し込む。
途端に舌を出して『これ不味いよ』の顔をした。
誰も味の保証はしていない。
雑に作ったが劇的な効果を見せる。
打撲なのか、骨折だったのかは知らないが、傷口の腫れがひいた。
ステータスを確認すると体力が全快している。
緊迫していたために体力の部分しか見ていなかったが、称号欄に《勇者の加護》っていうのが増えていた。
加護を与えたつもりどころか俺にそんな加護があった事に驚きだ。
「ブラウンベア、川で魚を取ってくれ」
コクッと頷いた。やはり偶然ではない。言葉を理解できるようだ。
躊躇わず川に足を踏み入れ、岩陰の少し流れが緩やかな場所で魚が来るのを静かにジッと待つ。
爪を伸ばしてヒュンッと川を刺すと、爪に魚が刺さっている。
「お見事!」
俺のいる川岸に魚が放られたのでキャッチした。
俺は焼き魚を作るべく準備に取りかかる。
魚は槍でトドメを刺して岩の上に置いた。
再び森へ入った。
ブラウンベアがそうだったように森では木々をかき分けて歩くため、春の陽気を感じる日でも、地面には枯れた枝葉がたくさん落ちている。
一抱え分を集めて川辺に戻った。
「もういいぞ!」
右手で取って、左手の爪に魚を移す。を繰り返して一〇匹以上が左手の爪に刺さっている。
止めなかったら延々取る気だったのかな?
俺はブラウンベアから魚を受け取った。魚の口を開いて木の枝を差し込む。
さて、火の起こし方は数パターンあるが、全知全能は火の魔法を使えと訴えている。でも、俺はそれを無視した。
「アウトドアって好きだったんだよな」
俺は真っ直ぐな枝を選んで、枝を石に垂直に持つ。落ち葉を周りに敷き詰めて……。
「いざ!」
シュシュシュシュシュ――ボッ!
早い……。三秒もかからなかった。
枝を擦った摩擦熱で落ち葉に火が点く。
焼き魚を食べる事しか頭になくて、勇者だって事を失念していた。今なら石を擦りあわせても火を起こせるかもしれん。
落ち葉から枝に火を移し、火力をどんどん上げていく。
火の周りの地面に魚を刺した枝を立てて準備完了だ。
「あとは焼けるのを待つ」
俺が焼け具合を見ながら枝を回すと、ブラウンベアも真似をして枝を回す。
微笑ましいな。
棚ぼたで身の危険を感じない強さを得たが、目と鼻の先にはさっきの街がある。まだまだ安心はできない。
もしかしたらあのまま右の街道を進んでいくと、王様が差し向けた盗賊や刺客が待ちかまえていたかもしれない。
何たってモンスターを仲間にできる世界なら、俺には想像もつかないような移動方法が存在してても不思議じゃないからな。
魚を焼きながら能力を確認する。
「こんな事なら篤史が休憩中に読んでたラノベを借りて読んでおけば良かったな……」
中卒で道路工事のアルバイトをしていた新人だ。
世間話をしてもしっかり受け答えをしてたから、頭が悪い印象はなかった。
事情は人それぞれで踏み込んで聞かなかったけど、休憩時間はいつもポケットに入れて持ち歩いていたラノベを読んでいたのが印象的だった。