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ゴンザス①

 俺は今日まで盗賊のボスの名前を知らなかった。彼がゴンザス。

 ステータスは見たことあるが、名前まではいちいち覚えていなかった。


 リーが洞窟に来た時に最初に出迎え、世間話をしたらしい。

 魔族だと気が付いていながら、怯える事なく普通に接してくれたそうだ。


 洞窟内を全面清掃して以来、ゴンザスは毎日欠かさず掃除をしている。それは洞窟の外も含まれ、きっとどこかを掃除していたのだろう。


 シルがゴンザスを連れて部屋に戻ってきた。


「お? 貴様がゴン太か! 入口で会ったな。ただ者ではないと思っていたが、やはり貴様だったか」


 マキナから見るとゴンザスはただ者じゃないらしい。シルの角を一瞬で見抜いたのはゴンザスとコックの二人だけ。

 見抜けるという事はつまり一定以上の力を備えている証。


 コックは毎日護衛を付けずに街を往復している。モンスターが闊歩する森を手荷物を抱えて歩ける程度には強いと判断していい。


「ゴン太? 昨日の幼女が俺の事をそんな呼び方してたような……」

「その幼女から貴様にプレゼントだ。ありがたく受け取るがいい」

「プレゼント?」


 マキナが持つその斧は神々(こうごう)しいまでに灼熱を帯びている。一度(ひとたび)斧を振り下ろせば、大地を砕き、岩をも簡単に溶かすだろう。


 恐ろしいプレゼントを用意したものだ。さすが魔王。人間のそれも盗賊が持つには分不相応な斧だ。


 今それがゴンザスに手渡された。


「あれ?」


 気付いたのは俺だけか?

 先ほどまでの印象はどこへやら……。

 ゴンザスが持つとシュンッと内包するエネルギーのようなものが消えた。

 今は真っ赤なだけの普通の斧だ。


 俺は目を凝らして斧のステータスを確認する。


――――ステータス――――

 名前 火炎の斧

 レア ★★★★☆

 属性 火属性を帯びている

 備考 火に愛されし者が持つと本来の性能を発揮する。現在休眠中

――――――――――


 火に愛されし者?

 マキナは火に愛されし者なのだろう。

 火に愛されし者とは……いったい?

『火属性の魔法が行使できる者』


 全知全能が俺の疑問を解決してくれた。

 この武器の性能を最大限発揮させるためには持ち手に魔法の技量を求めるようだ。

 文武両道ならぬ、魔武両道ってやつか。


 そしてゴンザスは火属性の魔法が使えない。それが今、白日の下に晒された。


「アニキ! この斧すごいですよ!」

「……良かったな。大切にするんだぞ」

「はい!」


 本人がすごく喜んでいるから、本当の事を言えない。

 ゴンザスが前に使っていた斧に比べれば、休眠状態の『火炎の斧』だろうと性能の面では上をいく。


 段階を踏んで強くなると考えれば正しい斧のチョイスかもしれない……。

 ゴンザスはマキナに頭を下げて、部屋を出て行った。

 さっそくみんなに斧を自慢するのだろう。


「オレは用事が終わったから帰る」

「今日は色々ありがとうございました」


 リーにはシルが死ぬ時の状況を教えたから、きっと俺とマキナの顔合わせをさせてくれたんだな。


「…………」


 マキナがすごい寂しそうな顔をする。

 あれ? なんか対応間違えた?


「どうして引き止めてあげないんですか!」

「えっ? 引き止めて欲しかったの? だって『用事が終わったから帰る』って……」


 シルの発言に『そうそう』みたいな顔で頷き、俺の発言で『ずーん』みたいな顔で落ち込む。

 顔が百面相のようにコロコロ変わる。


「マキナちゃんは素直に気持ちを伝えられないんですよ。本当はリーちゃんが楽しそうに話す姿を見て、シロウの事が気になって気になって仕方なくなり、ここまで来たんです」

「バレた!」


 まさかの正解。マキナが驚愕の顔をした。

 シルの目から見るとマキナは素直じゃないらしい。


 そういう()だって知ってれば、そういう対応をする。でも表情を見れば、意外と素直じゃないか?


