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追っ手①

 王宮:ルフプーレ。


 王宮で渡された地図を頼りに俺とチェルは兵士を引き連れて目的地を目指す。

 すっかり木がなくなり、見晴らしが良くなったかつての森を抜けて山岳部まで来た。


「チェル、反応があったのは、そこの洞窟からだ。気をつけれよ。ゴンザスがいるぞ」

「ゴンザスって先王の近衛隊の隊長だろ? 半身麻痺だって聞くし、勇者たちは雑魚いし、束でかかって来られたって負けねーって。どうして上は私一人に任せてくれないのかね……」


 相手の力量を軽く見積もる。チェルの悪い癖だ。止める間もなく愛剣を抜いて駆け出していく。

 せっかく先兵用に兵士を連れて来たのに、無駄になっちまったな。


 勇者はともかく、ゴンザスは俺とチェルの二人であたらないとマズい。

 俺はチェルを追うために草むらから出る。


「よくもまぁ、こんな国の近くに身を隠せたもんだぜ」


 山岳部では水の確保が難しいため、定期的に行われる盗賊狩りでも捜索範囲が狭い。

 ゴンザスはそれを知ってて、丁度捜索されない場所に(ねぐら)を作っていたようだ。


 洞窟の中に入ると道が左右に分かれている。


「ちっ! もぬけの殻かよ」


 チェルの声が洞窟内に響く。

 俺はチェルの声がした右に進んだ。

 道の先には広めの部屋がある。


 部屋の隅に指輪が落ちていた。


「まだ遠くには行っていないはずだ! 何としても勇者を探せ! 逃げるようなら殺しても構わん!」


 野山の探索を得意とする兵士に指示を出す。


 チェルが床に捨てられた指輪を拾った。


「四つ? 三つじゃねーの?」

「さっきは一般兵がいたから言えなかったが、ミホが脱獄したって知らせが入ってる」


 勇者を監禁してた事は一般兵には内緒にしてある。理由はどうあれ、崇める対象の奴らが牢屋にいたのでは示しがつかない。


「それで指輪が四つあるのか……」

「合流したと考えて間違いないな」


 どれも見事に【ディスペル】されている。

 これほどの呪いを浄化できる塩と【ディスペル】を唱えられる者が、この洞窟内に同時に存在したという事だ。

 ゴンザスは魔法はからっきしだった。ゴンザスの他にも神聖魔法に長けた術者が必ずいるはず。

 その上ここに誰もいないって事は【ディスペル】の後は場所が特定されてしまう事を知っていた。

 それは(すなわ)ち国の上層部が関わっている事を意味している。


 ただ一つ不思議なのは生活できそうな洞窟で【ディスペル】が行われた事だ。


「ミホって地下牢に入れた勇者の女だろ? 自力で脱獄を試みるような女には見えなかったけどな……」

「実はかなりまずい事があって、何者かが牢屋の鍵を開けたままにした」

「ほー。洒落た事をしてくれるじゃねーか。被害状況は?」

「牢屋の一つに王族用の脱出ルートがあったみたいでそこから逃走。街の中に逃げられて兵士が出払ってる。こちらに割ける人員が減ったのはそのせいだ。城壁といい、脱獄といい。どうして今回の勇者は問題児ばかりなんだよ」

「まったくだ」


 今までの勇者はちょっと脅せば、言う事を聞いていたのに、今回は異質だ。

 思えば勇者召喚にハゲが混ざったのが不運の始まりだった。


「勇者三人は草原で兵士を皆殺しにして逃亡。指輪はこの部屋に四つ落ちてた。ミホはすでに街を抜け出し勇者に合流。一緒に行動してるとみて間違いない。あいつ等はもう(れっき)とした犯罪者だ」


 俺がゴンザスに負けたのを目撃した者は生かしておけない。

 生き残っていた兵士たちは俺が殺してモンスターに食わせた。証拠はどこにもない。勇者たちの罪状に追加しておけばいいだろう。


「それで勇者を捕らえるのに、非番の私が呼ばれたのか……」

「ああ、訓練をつけた限りだと、あの子たち程度じゃ我々には勝てんからな」


 単純な剣術だけなら俺よりもチェルの方が遥かに上だ。チェルをゴンザスにぶつけてる間に勇者の首を取って帰還してもいい。

 強いのに単純な奴は駒にピッタリだ。



「偵察用のツバメが何者かに撃ち落とされました!」

「わかった。全員に伝えろ! 絶対に逃がすんじゃないぞ! 勇者の相手は俺たち教官が行う!」

「さっそくね。勇者殺しとか。何度経験しても楽しいものだわ♪ あの信じてた相手に裏切られたって顔がいいのよね♪ まぁ私としてはもう少し育ってから狩りたかったけど……」


