よーい、ドン!
俺は朝から外門を出入りする者を見張っていた。すると兵士たちに随行する形で勇者たち三人が姿を現す。
「頼むぞ。東に進んでくれよ……」
ここで東以外の道を選んだ場合は、その時点で作戦が失敗になる。
勇者たち三人が草原へ続く道を歩き始めたのを確認して一人安堵の息を吐く。
本当に八日目に勇者たちを罠にはめにきたな。
日時と場所を事前に知らなければ対策を立てられなかった。
あとは盗賊たちとテイムモンスターを信じて俺は俺の仕事を完璧にこなすだけだ。
盗賊たちにはこれから助ける相手が勇者たちだと伝えた。多少の驚きはあったが、俺が勇者だとバレているので、一緒に召喚された仲間だと正直に説明する。
『なぜ今日なのか』については特に説明を求められなかったためしていない。
ただし、翼たちの名前を教えても盗賊たちは容姿を知らないから『赤髪の男を含めた三人組』とだけ伝えた。翼が前衛なのは小説に書かれているから必ず二人を守る陣形をとっているはずだ。
要注意人物として近衛隊の隊長ルフプーレが同行しているので、くれぐれも気を付けるように言った。レッドベアの攻撃力とシャドースネークの毒があれば無力化は簡単だろう。
ルフプーレの名前が出た時にゴンザスとコックが眉を動かしたのを俺は見逃さなかった。
あとは翼たちの信用を得るために手紙を託す。俺はその間に城に潜入し、四人目の勇者である美穂を助けに行くと概要を伝えた。
「シロウ、私は?」
「シルは魔族だから、今回はお留守番だ」
「えー。チョイ役でもいいからさ~」
っというので、伝説の『たぬき』の文章を布に書いて姿を消したシルに持たせる事に……。
「ぶーぶーぶー」
シルが不満の声を出す。
チョイ役でもいいって言ったじゃん。
「なら、シルには作戦開始の合図をお願いする」
「作戦開始の合図?」
「超重要な任務だぞ。マキナがしてたんだが、魔核をパンッと破裂させるアレをやって欲しい」
「あー! 子供の頃よく遊んだ。それが開始の合図ね。頑張るよ!」
幼女が『子供の頃よく遊んだ』そうだ。
作戦の指揮はゴンザスがする。
全てを丸投げしたので、詳しく内容は知らないが、レッドベアを囮にして先制攻撃を向こうにあげるだけで、テイムモンスターを攻撃されたという大義名分が成立するらしい。
俺は美穂を救い出すために街に潜入する。
外套を着て森から外壁の様子を窺う。
警備が手薄な場所を探しても良かったが、囮のモンスターを出してそちらに視線を集める。その隙に外壁に指を突き刺し、小さな穴を空けながら原始的に登った。
数秒で外壁を突破。こんな簡単に壁を越えられていいのか?
何食わぬ顔をして路地裏を歩く。
建物の間から大勢が列を作っているのが見えた。
公園のような広場だ。ざっと見た感じ千人はいる。
「あれは……炊き出しか?」
森がジャングルになった時、ケルベロスのマーキング効果がなければ作物を収穫する事はできなかった。
しかし、俺は近いうちにこの地を離れる予定だったから、アイテムボックス内にたくさんの食料を確保している。
だから、あの時は収穫量が多かろうと少なかろうとあまり気にもとめていなかった。
だが、保存食すら怪しい世界で突然物資の供給がストップすれば食料の買い占めが起こり、食べられなくなる人が出るのも当然だよな……。
勇者たちが小説通り草原に向かったのは、王宮の中で生活していたため、食料事情の影響を受けにくかったと推測できる。
もし、王宮が貧困に喘いでいたら、とにかくモンスターを倒させて食料の確保を優先させたはずだ。
勇者たちだけを見れば小説と大したズレはないが、そのしわ寄せは貧しい民に来たのか……。
端から端まで見たわけじゃないけど、今のところ外壁の内側に畑があるようには見えなかった。これほどの人口を支えるには外壁の外に畑を作るしかない。
でも、外壁の外側は……。
俺とマキナの一戦がここまで被害がすごかったとは想像もしていなかった。これまでいったい何人の犠牲者を出したのか……。
俺は炊き出しをしている集団を観察する。その中にみんなに頼られているが、一際やつれた男を発見した。
あれは何日も寝ていない顔だ。アイツ大丈夫か?
