こんなのポーションじゃないわよ!
洞窟の前で俺とシルとリーが集まる。
「では、シル。シロウ様の事をお願いしますね」
「うん! 私に任せて! 命に代えても守るよ」
「きっと俺は誰に狙われても死なないから気にするな。それよりもシルが戻らなくて本当に平気か?」
「そうですね。作戦決行日には参戦してもらわなければ困りますが……。密命を出しましたし、それまではシロウ様のお手元に置いてやってください」
「わかった」
「シルの家族には私から事情を説明しておきますね」
「リーちゃん、ありがとう。お父さん頑固だけど、リーちゃんには甘いから助かるよ」
「あんまりお父様を心配させるからですよ」
シルのお父さん……。頑固親父らしい。
『うちの娘はやらーん!』とか言われるのか?
そもそも俺はロリコンではないから、幼女シルは恋愛対象外だ。
「では、私は城に戻ります。この度はとてもお世話になりました」
「忘れてた。これが昨日言ってたトウモロコシだ。中にコーン茶の作り方のメモが入ってる」
余計な事を考えてたら手に持ったままのお土産を渡しそびれるところだった。
せっかくコックが用意してくれたのに……。そのコックは朝から買い出しに出かけてすでにいない。
「それと俺が自作した体力回復ポーションだけど、良かったら使ってみてくれ」
ポーション用の瓶もコックに買ってきてもらった。見た目は理科室にある試験管の瓶だ。三角フラスコ型もあるそうだが試験管の方が主流らしい。
ボールで大量に作ったポーションを試験管に移し替えて魔力で封をした。
「ありがとうございます。これが…………ポーションですか? シロウ様の魔力を強く感じます。波長が同一なので、通常よりも効果がありそうですが……。これがポーション?」
「やっぱりピンク色じゃなくて変だよな……。やめとくか?」
「いえ、ありがたく使わせてもらいますね♪ それではご機嫌よう」
魔王と恐れられている人物が礼儀正しくお辞儀をして飛び立って行く。
いい子だったぞ?
なぜ勇者はあの存在を消そうとする?
和平交渉をすればすぐにでも円満な世の中になるのではないか?
「ふー。それにしてもバタバタした一日だったな」
シルの角の修復。ケルベロスのテイム。レッドベアの進化。リーの訪問。盗賊たちの宴会。リーの絶対服従の誓い。リーの角の修復。
丸一日間で怒涛の内容だ。
今日はゆっくり休もう。
「……シロウ、今のポーションまだある?」
「あと三本かな」
「一本わけてくれない?」
「いいぞ」
アイテムボックスからポーション瓶を取り出してシルに渡す。
シルは髪の毛を一本抜いて……爪を立てて引っ張った。真っ直ぐキレイだった髪の毛は根元へクルクル丸まって集結する。
シルはポーションの封をきって髪の毛に一滴垂らす。
丸まっていた髪の毛が一瞬で元の真っ直ぐな髪の毛に戻った。
なんだか手品みたいだ……。それよりも髪の毛を使うとか、俺への当て付けか?
「シロウ、ポーション作りの基本を無視した?」
「知識通りに作ったけどな……。魔力水に粉末にした薬草の葉を入れて魔力を通すんだろ?」
「う、うん。あってる」
「ポーションの残りも少ないし、作ってやろうか? たぶん天日干しした薬草の葉が乾燥しているはずだ」
「見たい!」
俺は露天風呂近くに干してあった薬草の葉をまとめてボールに入れる。
葉を麺棒で潰しながら粉砕していく。やはりきちんと乾いていると細かくするのが楽だ。
アイテムボックス内に入れると時間が停止してしまうから、入れておけないのがとても不便だ。
魔力水は水に砕いた魔核を入れて作るが、俺の場合は水魔法で作った方が早い。
お風呂に水を入れる感覚でボールの中に指を一本向ける。
「【ウォーター】」
指先から水が出る違和感。これが魔法だ。
もっと一気に出したいが、今は蛇口レベルが実用可能範囲。まだまだ改良の……いや、練習の余地があるな。
魔力水がボールに入っていた薬草の葉を撹拌する。上から覗くとそれはまるで急須に入れたお茶の葉がポットのお湯の勢いに大騒ぎしている状況に近い。
透かさずボールの側面から魔力を流す。
シルが見てるし、いつもより多めに流してあげよう。
ポーション自体は魔力を流した直後からすでに真っ赤になったが、お楽しみはここからだ。
魔力をどんどん流す。
まだまだ流す。
シルの顔が引きつってるけど、それでも流す。
「これでポーションの完成だ!」
「こんなのポーションじゃないわよ!」
見たいって言うから作ってるところを見せたのに怒られた。
「でもステータス表示ではきちんと『初級体力回復ポーション』になってるぞ? 品質は測定不能だけど……」
「測定不能になって当たり前よ! あんな膨大な魔力でポーションを作る人がいないもの!」
「そうなのか?」
「それにボールサイズで作ってるし……」
えっ? 全知全能さん?
