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田中美穂

「外への脱出ルートは地下牢の壁の裏とか……ベタか!」


 牢屋は堅牢に作られているはずだし、わからなくはないが……。

 小説では美穂も地下にある牢屋に監禁されている……。


 今度は地下道の出口を探す。

 どこへ繋がってるんだ?

 地盤を下げて通路を露わにする。

 これってモンスターたちに突き進んでもらった方が早かったんじゃないか?


 めちゃくちゃ長いぞ……。

 こんなに長い地下道で酸素は持つのか?

 トンネル工事の際に送気ファンで内部に新鮮な空気を送っていたのが懐かしい。


 結構な距離があって、コピーした地形の半径五〇〇メートルを出てしまった。

 仕方なく路地裏を移動する。


 俺が目的の場所を見つけた時、パンパンッと空で破裂音がなった。


「作戦開始だな!」


 俺は古びた建物の前に立つ。扉の構造は――スライド式だ。

 強めに力を入れると簡単に鍵を破壊してしまった……。俺の筋力は全ての防犯をねじ伏せそうだ。


 誰も入ってこないように扉は閉めておく。


 一階の右奥のタンスへ直行する。重すぎて動かせなければ意味がないから軽いだろうと思っていたが、何かでロックされてるようだ。

 仕掛けを解除する装置を探す時間はないから、気にせずタンスを持ち上げ壁からはがして移動する。タンスの裏に地下道の入口を発見した。

 発見したというか、あるのは知ってたんだが……。


 口元に布を巻いて潜入。

 普段使いはされていないため、蜘蛛の巣まみれになっている。槍を縦にして蜘蛛の巣をガード。丁寧に取り払っている暇はないから仕方ない。全長は五〇〇メートル以上もあるため、真っ暗な中、夜目を頼りに走って移動した。



 牢屋の壁裏を探ると足元にボタンがある。

 それを踏むとカチッとロックが外れた。

 忍者屋敷の回転扉のような造りだ。

 隙間から中を覗くと……紫色の髪の女性がいる。


 彼女は両手足を鎖で壁に繋がれていた。

 隠し通路のある牢屋を使うなよ……。きっと失伝したんだろう。


 突然の訪問者に声をあげそうになったその口を手で塞ぐ。


「静かにお願いします」


 女性が頷いたので、手を放す。


「あなたは何者? 私をここから出してくれない?」

「断ったら?」

「大声で看守を呼びます」


 えげつない事を言う。

 時間がないし、俺に選択権はないか……。

 手錠に指を当てる。


「魔法が施されてるから無理よ。鍵は看守が持ってるわ」

「ん? 破壊できたぞ?」


 粉々にしても良かったが……指を手錠と手首の隙間に入れて力を込めたら簡単に開いた。


「うそ……」


 同じ要領で残りの枷も外す。

 女性は手首の痣を手で擦りながらこちらを見てくる。


「あなたは何者なの?」

「それは今回の契約には含まれていない」


 アイテムボックス・オープン。

 アイテムボックスから体力回復ポーション一瓶と服の予備を上下一着ずつ渡す。


「……いいの?」

「その格好で外には出たくないだろ? 俺も目のやり場に困るしな……」


 透けるほど薄い布――ネグリジェだったか? それのピンクを纏っているだけで、下には何も着ていない。幼さの残る顔立ちにもかかわらず、出るところは出て、締まるところはきちんと締まっている。理想的な体つきだ。

 それを隠しもせずに見せつけるように立っている。


「見たければ見れば? どうせ減るもんじゃ――このポーション甘くて美味しい! それにすごい効き目! なにこれ!」

「声のボリュームを下げてくれ」


 男の視線は諦めているみたいな態度だったが、ポーションを一口飲んだ途端テンションが上がった。

 女の子は甘い物が好きだな。

 牢屋で捕まっている事も忘れて騒ぐ始末だ。


 俺は木の扉に耳を当てて廊下の看守の動きを探る。


「時間ないんでしょ?」

「まぁな……」


「ちょっと! トイレさせてよ!」


 女性が扉に向かって大声を出した。

 看守を呼んでどうするんだよ!

 俺がワタワタしていると女性は牢屋の角を指差す。きっと覗き窓からは死角になるのだろう。

 女性は壊れた枷をはめて看守が来るのを待っている。


「はー。面倒くせーな。さっきしたばっかだろうが……。どうせ【クリーン】をかければ済む――」


 ダルそうな声を出しながら、牢屋の鍵を開けて入ってきた。

 入ってきた男の口を手で塞いで腹にパンチ。加減はした! ボキッと嫌な音がして肋骨(ろっこつ)辺りの骨が確実に折れたが加減はした!


 手から落ちた鍵は足でキャッチ。

 看守の服を掴んでゆっくり地面に寝かせる。


「あんたハゲだけど、強いのね。気に入ったわ。わたしの護衛をしなさい」


 今の動きでフードが後ろに飛んだのか……。

 彼女は唇をペロッと舐めた。

 ハゲは余計だ。しかも牢屋に捕まってた身分で何を言う。

 盗賊たち以外の人間にハゲを拒否されなかったのに、よりにもよってその相手が王宮の地下に捕らえられた囚人……。

 世間一般では俺も犯罪者だ。犯罪者同士仲良くしようって事か。

 本当に悲しくなるな。


 扉を開けて外を見た。

 普段はそんなに巡回してない……?


 俺は廊下を歩き、覗き窓を押し開け、囚人を一人ずつ確認する。

 金髪女性がベッドに腰掛けていた。ステータスを見ると『田中美穂』と表示される。


「美穂さん、助けにきました」


 覗き窓から声をかけて鍵を開けた。

 扉を開けると警戒していたが……。


「そのハゲ頭……」


 あんたもかよ! オブラートに包んでスキンヘッド……。変わらんか。


「覚えててくれて嬉しいんだが……まぁ今はいい。とにかく逃げるぞ」

「わざわざ来て頂いてありがとうございます。ですが、私が逃げてしまうと、お姉ちゃんたちが……」


 互いの身を案じて下手な行動が取れない。

 姉妹愛を利用した最高の人質だ。


 さて、どうしたものか……。このままここにいるわけにもいかない。

 正直に言うしかないな。


「俺は隠し事ができない人間だ。だから正直に言うぞ。翼たち三人は草原で保護されてるはずだ。だが、同時に助け出さなくちゃいけなかった関係で、本当に保護されてるかは自分の目では確認していない。すまないけど、顔見知りという理由だけで俺と一緒に来てくれ」

「こんなに御託を並べる人には初めて会いましたよ」


 美穂のツボにはまったのか、クスクス笑い出した。


「悪かったな。ハゲだから女性には敬遠されるんだよ。もう慣れたが、こういう緊迫した状況では不利だな」

「わかりました。あなたを信じて一緒に行きます。きっと逃げるチャンスはそう何度も訪れませんよね。もしあなたの言葉が嘘だとわかった時に次の行動を考えればいいんです。よろしくお願いします」


 最難関課題だった美穂の説得に成功した。

 若い女性って見た目だけで人を判断するから苦手なんだよ。

 元の世界なら間違いなく美穂に不審者扱いされてるな。


 脱獄するついでに他の扉の鍵を開けていく。運が良ければ生きて出られるだろう。

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