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追っ手②

 王宮:ルフプーレ。


 人海戦術で探すため兵士を先行させたが、その数がどんどん減っていく。


「ご報告します。六名が何者かにやられたようです。連絡がとれません!」

「ちっ! あのガキ共が舐めた真似を……。私が直接行ってやるわ。ルフプーレ、兵士を下がらせて」

「もう行くのか? まだ勇者の姿を確認してないぞ」

「この先の森に居るのはわかったわ。それだけで十分よ」

「ゴンザスが現れたらすぐに呼べ」

「わかってる。そんなに心配するなって」


 やれやれ……。剣の腕前はピカイチだが短気で短慮。早く勇者の相手を終わらせて街の中に逃げた囚人を探したいんだろう。

 もちろん理由は斬るためだ。


「兵士に退避命令を出せ。戻り次第、点呼を取れ」

「はっ!」


 兵士の代えはいくらでもいるからいいが、ここで手柄を立てねば俺もチェルも後がない。


――――――――――


 ピーという笛の音が聞こえた。

 兵士たちが森の外へ逃げていく。


 終わりか? っと思っていると王の間で見た鎧を着た奴が歩いてくる。


「あれは父上を守る近衛隊の副隊長です。何度かお目にかかった事がありますが……。冷酷非道な女ですよ」


 やはり近衛隊っていうのは上質な鎧を装備してた集団だ。階級に格差を付ける事で近衛隊に入隊したいと思う若者が増える狙いがあるのだろう。


「ところで、あの女は強いのか?」

「勇者の模擬戦の相手をすると聞いた事があります。一方的に痛めつけるという噂もありますが……」

「一方的にか……一人でやってきたって事は、四人が束になっても勝てん相手なんだろうな」


 ワイルドスネークとシャドースネークには空気に毒を混ぜてもらう。


「いるのはわかってんだ。今ならまだ間に合う。王宮に戻ろう」


 抜き身の剣を振って、視界を遮る植物の蔦や枝を斬っている。その動作は躊躇いがなく、人が近くにいても平気で巻き込みそうだ。


――――ステータス――――

 名前 チェル

 性別 ♀

 職業 近衛騎士

 レベル 四〇


 体力 二二〇/二二〇

 魔力 三四/三四


 力  八八

 賢さ  三

 耐久 六二

 敏捷 九五


 称号

・勇者殺し


 能力

・剛剣


 犯罪歴

・殺人

――――――――――


 はい、アウト。

 勇者殺しとか、それ魔族の特権じゃないの?

 人間が所持していい称号じゃないからな!


 近衛隊って職業は近衛騎士になるようだ。

 王を守る騎士でもステータスはこの程度か……。


 俺と出会う前のシルでも一対一ならまず負けない。このレベル帯の騎士に取り囲まれたらわからんが……。


 普段からレッドベアやケルベロスのステータスを見ているだけにステータスが非常に低く感じてしまう。

 あの二体はすでに魔族領クラス。その上《勇者の加護》のおかげでステータスが二倍。

 向かうところ敵なし。

 本気で暴れたら、俺かシルが出撃しないと死者を出しても止められない。


「クソッ! どこにいる!」


 副隊長と言われていたこの女はダメだ。戦う価値もない。

 ヘビの毒に侵されて視界が霞んでる事にも気付かずに同じところをグルグル回っている。

 デススパイダーがゆっくり細い糸を絡ませて動きを鈍らせていく。毒と糸の連携プレーだ。


「ズルいぞ! 正々堂々勝負しろ!」


 保護しに来たはずが、いつの間にか『勝負しろ』にすり替わっている。最初から翼たちを殺す気だったな。


 自分の周りの蜘蛛の糸に気が付いて必死に剣で切り裂いている。しかし、腕に絡まった糸が一気に(しぼ)られ手を上げた体勢で空中に張り付けにされた。

 他の兵士たちと同様にデススパイダーが蜘蛛の巣に連れて行く。


「ルフプーレ! 助け……」

「チェル! なにがあった! どこにいる、返事をしろ!」


 耳をすまそうが返事はない。副隊長はすでにデススパイダーが作った繭の中だ。


「チェルまでやられたか……。一斉に森を焼け! 勇者たちは草原で兵士を殺した罪人だ! 決してこの森から逃がしてはならん!」


 いくら不良っぽかったとは言え、翼たちが兵士を殺すとは思えないんだけどな……。

 罪状のでっち上げか……? あの王様だもんな。俺は不敬罪だっけ?


 森に入らずに待機してた魔法使いが男の指示で火魔法を放つ。

 詠唱を終えたそばから再び詠唱を始めるもんだから、至る所から次々に火の手が上がる。

 俺たちの位置が特定できていないため、本当に森全域を焼く気だ。


「ご主人様、どうしましょう……」

「どうしようか……」

「たとえ相手の魔法使いが一〇人でもご主人様なら水魔法で消火できますよね? このままでは森が焼け野原になってしまいます。水魔法で森を水浸しにしたって言ってたじゃないですか……。ご主人様ならできますよね?」


 それは俺も考えた。

 火には水。当たり前の事だ。


「俺が水魔法を放った後の森がどうなったのか聞いただろ? 一時的に森が活性化し過ぎて、最終的には砂漠化に向かう」

「でも……」

「それでは意味がないんだよ。【ウインド】」

「きゃああああああああ」


 火魔法を放つ時は風向きに注意するんだな!

 俺の髪の毛が飛ばない風魔法を放つ。俺の最弱風魔法であるドライヤー魔法と強い台風の間を目指した。範囲を広めにして威力を抑える。

 正直実用的な魔法が無さ過ぎて困る。


 ティリアが突風に悲鳴を上げたので、左手で抱き寄せてティリアの顔を俺の胸に押し付けた。


「こんな状況に追い込んでドキドキさせるなんてズルい!」

「向こうに位置がバレる。少し黙ってろ」

「……すみません」


「これは【タイフーン】級の風魔法です! こちらが風下ではこれ以上火魔法を使えません」

「くそっ! 神聖魔法の次は風魔法の使い手か……。物理もダメ、魔法もダメ……。仕方ない。一旦出直すぞ。全員撤収しろ!」


「帰る前に荷物を返すぜ。受け取りやがれ!」


 俺は蜘蛛の巣から繭を一つ取って、兵士の方へ投げる。

 繭に包まれてるからバンパーボールに入ってるようなもんだ。

 中に人間一人が入ってるとは思えない速度で飛来した大玉は兵士の前でバウンドして木に衝突して止まる。


「ご主人様」

「なんだ?」

「指示を出していたあの男は危険です。どこまでも任務に忠実で、命令が取り消されるまで何度も兵を整え、再び捜索にくるはずです。ここで始末しましょう」

「また森に来ても俺たちはもういないよ。わざわざ教えてくれたのにごめんな」

「いえ……」


 仲間を守るためなら、攻撃してくる者には容赦しないつもりだが、逃げる者まで追う気はない。

 それに奴らは一ヶ月後の魔王軍との戦争で国が滅ぶ……。

 あと一ヶ月間、必死に生きて欲しい。


 残りの兵士も放り投げていく。

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