 チェルは副隊長に就任してからもたびたび勇者を葬っている。

 月に平均一二人の勇者が召喚されるが、王様に刃向かいそうな者がいた場合は俺たち近衛隊に教官役が回ってくる。

 勇者が前ばかり見てモンスターに苦戦しているところを後ろから胸を刺し、あとはモンスターに殺された事にする。そんな事は日常茶飯事だ。


 俺たちの裏の仕事は一〇日おきに召喚される勇者を選別する事。

 大抵は八日目に勇者を殺し、九日目、一〇日目に俺とチェルが交互に休暇を取る。しかし、今回は城壁の警備に必要以上に近衛隊を割いたため、サイクルが狂い、八日目にチェルが休暇をとっていた。


 勇者は殺し損ねるし、脱獄はされるし、さすがにこの失態はヤバい。

 森が切り株だらけになったせいで、奥地に住むはずのレッドベアまで草原近くまで出てきやがった。

 こんな事ならいつも通りチェルも草原に連れて行けば良かったぜ……。


――――――――――


 シルと勇者四人と盗賊たちにはアジトの裏に作った北の国境まで続く山道ルートをそのまま進んでもらっている。

 俺が一度だけ往復した際に適当に枝を払っておいたルートだ。あの時同行したレッドベアに道案内を頼んでおいた。シルも俺を尾行して国境まで行ったはずだから、勇者と盗賊たちの護衛をしてもらっている。俺たちの中で二番目に強いのはシルだからな。


 俺は一人で王国軍の囮になるため、(西)へ進路を変えた。テイムモンスターを大量に出せば人数がいるように装えるからだ。

 でも、出発直前にティリアが『私も行く』と言って付いてきた。危険があるので置いてきたかったが、体力面を考慮すると俺が抱えて走る方が足手まといにならない。


 西側は魔力水の影響はあまり受けてないようだ。ポツポツと太い切り株があるだけで、比較的普通の森が広がっている。


「偵察ツバメを倒したから、相手に私たちの位置を教える事ができたはずよ」

「良かったのか?」

「早く居場所を教えないと兵士が分散しちゃうでしょ?」


 小さい鳥型モンスターが俺たちの頭上を旋回していたため、石を投げて撃墜させた。

 今は追っ手が到着するのを木にもたれかかって待っている。


「それよりもティリアはどうして俺について来た?」

「ハゲたおっさん一人じゃ国境を越えられないでしょうが!」


 ハゲに人権はないのかよ。

 ハゲ=奴隷。奴隷が国境を越えて逃げないための措置か……。


「ティリア様に感謝するのね」

「……感謝、感謝」

「感謝の気持ちが伝わってこない!」


 そりゃあ、感謝してないし……。俺の中では手荷物が一つ増えた感じだしな。


「ティリアこそ俺に感謝の気持ちが伝わってこない。この場で貸した服を返してくれてもいいんだぞ?」

「え?」


 若者と論議する時は、俺の言葉をいくらぶつけてもダメだ。全然聞きやしない。

 だから俺はティリアの言い回しを使って相手を丸め込む。


「俺はティリアにもう少し」

「ごめんなさい!」

「聞こえないな?」

「感謝しています。ご主人様」

「これからもよろしくな」

「はい!」


 やはりティリアは小説通りの性格だった。

 一度相手を認めなくては付き従う事ができないようだ。



「二〇人ぐらいか……。思ったより少ないんだな」

「地下牢の鍵を開けたせいじゃない?」


 俺はティリアを左腕で抱える。

 すっかりティリアの定位置だ。

 右腕で抱えないとシルが怒りそうだが、戦闘が始まれば槍も持たないとダメだしな……。仕方ない。


「レディーの体に触れてるんだから少しは喜びなさいよね。何で私だけドキドキしてるのよ。ハゲのくせに……」


 抱えて移動される事にティリアは不満があるらしく睨んでくる。今は無視だ。

 それよりテイムモンスターそれぞれにテイムをした際結ばれたテレパシー機能で指示を飛ばす。


《デススパイダー、接近する二人を蜘蛛の糸で絡め取れ。シャドースネークは一人ずつ毒を浴びせろ。それから――》


 道から外れると整備されていないため途端に視界が悪くなる。

 分散した歩兵を一人ずつ捕獲した。

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