マキナーゼ
《???》
「ここにシロウって奴はいる?」
「うおっ! またまた角生えた幼女。魔族って幼女しかいないんですか?」
「一瞬で角バレ……。なかなかやるな。さては貴様がシロウだな?」
「あ、違いますよ。アニキならまだ部屋で寝てると思います」
「えっ? 違うの? フフフ♪ でも、まだ寝てるのか。丁度いい、そこを退きな。オレがシロウを永遠の眠りにつかせてやる」
「はぁ……」
退けなければ実力行使で道を作るつもりだったが、箒を持った男は簡単に退けてくれた。
そして何事もなかったかのように玄関先の掃き掃除を再開する……。あの男、かなりできる。
オレは洞窟の中を進む。左は行き止まりだったから、引き返して右に進み直した。
「角ちゃんって事は、またシルに来客か?」
なぜこうもあっさり正体が見破られる。
何なのだ、この洞窟内に住みつく人間どもは……。
「シロウって奴はどこにいる?」
「一番奥の部屋で寝てますよ」
「……そう」
一番奥の部屋を目指す。
通路で他の人間にも遭遇したが、戦闘になるどころか、会釈される始末。
「シルの気配もこの扉の向こうからか……」
静かに扉を開けて、中を覗く。
「あ! マキナちゃん!」
オレの顔を見たシルがベッドから出てきた。
見窄らしい服を着ている。
魔族の四天王が着るような衣装ではないが、人間世界に溶け込むには、これぐらいがいいのか……。
シルが出てきたベッドにはもう一人寝ている。
「その男がシロウ?」
「そうだよ」
「フフフ♪ オレの毒で殺してやる」
オレが扱える一番強力な毒を寝ているシロウの口に流し込む。
致死量は一滴だが、相当強いらしいからな。小瓶一つ流し込んだ。
「あと五分……」
「えっ? ちょっと、待て! オレは抱き枕じゃないぞ!」
毒が全く効いていないだけじゃなく、あろう事か口元に近付けていたオレの腕を引っ張ってベッドに引きずり込んだ。
逃げようとするが、力が違いすぎる。
コイツは本当に人間か?
「はう。つのはじゃめでひゅ。ひゃう。あにょ……ほんにょに、はにゃちてくだひゃい。はうん」
オレは寝ているシロウに必死に訴えるが、寝ぼけているため、オレの声は全然届かない。
角をスリスリ触る手が全身に電流を流す。
ダメ……。あがらえない。体の芯から熱くなる。
「シル……たしゅ……けちぇ……」
意識が遠退く中、一縷の望みをかけて親友に手を伸ばす。
もう腕に力が入らない。
オレはこのまま……。
「シロウ、起きる! あまり角を触るとマキナちゃんが壊れちゃうよ」
――――――――――
転生五日目の朝。
俺はシルに頭を叩かれて目を覚ました。
起きると腕の中には知らない幼子がぐったりしている。
男の子? 女の子?
どういう状況だ? てっきり一緒に寝てるのはシルだと思い込んでいた。
だから確認もせずにスベスベの角を堪能してしまったぞ。
角が生えてるし、十中八九魔族だろう。
緑色の髪、活発そうな耳出しショートボブ。
一目で可愛い顔立ちなのに、もしかして男の子かと思う青いティーシャツを着ている。
乱れたティーシャツの首筋からチラッと黒いバトルスーツが見えた。胸を保護するように展開されている。
ヤバい、この子も幼女だ。
デニム生地のホットパンツが妙に眩しい。
「その……ごめん」
幼女は虚ろな目で視線を彷徨わせ、今もなお荒い息で胸を上下させている。
「寝ぼけていたとはいえ、本当にすまん!」
俺はベッドに正座して頭を下げた。
ジャパニーズDO・GE・ZA。
「……さん」
「何だって?」
「許さんって言ったんだよ!」
土下座中の俺の頭を幼女が容赦なく踏む。痛みはないが、頭皮に当たる幼女の小さい靴が俺の過ちの深さを認識させられる。
「それ以上したら『めっ!』だよ」
「でもよー。コイツがオレの角を……」
声は完全に女の子だ。でも、一人称が見た目通り男の子っぽい。
「マキナちゃんはシロウが寝てるのに毒を飲ませたよ。それだけで私はマキナちゃんを殺してもいいと思ってます」
えっ? マキナちゃん? 毒?