「ほら、やっぱり……。シロウにチョッカイを出したのも自分に構って欲しいからですよ。きっと口では『殺してやる』と言って、いざ毒で死にそうになったら、解毒薬を飲ませる準備をしていたはずです。マキナちゃんはひねくれ者ですから……」


「そんな言い方しなくても……。シルの馬鹿! もう帰る! キャ!」


 俺は怒って帰ろうとしたマキナの角を掴む。

 オレっ()としては珍しく女の子らしい悲鳴を上げ、足の力を失い地面に女の子座りをする。だが、手は放さない。


「これ……ダメ……。シル……」


 マキナは力なくシルの方へ手を伸ばす。

 そこに追い打ち。角を握る手に少し力を入れる。


「ひゃあああ!」

「シロウ、手を放してあげて」


「はぁはぁはぁ……シル……ありがとう。このおっさんは危険だ」

「ケンカしたまま帰るなら俺を悪者にしてでもいいから、仲直りしてから帰れ。シルも言い過ぎだ」


「おっさん……」

「シロウ……」


 こんなハゲたおっさんでも仲裁はできる。

 仲裁の仕方は色々だが、若い子は同一の敵がいると仲直りがし易い。


「マキナちゃん、ごめんね」

「ううん。シルはいつもこんなオレを助けてくれる。ありがとよ」


 二人が俺から離れて仲直りした。

 悪者にしてもいいとは言ったけど、角を触りすぎたのか、警戒されている。


「仲直りも済んだし、朝御飯を食べようぜ。マキナも食べるだろ?」

「いいのか? その……こんな朝早くに迷惑だったんじゃ……」


「マキナちゃんが空気を読むとか有り得ないかりゃ――痛!」


 シルはマキナをいじるのが好きらしい。

 せっかく俺が悪者になったのに、いきなりマキナの悪口を言うなよ。


 俺はシルの頭にチョップを落とした。

 シルは頭を押さえて悶絶している。


「シル! 大丈夫か? 今のゴンッて凄い音がしたぞ」

「う、うん。もう大丈夫。シロウの稽古に比べれば平気だよ。それよりもあまりフザケてシロウに嫌われないようにしなくちゃ……」


「コックが朝食を作ってくれてるはずだ。幼女一人増えたぐらいなら大丈夫だろ。さっさと移動しないと角に触るぞ?」


「シル、急げ!」

「え? マキナちゃん?」


 そう言うとマキナがシルの腕を強引に引っ張って部屋を出ていく。

 気心の知れた友達か……。良いもんだな。

 部屋に取り残された俺はゆっくり食堂に向かう。


 案の定、コックがマキナの分の料理を追加で用意してくれていた。

 なんでも俺の部屋に行く途中のマキナと遭遇し、食事の有無は確認してなかったが、リーの件もあったから、増やしたそうだ。


「マキナ、遠慮せずに食べろよ」

「えっ? あ、うん」


 椅子にちょこんっと座り、借りてきた猫のように萎縮している。


「ひゃ! にゃにするんだよ! おっさん!」


 らしくないマキナの角を触って、緊張を解してやった。突然の可愛らしい悲鳴に盗賊たちが笑っている。


「リーはみんなと仲良く喋ってたぞ。お客さんにこんな事をさせたくないが、みんなのコップにコーン茶を一杯ずつ注いでこい!」

「なんで、オレ――やります、やります」


 角に手を伸ばすとマキナがコーン茶の入ったヤカンを持って逃げていった。


 リーの場合は能力の恩恵もあったのだろうが、普通の奴は知らないところに放り込まれたらこんなもんだよな。


 最初は慣れない手つきでコップからコーン茶が溢れるハプニングが続出したが、誰も怒る事なく滞りなく進んだ。


 むしろ熱々のお茶を慌てて飲んだ奴が全ての笑いをかっさらっていった。


 よくこうやって新人との壁を取っ払ったな。懐かしい。


――――――――――


《勇者:斉藤翼》


 俺の部屋に和哉と志穂が来た。

 どこで会話を聞かれているかわかったもんじゃねー。小声で話し合う。


「あの野郎、マジ許さん。美穂をどこに連れて行ったんだ?」

「『地下牢に閉じ込めておけ!』って声が聞こえたから、地下牢だと思うよ」


 俺と和哉が目覚めたのは、気絶させられてから丸一日以上が経過してからの事だ。

 その間ずっと志穂が俺たちの看病をしてくれた。


「地下牢か……。地下牢ってどこから行くんだ?」

「道が入り組んでて中庭に出るルートを覚えるだけでも一苦労だからな」

「…………」


 俺がわからないんだから、和哉が知っているはずないよな。志穂や美穂は必ず俺たちと行動するようにしている。

 志穂に俺たち以上の地理があるわけない。


「二人ともお願い。美穂を助け出すのに協力して!」


 志穂が泣きながら懇願してくる。


「ああ、言われなくてもそのつもりだ。必ず美穂を救い出して四人でこんなクソみてーな国からおさらばしようぜ」


 三人で決意を固めた。

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