モンスターが溢れてるから魔核でも採集するかな
《冒険者ギルド:ギルドマスター》
執務室の机に周辺の地図を広げ、冒険者からの情報を書き入れていく。
「こっちの畑も全滅か……」
「野菜が実っていた形跡はあったそうなんですが、モンスターに食べられた後らしいです」
「時間との勝負だな。他の場所の確認も急いでくれ!」
「はい」
外壁の内側に作っていた畑はモンスターの被害に遭っていないが、外の植物のようには成長をしていない。それにもし成長していても土地が少ないため収穫量はわずかばかりしかない。
やはり外に期待するしかないけど、今のところモンスターの被害が甚大だ。
――――――――――
「アニキ、野菜の回収ができるポイントはここまでのようですね」
「ああ」
道の先にもベジタブルロードは続いているのだが、モンスターに食べられて回収ができない。
「アニキ、モンスターが境界線でも気にしてるように一定以上に近付いて来ないのは不自然じゃないですか?」
「俺もそう思う。シルは何か知ってるか?」
魔族なら俺たちでは気が付かない視点でモンスターの行動心理がわかるかもしれない。
「きっと犬っころのマーキング効果だよ。モンスターは強いモンスターの縄張りには入ってこないからね」
テイムモンスターには時々アジト周辺に近付くモンスターを殲滅してもらったが、確かにケルベロスを迎え入れてからモンスターの遭遇率が減った。
シルが犬っころの散歩を楽しんでいたのが、まさかの棚ぼたに結びついたようだ。
この大収穫はコックとシルの手柄だったのか……。
「アニキ、木材の確保をしますか? 林業ができますよ?」
いや、ゴンザスは盗賊でしょ……。
木を乾かすのに何ヶ月かかるんだよ。
俺が棍を作るために丸太を乾かしていたせいだな。
「ゴンザスは先に戻ってアジト周辺を探索してきてくれ。レッドベア・オープン。クマは今からゴンザスの護衛だ」
「アニキも気をつけて!」
「おう」
魔族に認められているゴンザスが森に出現するモンスター程度に負けるとは思えないが、今の森はどこか変だ。
俺は慎重に縄張りの外へ出る。
「せっかくモンスターが溢れてるから魔核でも採集するか!」
「おー!」
最初に出会ったのは木にぶら下がっているモンスター。
「サル……だよな? 動物園にいたらゴリラ扱いだぞ」
手足を含めないで一メートルサイズの巨体のサル。迫力は間違いなくゴリラだ。
警戒してても仕方ないのでジャンプして、いきなり槍で頭を貫いた。
「【クリーン】」
返り血を浴びたが【クリーン】で体の汚れをキレイにする。
強さはそこまでではないようだな。
落下したモンスターを地面に寝かせ、手を翳す。そして【剥ぎ取り】を使った。
サルが肉と毛皮に分かれる。
「魔核が……ない?」
「シロウ、もっとよく見る」
「もっとよく見る?」
しゃがんで地面をよく見た。
「んー。もしかして、この胡麻粒みたいな小さいのが魔核か?」
「正解!」
石の隙間に転がっている黒色の極小サイズの石。これが魔核らしい……。
扱うにはピンセットが必要なレベルだ。
周りの石を退けて、砂ごと一摘まみする。
手の上で砂を転がして魔核を探す。
はい、失敗。どれだよ!