もしかしてこの幼女が『毒使いのマキナ』?
俺は幼女の顔をもう一度確認するために頭を上げようとするが、足にかける体重を増やされた。
土下座タイム延長です……。
今のうちに状況を整理しよう。
どうやら寝てる間に毒を盛られていたらしい。
俺は目覚まし時計三個必要な男だからな……。
自慢じゃないが勝手に解毒される毒では起きない。
シルの怒りに反応して魔力が上がり始める。
魔族って魔力を練って武闘するから燃費が悪い。そのおかげで人間の肉体より強いんだろうが……。
呑気に考察しているとシルの魔力がさらに跳ね上がった。
このままじゃマズいな。
今のシルは大人モードにならずとも、昔のステータスを超えるほどの力を持っている。
「うひゃ!」
「シル、そこまでだ」
「ひゃい。シロウ……しゅき」
マキナちゃんに飛びかかろうとしていたシルを止めるため、マキナちゃんの足を退けた。
透かさずシルの角を握る。急いでいた事もあり、思っていた以上にシルの角を強く握ってしまった。
どうも握る強さで魔力の流れる量が変化するみたいだ。
一瞬でシルが痙攣している。
「リーの奴が言ってた事はマジだったのか……。シルがこんな簡単に陥落するとは……。オレもあと一歩でヤバかったぜ」
床にへたり込んだシルを見てマキナちゃんが額の汗を拭った。
マキナちゃんの方は『あと一歩』だったんだ……。ぐったり度合いや息の上がり方から考えて強がっていると思うけど……。そっとしておこう。
「ところでマキナちゃんは――」
「マキナでいい」
「……マキナは誰?」
その質問を待っていたようだ。
ニヤリと笑うと元気になった。
ベッドの上からジャンプして俺に指を差す。
「聞いて驚け! オレは魔王軍四天王マキナーゼ!」
「……そっか」
ステータスを見る手間が省けた。
あれをするとシルに怒られるからな。できれば避けたかったんだよ。
この幼女が四天王なら『毒使いのマキナ』で確定だ。
「反応薄! 四天王だよ? 魔王軍の幹部だよ? 人間を滅ぼす存在だよ?」
「いや、シルも同格だし、魔王に会っちゃったしな……。今さら四天王って言われても……」
「ヒドい……」
さっきまでの元気が地に落ちた。
これは俺だけのせいではないはずだ。
「聞いてたのと違って、このおっさん結構ヒドいな」
「マキナちゃんの方が寝込みに毒を飲ませてヒドいと思うけどな……。ところで何しに来たの?」
「あ、忘れるところだった」
マキナが復活して鞄から箱菓子を取り出す。
「リーの奴から魔王城土産で……二〇〇年前に賞味期限の切れたお菓子と」
「待て待て待て。ツッコミどころ満載だ。お土産なのに賞味期限切れなのか?」
しかも二〇〇年前……?
リーはなんてお菓子を用意してくれたんだ。
「魔素たっぷりだから、うまいぞ?」
マキナはお土産の箱を開けて一人で食べ始めた。
「中はこんな感じだ」
一口齧って中身をこちらに見せる。
見た目はこし餡の入った普通の饅頭だな……。
でも、お土産を自分で食うか?
箱を開けた時点ですでに紙くずが二つ丸まっていた。そこから推測すると、今食べているのが三個目だ。
「人間に魔素は毒みたいな物だろ? それはシルが食べろ。魔王城土産って表現が未だにモヤモヤするが……。人間が来ないから魔族の観光地の一つなのか?」
「おう。魔王城は人気ナンバーワンのスポットだぞ。最近はシルがいないからシルの領地を奪おうと大軍が押し寄せてるって噂だ」
「あうー。またお父さんに怒られる……」
シルってここにいてはダメなんじゃないか?
「あとリーからゴン太にお土産がある。ゴン太を呼んでくれ」
「ゴン太って誰だ! シル……知ってるか?」
「きっとゴンザスさんの事ですよ。リーちゃんがとてもよくしてもらったと言ってましたから……」
「ゴンザス……誰……」