俺はその男に近づいて声をかける。
「すまない。ちょっといいか?」
「みんな順番を守っているんだ。君だけ特別扱いはできない。きちんと列に並んでくれ」
ボロい外套を着て見窄らしい格好をしていたから、炊き出しが欲しくて声をかけたように見られたのか……。
「食料を提供したい」
「本当か? それは助かる! みんなで力を合わせて必ずこの窮地を乗り越えよう!」
俺がアイテムボックスを使えると説明すると、食料庫に案内された。
備蓄はわずか。あの人数で食べれば、今日の夜には底を突きそうだ。
俺はアイテムボックスからジャガイモ、ニンジン、トウモロコシ、豆類を出す。
ベジタブルロードで大量に採れて食べきれない分だ。炊き出しに使いやすいのはこの辺りだろう。
俺の場合、種さえ残して置けば、魔力水ですぐに収穫できる。
ちなみにピーマンは子供が嫌がりそうだから出していない。
あとはモンスター肉。ネズミ、ウサギ、クモ、ヘビ、シカ、タヌキ、キツネ。
街の周辺に出没するテイムモンスターにならなかったモンスターたちだ。
モンスターは一体のサイズが大きいから、とれる肉の量が多くて助かる。
食料庫にどんどん食材を積み上げていく。
「こんなにたくさん……それに丁寧な剥ぎ取りだ。本当にもらっていいのかい? 今の食料事情を考えれば一財産になるよ」
「俺には必要ない」
俺は退散するように食料庫を出て、路地裏へと引き返す。
「本当にありがとう! 俺は冒険者ギルドでギルドマスターをしている。何か困った事があったら俺を訪ねてきてくれ! 必ず君の助けになろう」
後ろから投げかけられた声に、振り返る事なく手を上げて応じた。
やはり外套を被ったままハゲを隠せば普通の対応をされる。
今回は大量の食料を渡したから、歓迎ムードだっただけで、外套がなければ『ハゲからは受け取れない』と無下に扱われただろうか?
再び路地裏を進む。
先の方で子供を含めた七人が炊き出しでもらった飯を食べている。
「どこの世界にもホームレスっているんだな。日雇いの仕事でも与えて労働力として使えばいいのに……」
あの王様なら足元を見て、低賃金しか支払わなさそうだが……。そもそもお金を支払うかが疑問か……。
『そんなもん。国民の義務だ!』とか言いそうだ。
七人のステータスを見るけど、極端に体力が減っている者はいなかった。
城壁は未だに補修工事中。壁がない分警備が厳重だ。
魔法のある世界なんだから、土魔法で簡単に修復できると思ったが、どうも違うようだな。
術者が壁の側面に手を当てて土魔法を使うと、その部分が五センチほど膨れて終わる。たったそれだけだ。それを延々と繰り返し、縦にではなく横に壁を伸ばしていく。
俺やマキナは魔法の威力が高かったけど、世間一般の人は威力が低いのだろう。その上で土魔法に適性がないといけない。
五人が順番に青い液体の魔力回復ポーションを飲んで土魔法を放つ。
「全部飲んだら、過剰回復だろ……」
ステータスを見ていると、瓶の半分で全快したのに、そのまま全てを飲み干した。
自分の最大魔力やポーションで回復する量をきちんと把握できていないと無理か……。
壁の強度を上げるために鉄筋を埋め込んでいるだろうが、この鉄筋を固定する足場の方は椅子やらテーブルを組んで支えているだけの非常にわかりやすい雑さだ。
土魔法だけでもコンクリートのような硬そうな土を出せるなら意外と便利そうだな。機会があれば練習しておこう。
「みんな考える事は同じか……」
逆サイドも警備が厳重。むしろ正面の方が手薄な印象。
正面突破は最終手段にとっておく。
「周辺地域をモンスターボックスへ反映」
路地裏からモンスターボックスに地形をコピーする。
半径五〇〇メートルの制限がなければ街に入らずに済んだのに……。
そもそもこんな使い方をする機能じゃない。
みんな頑張ってくれ!
よーい、ドン!
モンスターボックス内のモンスターが城内部を走り回る。
俺はレッドベアの部屋を操作。まずは邪魔な城オブジェを消す。
城壁ギリギリまでの地盤を一〇センチずつコマ送りで下げていった。
「ルートがたくさんあるな……」
一階から地下へ下りる階段は全部で五つ。
俺はさらに地盤を下げていく。
その時、モンスターボックスから通知が来た。
早いな。城を溶かして遊んでいたワイルドスネークからだ。
盗賊たちのアジト襲撃の際に入口に配置していたスネークじゃない。あいつはシャドースネークに進化して今は盗賊たちと一緒にいる。
二番手組の中でも出世コースまっしぐらのヘビ。個々で能力に違いがあり、ヘビの中でも毒の扱いがうまい。
「そこか……。みんなもありがとう」
ワイルドスネークが見つけてくれた場所を中心に周辺を調べる。
四郎とギルドマスターの初邂逅。
ギルドマスター、全く気が付かず。




