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マキナ先生! 質問です

 朝食の後はそれぞれの持ち場へ散っていった。

 盗賊たちが普段何をしてるのかは知らない。数名に関しては交代で入口に立ち、外敵を警戒しているのだけは知っている。昼間限定の見張りだ。


「マキナは何が得意?」


 マキナは俺に声をかけられると角を触られないように手を上げて角を隠す。

 そんな頻繁に角に触ってないと思うんだが……。


「……調薬と鍛冶だ。それがなんだ?」

「是非俺に調薬と鍛冶を教えてくれ!」


 マキナは優秀じゃないか!

 調薬と鍛冶。両方やってみたかった。


「えー、どうしよう……。おっさん、すぐ角に触ろうとするからな」

「もう触らない!」

「本当に?」

「本当だ!」


 マキナの顔が『ずーん』っと落ち込む。

 なぜだ? なぜ落ち込む? 嫌がってたんじゃないのか?


「……やっぱりたまに触ります」

「たまにか……。触らないのが一番嬉しいんだけどな」


 ヤバい。シルの言うとおり、マキナはひねくれ者だ。

 触ればいいのか? 触ったらダメなのか?

 わけがわからない。

 マキナの顔の表情だけが俺に正解を教えてくれる。


「さっきはシルと仲直りのチャンスをくれたしな……。あれがなかったらあとで仲直りの方法で悩んでたし、おっさんには感謝しなくちゃな……。それに何よりカッコいいし……」

「はぁ。マキナちゃんまでシロウにデレデレになっちゃったか……。あの魔力は反則だよ……」


 シルがマキナの変貌ぶりに呆れている。


 露天風呂横の空きスペースに移動した。

 本当は露天風呂を掘った時に出た土を使って釜戸を造ろうと思っていた場所だ。バタバタしてその時間がなかった。

 空きスペースに食堂の長テーブルと椅子を移動して青空教室が完成する。


「それではこれより錬金術と調薬の違いについてお勉強します」

「おー」


 パチパチ拍手するとマキナがノリノリだ。

 鞄から取り出した赤いフレームの眼鏡をかけて幼女の先生が出来上がった。


 眼鏡をかけると性格がガラッと変わる。ちなみに眼鏡は度どころか、レンズすら入っていない。

 隣に座るシルは俺にジト目で非難の目を向けてくる。

 そんなの無視して今は勉強だ。


「錬金術とは魔力を流す事で別の物質に変異させる事です。代表例は体力回復ポーションがそうですね。あれは薬草の葉に魔力を当てる事で物質が変異して溶けるんです」

「へぇー。普通に知らなかった」


 お茶を入れたら茶葉が残る。それは当たり前の事だ。でもなぜポーションの中に薬草の葉が残らないのかは疑問に思っていた。世界が違うのだから、そういう物として自分を納得させてきた。

 あれは魔力が当たると溶けるのか……。


「では、これも知らないですよね。実は薬草の葉は砕かなくてもポーションはできますよ」

「えっ?」


 全知全能に教わった知識が(ことごと)く否定されていく。


「あれは一瓶一瓶に計量して入れるための事前準備のようなものです。あとはそうですね……。魔力効率をアップさせるために魔力水全体に葉を行き渡らせる事を目的に砕いているだけです」

「言われてみれば、確かに……」


 クマにポーションを作った時は薬草の葉をキレイに砕けていた自信はないが、確かにポーションだけになっていた。


「マキナ先生! 質問です」


 俺は挙手する。


「どうぞ。シロウ君」

「薬草の葉を砕く必要がないとするなら、葉を乾燥させる必要もないんですか?」


「薬草の葉は摘んだ後に日に当てる事で効能をアップさせます。表面が黒くならない日陰干しの方がいいという説もありますが、長年の研鑽(けんさん)の結果では断然日に当てる方がいいという結論に達しています」


 やっぱり薬草の葉は天日干しするしかないか……。


「では、調薬とは何か? 聞きたいですか?」

「魔力をづがばだ」


 シルが答えようとしてたので慌てて口を塞ぐ。


「聞きたいです!」

「聞きたいですか……。特別ですよ? 調薬とは、魔力を使わない薬の製造方法です」


 眼鏡をクイッと上げてドヤ顔だ。


「おー、魔力がなくても薬ができるんですね」

「シロウ……なんでそんなに生き生きしてるの?」

「人から教わるって久しぶりだから楽しくってな」


 シルが内緒話で聞いたので、正直に答えた。


 学生期間を終えてからも職場の先輩に色々と教わった。だが、基本的に基礎だけ教わり、技術は教わるよりも盗むものだと教えられた。単に手取り足取り教わったのでは身に付かない部分が多いのだとか……。

