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稽古

 干していた薬草の葉を全て使いきったので、森で採集だ。

 葉が生い茂った薬草の地面に手を差し込んで土ごと持ち上げる。


 葉の枚数が多い場合は、現地で葉をむしるより、アジトに帰ってから暇な時にのんびり作業する方が効率がいい。


「なんで根ごと取るのよ! 次が生えて来なくなるでしょ!」

「あー、忘れてた。植物だし当然そうだよな。抜いた薬草は庭に植え替えておくか……。薬草の葉を庭で手に入れられたら探す手間が減るしな」


 今までの分も葉は取ってあるが、根や茎などはそのままの形でアイテムボックス内にある。


「薬草は一定以上の距離を離さないと育たないの。だから自家栽培は無理だよ」

「そうだったのか。道理で薬草密集地が見つからないわけだ。でも、どうして?」


「空気と土の両方から魔力を貰うから、魔力の奪い合いでどうしても弱い方が負けちゃうの。魔力溜まりなら何本も同時に育つでしょうけどね」


「魔力の奪い合い……。魔力の奪い合い……」


 帰ったら植える場所を考えないとな。

 魔力溜まりを故意に作る方法がわかれば全てが解決するわけだ。


 盗賊のアジトなのに、勝手に色々とやってしまっている。

 汚れた手は【クリーン】でキレイにした。


「さっき作ったポーションだけど、売ったらダメだよ? 大騒ぎになっちゃう」

「俺、人里に入れないからな。大丈夫じゃないか?」


 今日は一日休むつもりだったのに、シルと喋りながら採集をしていると、いつの間にか夢中になっていた。

 しかも、シルが空を飛んで地上からでは見つけにくい素材の採集を手伝ってくれる。


 その結果、麻痺薬の材料『針葉樹の新芽』、解熱薬の材料『朝露の雫』、羽根ペンの材料『グリーンバードの羽根』、ヨーグルトの材料『グルトの小枝』を手に入れた。


『あとは時期が早いわね』っと言って採取を見送っていた。


「知り合いを助け終わったら、シロウはどうするの?」

「具体的な事はまだ決めていない。それでも一ヶ月後の人間と魔族の戦争の前にはこの地を離れるつもりだ」


 国が滅んだあとは魔族領に変わるから、食料の買い出しが難しくなるだろう。

 食料が尽きれば、結局他の土地に移らなくてはいけないなら、食料のあるうちに移動したい。


 もし、リーが全軍の指揮を務めた場合、きっとあのアジトは安全な気がする。

 いつか洞窟に戻ってくるのもいいかもしれない。


「シロウが旅に出る時、私も一緒に付いて行っていい?」

「もちろんいいぞ。っと言っても俺の中では最初からシルは旅のメンバーに含まれてたけどな」


「ありがとう、シロウ。これからもよろしくね」

「ああ、よろしく」


 シルが嬉しそうに抱きついてくる。

 例え危険な旅であっても俺とシルなら、やられる事はない。

 問題があるとすればせっかく移動しても、シルが戦争に参加するため、一ヶ月後には再びこの地に舞い戻って来ないとダメという事ぐらいか。


「シロウ、お願いがあるの」

「なんだ?」

「槍の稽古をつけて欲しいの」


「正直言って前の世界では武器なんて持った事もない、ど素人だぞ? 俺に指導力があるとは思えんのだが……」


 道場に通った事もない。

 あるとすれば、体育の授業で剣道と柔道をしたぐらいだ。


「シロウは私の打ち込みを払うだけでいい」

「それならできるか……」


 最近頼りない全知全能さんが武器の軌道をサポートしてくれる。

 その指示通りに体を動かせば万事うまくいく。


「俺がただ守るだけだと稽古の質が落ちるから、隙があったら狙うぞ。きちんと守備も意識しろよ」


「わかった。よろしくお願いします!」

「おう」


 シルが頭を下げて、服を脱ぐ。

 子供服を着たまま戦闘形態になれば、服が破ける。


 前にシルの戦闘形態を見た時は月明かりしかない夜だった。夜目があったとはいえ、やはり昼間に見るシルの方が断然美しい。


 胸が高鳴る。落ち着け、俺の心臓。


 シルの手にはすでに真っ黒な槍が握られている。戦闘形態のオプションのようなものかな?

 俺もアイテムボックスから槍を取り出して構えた。


「いつでもいいぞ」

「今度は負けないよ!」

「俺を殺す気で来い!」


 シルは相変わらず真っ直ぐに突っ込んでくる。

 モンスター相手ならこれで充分通用するだろうが、対人戦では話にならない。


 俺はシルの突きをギリギリのところで避け、シルの槍の柄を握って押し返す。


 石突きがシルのお腹にめり込んだ。

 その衝撃でシルが地面を転がった。


「シルの動きは単調すぎる。もっと左右に動いて相手を揺さぶれ!」

「……わかった」


 お腹を押さえて立ち上がる。かなり手加減したつもりだが、カウンター気味にヒットしたせいでダメージがあったのか?

