このステータス、マジ?
城の窓から見ていてわかっていたが、城壁の外には城下町が広がっている。今のところ轟音に驚いて民衆は逃げてしまって姿は見えない。
俺はのんびり街並みを見て歩く。中世ヨーロッパの石造りの建物が多く見られる。
馬車の影響か道端には馬のフンを入れる樽があった。悪臭がしないように蓋を乗せていても臭い。この様子では下水の整備も行われていないのだろう。それどころか飲み水は井戸かもしれない。
そうなると仕事終わりの冷たいビールはもう味わえないか?
城から離れると人が増えてきた。その服装は意外で、日本のラフな格好と大差ない。
ただし顔立ちは外人。髪の毛の色は千差万別で派手。それはいい。おっさんの自覚はあるが、工事現場の若者も翼のように髪を染めていた。
それよりも気になったのは頭の上に獣の耳、お尻に尻尾。ここはコスプレ会場か?
後ろを振り向くと兵士が三人慌てて隠れる。あれで本当に尾行しているつもりかな?
道行く人が必ず俺を見る。
俺の今の服装は夜間の交通整備をしていた時のままだ。悪目立ちする。しかも、車のヘッドライトが当たると光る反射シールまで付けているから太陽の光が反射する。
「ハゲよ」「ハゲだ」「ハゲね」
っとヒソヒソ話が聞こえてきた。もしかしなくても、服装で目立っていたわけじゃない。
みんな俺のハゲ頭を見てきやがる。
もう嫌だ。服を変えたかったが、こんな国からは一秒でも早くおさらばしたい。
俺は街を出る人の列に並ぶ。前の人も後ろの人も俺から距離を取る。俺は病原菌か?
「あれは……?」
街を出る時に、門番に運転免許証のようなカードを見せている。
チラッと後ろを向いて親指をクイクイ動かして『なんとかしろ!』っと指示する。
兵士が悔しそうな顔をして、門番に耳打ちを始めた。
もう一戦お望みなら、それも致し方なし。槍を持つ手が汗ばむ。
「前に進んでください」
「次は俺の番か……」
「次の人どうぞ。前に進んでください」
俺の順番が来たが、まるで見えていないように次の人を呼ぶ。
「前に進んでください」
営業スマイルを崩さず、ただただスルーだ。
その対応に驚いた。
「この辺りの地図はないか?」
「えっ? ……ここにはありません。冒険者ギルドに行けば売ってます」
まさかこちらから話しかけられるとは思っていなかったのだろうが、質問したらきちんと答えてくれた。
冒険者ギルドがあるんだな。
「ありがとう」
「いえ、仕事ですから」
人にお礼を言うのは大事だぞ?
あんな対応さえされなければ俺だってもっと紳士的な行動をしていたはずだ。この国の王様に文句を言ってくれ。
門を出ると右、正面、左と道が三本ある。
乗り合い馬車のようなものまであるのか……。
空いている席は一つ。ダメ元で聞いてみよう。
「腕には自信がある。護衛をするからただで乗せてくれないか?」
コイツは何を言ってるんだ? って顔をされた。
「キャッ!」
「うお! なんだなんだ?」
俺は乗客九人が乗った馬車を片手で軽く持ち上げる。するとみんなの顔色が一気に変わった。
「多少は力に自信があるようだが、ハゲはダメだ!」
またハゲかよ! 俺の頭に恨みでもあるのか?
兵士はこちらを睨んでるし……。俺の行き先を報告するんだろうな。
その後、邪魔をするのか、無視をするのかは知らんが……。あの王様の事だ。ネチっこく嫌がらせをしてくるだろう。
なら……。
「無理を言ってすまなかった」
御者には軽く頭を下げて謝った。
俺は自分の足で進むことにする。その方が自由気ままな旅ができそうだ。
俺がダッシュするとあっという間に外門が見えなくなる。もう一〇分だけ走って、街道の脇の森に入った。
俺は記憶にある正面の道を目指しながら、斜めに森を突き進む。せっかく兵士の目を欺いたのに、方角を間違えて外門に逆戻りとかは、さすがに笑えない。
「この森、結構深いな」
正面の道は途中で左に道が折れていたのか?
歩けど、歩けど。整備された道にぶつからない。
そんな時、森の奥に動物がいた。
意外と大きいな。最低でも二メートルはある。
冒険者ギルドがあるんだからモンスターや魔物と言われる存在がいても不思議じゃない。
俺は視界に入ったそれを目を凝らして見た。
――――ステータス――――
名前 ブラウンベア
性別 ♀
レベル 一〇
体力 二五七/二五七
魔力 〇/〇
力 二三
賢さ 七
耐久 一九
敏捷 一三
――――――――――
クマだ。二足歩行で、木の枝をかき分けて歩いてる。見た目はツキノワグマ。違いは首の辺りの毛皮が白ではなく茶色。ブラウンだ。だからブラウンベアなのか?
反射的に身構えてしまうのは、きっと仕方のない事。ここは死んだフリか?
一応自分の腕を目を凝らして見た。
――――ステータス――――
名前 山田四郎
性別 ♂
職業 勇者
レベル 七八
体力 四五七八九/四五七八九
魔力 二三〇七二/二三〇七二
力 一七三二
賢さ 七九〇
耐久 一五七六
敏捷 一〇三八
称号
・歴代最強勇者
能力
・全知全能
――――――――――
このステータス、マジ?
歴代最強勇者って?
能力の全知全能って神の事じゃないの?
力が凄かったり、扱った事もない槍をいきなり扱えたりしたのはこの能力の恩恵か……。
クマがこちらに近づいてきた。とうとう見つかってしまったが、それよりも人間をやめてしまったであろう自分のステータスに愕然とする。
クマが右手の鍵爪を振り下ろす。俺はそれが届くよりも早く槍の柄でクマの胴体を薙払う。
ベキベキベキッと木をへし折りながら、クマが吹き飛んだ。
「おーい。まだするか?」
まさかのクマが死んだフリ?
体力はわずかに一二だけ残ってる。
「生きてるのは知ってるぞ? どうする?」
よく見ると口から泡を吹いていた。気絶の可能性があったのか……。
倒れている姿を見たが、二メートルじゃ全然きかんな。下手したら三メートルはある……。
無抵抗な奴を殺すほど俺も鬼じゃない。
俺はクマの襟首を持って地面を引きずる。
近くに川が流れているようだから、そこを目指した。
川の流れから考えて行き先はさっきいた国。川幅もそこそこあり、水深もあって、とても綺麗な水だ。
その証拠に小さな魚が泳いでいる。
捕まえたら食べられそうか?
どうやって釣ろうか考えていると、クマが目を覚ました。
上半身を浮かせようとして、俺が攻撃したお腹辺りが痛くて動けないでいる。
俺の姿を捉えてビクッと反応した。
体を大の字に精一杯広げてお腹を晒す。弱点であろうお腹を晒す事で、戦う意志はないと主張してるのか?
降参のポーズと解釈して俺はふかふかの毛皮に興味が湧いてお腹を触ってみる。
【ブラウンベアが仲間になりたがっています】
降伏してるなら受け入れるまでだ。
「今からお前は俺の仲間だ。俺を裏切るなよ!」
顔をコクコクさせて頷いた。
へぇー、すごい。言った言葉を理解できるのか。