 もちろん危険のある行動をすれば瞬時に怒られたし、俺も新人にはそうやって自分で考えられる人間になって欲しくて基礎だけ教えた口だ。


 ところがマキナは持ち上げればノリノリで教えてくれるタイプ。基礎すら知らない俺にはとてもありがたい先生だ。


「薬草の葉から体力回復薬を作ります。乳鉢に干した薬草の葉を入れ、細かく砕きます。砕き終わったら、そこに魔核の粉末を加えます。この二つがきれいに混ざり合うと……」


 薬草の葉と魔核の粉末が化学反応を起こしたようにその色を赤色に変える。

 乳鉢の中には赤い粉末だけが残った。俺が作ったら、一味唐辛子の味になりそうだ。


「初めて見たな……。あれ? でも、ポーションと回復薬の違いって…………水があるかないかじゃないの?」

「素人が見るとそうかもしれませんね。でも、体力回復ポーションを作るためには魔力操作が必要ですし、水がない事のメリットは実は大きいんですよ」


 ポーションの大半は水。そして水はとにかく重い。

 さらにポーションは劣化が激しく、作り置きするとすぐに効力が抜けるそうだ。

 いくら魔力で封をしても空気に触れるため水が痛む。もって一〇日。悪質な物だと二日でダメになるそうだ。


 実際に効力のなくなったポーションを見せてもらうと、液体が上下に分離している。赤いのが上澄みに溜まって、あとは透明な水だ。

 振ったらいいんじゃない? という素人発想はダメだった。一度分かれると水と油のように混ざらない。


 俺にはアイテムボックスがあるから関係ないと思っていたが……。

 ここで信じられないヤバい情報が飛び出した。

 魔核とは魔力と魔素の集まり。

 それを使って作った魔力水は一週間で魔水に変異してしまう。

 そのため五日を経過した魔力水は必ず破棄するように法律で定められているそうだ。


 アイテムボックスに入ってる物は時間が停止するからそれはいい。

 でも俺たちの生活の中でアイテムボックスに入っていない魔力水がある。

 料理や飲み水に使っている水がまさに魔力水だ。本当に危なかった。知らなかったでは済まされない事態に発展仕掛けた。


 その点、調薬で作る回復薬は魔力水を使わないから状態が安定しているため、保存や取り扱いに長けている。


 速効性や回復力だけに注目すれば、圧倒的にポーションに軍配が上がる。だが、どちらも一長一短。ポーションには明確な使用期限が存在するというわけだ。


 そのため性能面では劣るが回復薬の方が人気がある。


「ポーションって意外と未完成だったんだな……。魔力水もか……」


 劣化しないポーションや魔水にならない魔力水の開発は急務だと思う。


「シルが水浴びをしてた魔力水が魔水になってたのは?」

「あれは……私の体に残ってた魔素が魔力水の汚染を早めた結果だと思うよ?」


「俺……シルと一緒にお風呂に入ったけど……」

「シロウの体から溢れ出てる魔力が水を浄化して魔力水に戻してたんじゃないの? 詳しくは知らないけど……」


 それか俺の体には魔水が効かないか……。

 どちらにしろ危険な橋を知らずに渡っていたらしい。


「い、一緒にお風呂?」

「「あっ……」」

「お風呂とは服を脱いでお湯に体をつけるあれですよね? リーもお風呂に入ったと聞きましたが、まさか一緒に?」


 鼻息荒く興奮したマキナの顔が近い。

 頬が上気して、どことなく顔が赤い。


「リーの入ったお風呂……リーの入ったお風呂」


 この娘、リーが好きなのか……。

 今日二度目のそっとしておこう。


「リーちゃんはシロウのモノになったよ?」


 ダメだって! それ絶対乱闘騒ぎになるやつだぞ……。


「おっさん! 面貸せや!」


 眼鏡を外したマキナがいつもの口調に戻る。

 まだ鍛冶を教わってないのに、デレ期が終わってしまった……。

 俺は仕方なくマキナと決闘する事になる。

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