あなたは俺に大きな入れ物で作ってから、ポーション瓶に移し替えるって教えたよね?
俺は教えられた知識通りにやりましたよ?
『…………』
でた。無言。
「いい? 普通は魔力水の量や薬草の葉の量を厳密に測定して、一瓶ずつ魔力を通して作るのよ。ポーション瓶のサイズで作れば魔力波でポーションを混ぜる難易度がなくなるもの。あと魔力量は一瓶につき三がベストなのよ……」
魔力波って俺が円を描くように魔力を流してたアレだな。
確かにポーション側を小さくすれば手から出る魔力波が直線だろうと曲線だろうと誤差の範囲だ。
「ごめん。魔力に関してはすでに最大まで回復してるからいくつ消費してたのかわからない……。でもポーション作りってそんなに魔力量が少なくて良かったのか……。ところでなんで三がベスト?」
「ポーションを作る時に二倍の六を注ぎ込んでも回復力があまり変わらないのよ……。そもそもポーションの魔力量の大半は魔核が担っているもの……」
なるほど。ベースとなる魔力水を魔法で生成してるから、魔力が豊富な最高の水で作れているのか……。スタートからピンク色を通り越して赤色から始まったのも頷ける。
「これ味見してもいい?」
「いいぞ」
喉をゴクッと鳴らして聞いてきた。
了承すると口を小さく開けて雛鳥のように餌を与えられるのを待っている。
俺はボールに指を入れてシルの口に入れてやった。
「……甘い。でも、どうして……」
「ポーションって甘いの?」
俺はもう一度指にポーションを付けて舐めてみる。これはイチゴ味だ。赤いシロップと言えばどうしてもイチゴ味のイメージだから、知らず知らずのうちに味が入ったのかもしれん。
んじゃ初めてクマに作ったポーションは『これマズいよ』で舌を出したんじゃなく『甘ったるいよ』で舌を出したのか……。
「甘くて美味しいな」
「う、うん。そうだね……。はわ~間接キス……」
シルの顔がポーションのように真っ赤になった。
「どうした?」
「な、なんでもないわよ!」
「ほら、甘いの舐めて機嫌を直せ」
「……おいしい」
もう一度ポーションを舐めさせてやった。
幸せいっぱいのとろけきった顔をしている。
シルも女の子だ。甘い物が好きなんだな。
――――――――――
《冒険者ギルド:ギルドマスター》
「何も起こらない朝は素晴らしいな! そう思わないか?」
執務室の長椅子に座り、正面に座る女性職員に声をかけた。
「ここ最近バタバタしてただけで、何度も何度も異変が起きる方が変なんですよ。ギルドマスターの決裁書がたくさん溜まってます。出来るだけ早く終わらせてくださいね」
「俺の代わりに目を通して判を押してくれても……」
「私には受付業務がありますから……。ギルドマスターのお世話ばかりしてられませんよ」
何事もなく朝日を見られたというのに、今度は書類と戦わねばならんとは……。
「ダークトレントの枝の採集? ライト蝶の羽? ガマ蛙の汗? もう面倒くせー、全部受けろ!」
読むのも億劫になった書類の束をまとめてテーブルに放る。
「こちらはどうしましょうか?」
女性職員が書類の中から付箋の付いた紙を一枚取り出す。
「国からの護送依頼?」
「はい。犯罪者の女性を北の国まで運んで欲しいそうです」
「そんなもん、国の仕事だろ?」
「今は城壁の補修工事で手がいっぱいのようですね」
「あれか……。突然城壁が崩れたってやつだろ?」
まさかあれも魔法の仕業か?
「護送難易度を調べて張り出しておいてくれ。俺はちょっと調べ物をしてくる!」
「あ! ちょっとギルドマスター! まだ仕事が残ってますよ!」
俺は制止の声を無視して王城へ向かう。
バラバラのピースがくっつく気がするぜ。