「魔核溶けちゃったね」
魔核って溶けるんだ……。
「まさか……」
サルの毛皮を広げるが指で触るだけで穴を空けてしまう。
「モンスターになったけど、見かけ倒しか……」
「モンスターとしての強さはあるはずだよ?」
「強さはあるのに、素材は悪質って最悪なモンスターだな。まるで魔核を体内に宿したばかりでモンスターのなり損ないみたいなイメージか……」
「正解。モンスターは魔力と魔素が固まって魔核が安定したら生まれるの。今のサルは強制的にモンスターになったからまだ体に馴染んでない。だから魔核も安定せずに外気に触れただけで溶けてしまうの」
きっと裏事情に詳しいのは、魔族領には魔水がたくさん溢れているから、動物がモンスターに変異する現象は日常茶飯事なのだろう。
「時間をかければ魔核は強固になるのか?」
「うん。自然界でモンスターが生まれるまで三ヶ月程かかるって言われてるから、それと同じぐらい頑張るか……、モンスターに経験値を与えて魔核の進化をさせるの」
ブラウンベア→ブルーベアになったのは体内の魔核が進化した事で見た目が更新されたらしい。
ブラウンベアももしかしたら、クマが起源で進化を遂げたモンスターが世界に固定化されたのかも知れん。
モンスターのクマ自体が少ないけど、どこかに動物のクマはいないかな……。
サルの肉に触るとナマコみないにブヨブヨしている。薄皮に包まれているのはスキルのおかげかもしれない。
槍を刺して膜を破ると中から血が混じった水が溢れ出してきた。
サルがモンスターになった時の体積増加は成分『水』らしいな。
「素材が取れないなら狩る意味はないか……」
「お散歩終わり?」
「残念ながら……」
一夜にしてジャングルと化した森だったが。
「森が悲しんでる! 魔力が足りないよ!」
翌日、いち早く異変に気が付いたのはシルだ。
シルに言われるまで昨日と変わらないジャングルが眼下に広がっていると思っていた。
よく観察すると葉の艶はなくなり、新芽は萎れている。萎れた新芽はもう素材としての価値はない。
突然大きくなり過ぎた体を維持するだけで大量の魔力を必要とする。
その結果、たった二日で大地の栄養分を吸いきってしまった。
最終的に今度は極度の砂漠化へと移行するそうだ。
ここまで需要と供給のバランスが崩れてしまうと、そう簡単に元の森には戻らない。
「シロウ、一度森の木を全部切ろう」
「そんな事をしていいのか?」
「このままじゃ周辺の森にまで魔力枯渇が広がるよ。迷っている暇はない」
江戸の町の火事は火を消すために、建物を崩して火の広がりを抑えたと聞く。
魔力を多く必要とする木が減れば、生態系が戻るまでの期間は早くなるというわけか。
シルは魔族だよね?
人間を助ける行為はどうなんだ?
俺は朝飯も食べずに三時間。
木を槍で切って、アイテムボックスにしまう作業を繰り返した。
「シロウ、最後に魔力水を散布してね?」
「……おう。任せろ」
空気中に魔力を供給するため、バケツに魔力水を入れて遠心力で一気に空に水を撒く。
「シロウ、それすごい! あと二回!」
魔法練習場を中心に三方向に水を撒いて終わった。
アジト周辺だけは別枠で魔力水を散布する。
これで薬草の育ちがいいはずだ。
――――――――――
《リーカナ王国:王様》
「王様! 水不足です。すぐに魔術師たちに水を作らせ、民草に行き渡らせるのがいいでしょう」
宰相が言う事はいつも正しい。
「そのように取り計らえ」
「王様の仰せのままに!」
「「「王様の仰せのままに!」」」
今日も平和だ。
――――――――――
《冒険者ギルド:ギルドマスター》
「ギルド長、大変です!」
仕事の疲れでウトウトしているところに女性職員が許可も取らずに執務室に入ってきた。
「俺はいったい何日徹夜すればいいんだ? 俺に睡眠時間をくれ!」
「寝ている場合じゃありません! 突如森の木が消えました!」
「そんなわけあるかっ! お前も疲れているんだ。一回休め」
「いえ、私は八時間睡眠をとったので大丈夫です」
えっ? 八時間も寝れたの?
よく見ると髪の毛もきちんとセットされて清々しい顔をしている。
「街道が使えるようになったため、物資の輸送が行えるようになりました。しかし、食料不足が深刻です。川の水を飲んで飢えを凌ぐ住民が後を絶ちません」
「急いで冒険者たちにモンスターを狩らせろ。肉は通常価格より高く買い入れ、住民に炊き出しを行うぞ!」
食料はあったが、その大半は金持ちに買われてしまい民草まで行き渡らなくなった。
飲食店は売る物がなくなり閉店。または自分たちで食べる食料を確保するために自主閉店をしている。
「ギルド長! 毎日数百金貨の赤字を出しています。すでにギルドの運営資金にまで手をつけています。このままではギルドの存続が不可能になりますよ!」
本来はお客様から依頼があり、冒険者にクエストをさせて品物を納品。仲介料を貰う事でギルドを運営する事ができる。
ところが現在は、その全ての機能を失いつつある。
周辺の調査依頼をギルドが出し、仕事をこなした冒険者にお金を支払う。そのため、収入が一切ないのに支出ばかりが増えていく。
挙げ句の果てに住民の救済のために食料物資の提供を指示する始末。
文句を言われて当然か……。
「みんなの給料は必ず俺が用意する。他の冒険者ギルドに資金援助を頼むから、この窮地を乗り越えてくれ!」
「わかりました! 我々で何とかしてみせます。ギルド長は一時間の睡眠をお取りください」
「いや、二日ぐらい寝かして欲しいんだが……」
「それは無理です。一時間後またきます」
女性職員が一時間の砂時計を持って、部屋を出ていく。
「厳しすぎるだろ……」
俺はソファーに倒れるように眠りについた。
その時の俺は寝られる幸福で顔が――。
「ギルド長! 一時間が経ちました。起きてください。仕事ですよ」
「…………ムリ」
ギルド長……南無。