 魔力が二〇〇程度減って、傷の治癒に回されている。


 二回目は数歩手前で横に飛んで、俺の側面を狙いに来た。

 敏捷五〇〇は伊達じゃない。横に飛んだだけで姿が消える。


 俺は左に槍を突き出す。シルを殺す事が目的じゃないため、やはり石突きの方だ。


 俺が行った事は単純明快。シルの飛び込みに合わせて、その進路上に槍を置いたに過ぎない。

 しかし、急には止まれないシルは自ら槍に突っ込んだ。


 敏捷の高さが仇となり、これは痛い。

 魔力が三〇〇も削れた。


「速さに驕るな。相手に隙がないなら、フェイントを織り交ぜて隙を作れ!」

「はい!」


 三回目、直線的に走ってきて槍を突きだしてくる。これでは一回目と同じだ。

 俺が柄に触れる直前、槍を引き二段突きとも言うべき速度で槍が戻ってきた。

 ご丁寧に俺の中心線を狙っているため、左右に避ける選択肢は難しそうだ。


 槍を槍で絡めて上に弾き飛ばす。

 俺は武器を失ったシルの首に槍の穂先を当ててから、すぐに引き戻した。


「シロウ……手加減は?」

「十分してるだろ?」

「それでもしてるの?」


「次は俺が攻撃するからシルが防げ。もちろん反撃してもいいぞ」

「わかった。シロウの動きを参考にする」


 きっと俺の動きは参考にならん。

 俺は槍を持ったシルに突っ込んで、力任せに横薙ぎを放つ。俺の得意の一撃だ。

 シルは一瞬躊躇って後ろに下がった。


 俺はシルが動くのを見てから、全力で槍を止める。シルが驚きの顔でこちらを見るが、後ろにジャンプして無防備の体に突きを放つ。

 連続攻撃だったためにシルに向かっているのは穂先側だ。俺はお腹を貫くまであと数センチというところで槍を止めた。


「シロウ……手加減は?」

「当てずに止めただろ?」

「そうだけど……」


 数分で四回もやられて落ち込んでいる。

 まだまだ稽古は始めたばかりだ。


「俺の武器が槍では危ないな。せめて木刀みたいに木製の(こん)を作るか……。ちょっと休憩にしよう」

「きゃん!」


 大人のシルの角を握って減った魔力を補充してやる。シルが可愛い声を出しながら、初めてその場で飛び跳ねた。


「うー。知らなかった。この姿だと、流れ込む魔力の刺激が強くなるよ。シロウ……体が敏感だからこれ以上角に触らないでね?」


「まだ減った分の魔力補充は終わっていないぞ。嫌なら攻撃を防ぎきれ」

「それができたらとっくにやってるよ! ぶーぶーぶー」


「角に触るぞ」

「ひゃあああ。……シロウ、気持ちいい♪」


 体が大人になっても、中身はシルだ。

 魔力注入の快楽を真っ赤な顔で楽しんでいる。


「はぁはぁはぁ。魔力をもらったお礼にお風呂で大きくなるね♪」

「そんな事をしたら、お風呂もベッドも別にするからな。それでもいいなら、やってみろ」


「私の能力が通じなーい♪」


 シルの誘惑は充分俺に通じてる。だから逆に困るんだよ。

 それじゃなくても俺は黒髪の女性が好みなんだ。


 そういう意味でもシルはリーよりも上をいく。

 そんな女性に好き好きオーラを浴びせられたら俺だって……。


 気を取り直して真っ直ぐな木を探す。意外とグネグネうねっている木が多い。木の硬さに関しては全知全能が教えてくれる。


 木を加工するには木を乾燥させなくてはいけない。乾燥し過ぎると割れるし、怠るとすぐに変形してしまう。

 全知全能が如何に優秀でも、今日切って今日使えるわけではない。


 俺は練習用も含めて数本の木を選んでアイテムボックスに入れる。


 その後、シルが満足するまで何度も何度も稽古を続けたが、最終的には音を上げるよりも先に電池切れのように前のめりに倒れた。


「戦闘形態でいられるのは三〇分ってところか……」


 シルの反応が可愛いから、魔力が減るたびに回復させていた。それでも倒れたという事は、戦闘形態の維持には魔力以外にもコストを支払っているみたいだ。


 俺は幼女に戻った裸のシルに服を着せてやる。睡眠時だろうとバトルスーツを消さずに済むが、気絶は意識が途絶えるのかバトルスーツが消えるらしい。


「戦闘技術もそうだが、戦闘形態の維持の訓練も並行して行わないとダメだな」


 魔族が戦争で王の首を最初に狙った理由がわかった。きっと戦闘形態の維持ができずに、短期決戦にこだわるしかなかったと思われる。


 四天王のシルで三〇分なら、魔族は戦闘中以外は子供の姿に戻って変身可能時間をやりくりするはずだ。

 不意打ちを食らうリスクが伴っても、その方が効率がいい。


 俺はシルをお姫様抱っこして盗賊のアジトを目指す。

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