草原:勇者イベント①
八日目の早朝。
「アニキ、森がジャングルになってから、笑顔が少なくなりましたよ」
「あー、ゴンザスか。よく見てるな」
「せっかくたくさんの果物を食べられるのに、食欲ないんですか?」
盗賊たちはベジタブルロードで収穫した果物を毎食喜んで食べている。
庭に植え替えた果物の木は俺の魔力水を取り込んで毎日新しい実を収穫させてくれる。
順風満帆と言っていいかわからないが、ここでの暮らしに不自由はしなくなってきた。
しかし、それと同時に考えてしまう事がある。
これだけハデに小説と違う展開になれば、小説通りの未来とは違う結末が訪れるのではないだろうか?
その場合勇者たちは本当に草原に行くのか?
ケルベロスは時限式でセットされていた。だから、必ず八日目にしか現れない。
もし、それに合わせて勇者たちを草原に向かわせるなら八日目以外には有り得ない。
頭では理解しているんだ。
でも、一度抱いた不安を拭えないでいる。
そして美穂の存在だ。
一方を守れば一方が手遅れになる。
やはり翼たちを助けてから……。
「心配をかけて、すまんな。ゴンザスなら離れた二点を同時に守らなければいけない場合、どちらを守る?」
「俺なら――」
――――――――――
《勇者:斉藤翼》
「ほら、今日の演習は草原の調査も兼ねている。場所はもう少し先だ」
「へいへい」
「ちっ! 勇者だからって粋がりやがって……自分たちだけが特別だと思うなよ」
「あ? 今何て言った?」
「何も言ってない。早く歩け!」
「なんか急に態度が激変したと思わない?」
「やっぱり気が付いたか?」
「そりゃあ、隠そうともしないし……」
この世界の住人は上辺だけでも繕うという事もできないようだ。
嫌な事があるとすぐに口に出る。
腹の探り合いをせずに済んで楽だけどな。
「たぶん俺たちが訓練しても良くて一般兵の頂点。勇者の枠にすら入らないというのが王様の耳に入ったんだろーよ」
「それってヤバいんじゃないの?」
「ああ、かなりヤベーな。何がヤベーって国に人質を取られたままって事か……」
「美穂……」
「機会を見て、必ず美穂を助け出そーぜ」
おっさんに助けを求めたいが手がかり一つ掴めなかった。
あれだけの扱いを受けたんだ。すぐに街どころか国を出るよな……。
あの時一緒に逃げていたら……。いや、やめよう。きっと俺たちのステータスじゃ城の外に出るまでに誰かが犠牲になっていた。
「うわああああ。レッドベアがいたぞ。みんな逃げるんだ!」
「何でこんなところに……。今回は草原じゃなかったのか? まぁ早いか遅いかの違いか。お前たち今こそ演習だ。あれを倒して来い!」
倒して来い! って言われてもあのモンスターが尋常じゃないぐらいつえーのは見ただけでわかる。
何たって、モンスターを察知するのが得意な斥候が逃げ惑うレベルだ。あのクマはどこから現れやがった?
一応ステータスをチェックしておく。
――――ステータス――――
名前 レッドベア
性別 ♀
レベル 七〇
体力 二〇一八/二〇一八
魔力 〇/〇
力 三五二
賢さ 七八
耐久 二七六
敏捷 二五六
称号
・#&の?$
――――――――――
デタラメな性能をしてやがる。
俺たちの五倍以上だ。
こんなの勝てるわけねーだろ!
「翼、志穂、混乱に乗じて逃げるぞ」
「美穂がまだ城にいるんだ。俺たちが逃げれば美穂はぜってー殺される」
「でも、どうすりゃいいんだよ。あのモンスターとまともにやり合えば、俺たちだってただじゃすまねーぞ」
和哉の言いたい事はよくわかる。
あんなバケモノを抑えられるほどの力は俺たちにはない。
「ここで見張りの兵士を全員レッドベアに殺してもらうっていうのはどう?」
「それは名案だな。さすが志穂」
俺はレッドベアの餌食になっていない人数を確認する。兵士が一二人に隊長か……。
兵士は全員腰が引けてレッドベアから距離を取っていやがる。
不自然になってはダメだ。
「和哉は接近されたら目くらまし。志穂は回復に専念しててくれ」
「オッケー」
「ええ、わかったわ」
「何をしている、早くレッドベアを止めに行かんか! お前たちがトロいから兵士がやられているではないか!」
「強そーなモンスターだからよー。作戦会議って奴だよ。そんなに暇なら隊長がお手本を見せてくれねーか?」
「なんだと? もう一回言ってみろ!」
「何でもねーよ」
「ちょっと、翼! そんな言い方していいの?」
「ああ。激怒してくれたほーが扱い易いんだよ」
俺はレッドベアと戦っている風を装うために接近する。
今までに戦ったモンスターの中でダントツにつえー。国が用意した盾を爪があっさり貫通しやがった。
この俺が防戦一方になってやがる。
【シールドバッシュ】
盾で相手を押すスキルだ。
スキルの追加効果が発動すると格上でも吹き飛ばして一定時間怯ませたり、後退りさせる事ができる。
角度を気にしながらレッドベアの攻撃を盾で防ぐ。
今だ!
盾をレッドベアに押し当てて勝負をかける。
【シールドバッシュ】、【シールドバッシュ】、【シールドバッシュ】!
確率は数パーセントでもたくさん使えば、いつかは追加効果が発動する。
吹き飛んだレッドベアが腕を広げてバランスを取りながら、反撃してやろうとこちらを睨む。
あと少しで兵士を巻き込めたのにな……。もともと距離を取っていたせいで、兵士には逃げられちまった。
ごめん、巻き込ませる案はいいと思ったんだが……。
二人に心の中で謝る。
「シャドースネークだ!」
「レッドベアだけじゃなく、シャドースネークまで……。くそっ! タイミングが悪いな」
なんか知らんが後ろの方で新手が現れた。
ざまぁみろ。
俺たちはレッドベアと遊んでるから加勢にはいかねーぞ。
っと言ってもさすがに正面は無理だ。俺たちはレッドベアの側面を取るように周りをグルグル回る。
レッドベアは動き回る俺たちよりも動きの鈍い兵士を狙いに行く。
ありがてーぜ。
「このままでは全滅する。今日の演習は中止だ!」
シャドースネークってそんなにヤバいのか?
あれが出現してから隊長が慌てて撤退の指示を出した。




