お風呂③
俺はいつも通り水と火の魔法でお風呂にお湯を入れた。
「お風呂が沸いたぞ。シルとリーで入ってこい」
「シロウ……」
「シロウ様……」
「どうした?」
「シルの話では一緒に入られているそうですが……」
「まぁ……そうだな」
「では、本日は三人で入りましょうか!」
「さすがに三人で入るには狭いぞ」
「大丈夫ですよ。私たちは幼女でシロウ様はロリコンじゃないのですよね?」
「シロウはロリコンじゃない! 今からそれを証明してあげる!」
それをシルが言うのか……。
「ほら、シロウ。ロリコンと認定されちゃってもいいの?」
外堀から埋められた気分だ。
「……わかった。俺がロリコンではない事を証明してやる」
シルとリーがハイタッチした。
本当にモテ期がきたな。幼女にだけど……。魔族にだけど……。
俺はシルとリーに左右から手を引かれ、野外にある脱衣所に向かう。
こんな事ならきちんと遮蔽用の壁を作っておけば良かった。今さら後悔しても仕方ない。
俺は服を脱いでお風呂に入る準備をする。
「まだ冷めてないな」
お風呂に入る前に浴槽に手を入れて温度の確認をした。
桶がないため、調理場のボールでお湯を掬って、体にかける。
本当は【クリーン】があるから、必要ないのだが、体をお湯に慣らすためだ。
「シルにもするからおいで」
俺が終わると、シルの体にもお湯をかけてやる。
「えへへ。えい!」
どうやらシルのバトルスーツは任意に消せるらしい。消せなければトイレが無理か……。そしてお風呂ではバトルスーツを消す事にしたようだ。ただし、タイミングが最悪。
俺がお湯をかけるためにシルの正面にいる時に行いやがった。いや、絶対わざとだ……。
俺を試しているが、俺には効かない。
リーはさすがに恥ずかしいのか、大事なところを手で隠している。こちらは角が修復中でバトルスーツがない。
もちろんリーの体にもお湯をかけてやる。
そこで気が付いた。シルはリーだけ裸にさせるのは可哀想だから、バトルスーツを解除したんだと……。
「バランスが悪いから、お腹を押さえてよ」
「わかってる」
左腕にシル、右腕にリーを抱く。
シルは俺の左足を跨ぎ、リーは右足を跨ぐ。
二人で俺の胸に背を預けた。
身動きしたら、マジでヤバいぞ。
「ここは星がきれいですね」
「魔族領は違うのか?」
露天風呂の醍醐味は大自然を満喫しながらお風呂に入れる事だ。
最近は晴れが続いてるから星がよく見える。
シルは露天風呂で星を見るのが好きだ。
「そこら中で魔素と呼ばれる空気が充満しています。あ、魔素とは魔族やモンスターにとっては強靭な体を作る栄養みたいなものです。そしてそれは上空にも行き届き、空をくすませてしまうのです」
空まで魔素が行き届いていないと、逆に鳥型のモンスターは低空飛行をしない限り魔素を得られなくなる。
「へぇー。シルは魔族領に戻らなくてもいいのか?」
魔族にとって魔素が重要な栄養分なら、シルは魔素失調症になってしまう。
「魔族は魔力水を取り込むと体内で魔素に変換する事ができます。このお風呂の魔力は魔族領の空気が清涼な空気に感じるほど濃いんですよ」
「言われてみれば、シルに初めて会った時、気持ち良さそうに水浴びをしてたな」
「あれは……若気の至りですよ。もう忘れてください。さすがに恥ずかしい姿を見られた気がします。でもでもでも、あれがあったから私はシロウに出会えたんだよ!」
幼女が使う『若気の至り』とはいったい……。
戦闘形態になれば、普通に大人の姿だから年齢は俺なんかより相当上なのかもしれない。魔族だしな……。
見た目年齢=実年齢とは限らん。
「俺はこの国に恨みがある。一ヶ月後の魔王の進行では魔王軍を陰ながら応援する」
「シル! 軍事機密を喋ったのですか?」
リーはガバッと横を向いてシルに確認をする。怒りというよりはむしろ驚きに近い。
いくらシルでもそこまで軽率な行動はしないと思ったのか? シルから俺に言ったはずだが……。
「リーちゃん……落ち着いて。シロウは最初から魔族が戦争を仕掛ける事を知ってたよ。私がシロウを巻き込みたくなくて逃げるように言ったのは事実だけど……」
「それは本当ですか?」
きっと魔族でもごく一部の者しかまだ知らないのだろう。それを不思議な顔で確認された。
「ああ。その戦いでシルが死ぬ事も知っている」
「えっ? シルが死ぬ?」
小説内のシルは王国を攻める魔王軍の一人として書かれていた。
戦争自体は開戦直後に王の首が四天王の一人によって取られ、城門前に晒される。
トップを失った王国側はまともな反撃が出来ず、一矢報いるために勇者を投入したに過ぎない。
シルが戦うのはその勇者のうちの一人だ。
シルは勇者との一騎打ちに敗れて角を失う。
だから俺はシルに魔族が角を失う意味を聞いた。
ちなみに魔王に関しては描写すらされていない。
「心配するな。俺もシルを失いたくはない。だから昨日ここでシルに決闘を申し込んだ」
「えへへ。あっさり負けちゃいました」
「それで『絶対服従の誓い』ですか?」
「そうだ。シルに角の話を聞いたからな」
「シルは愛されてますね」
「リーちゃんだってもう仲間だよ!」
「いいの?」
「リーちゃんだもん!」
俺の気持ちは無視ですか……。
今度はシルとリーが向き合ってお喋りをすると、俺の目の前にシルの角が来た。
それを下から上に向かって舐める。
癖になる甘さだ。味はお盆のお供え物の落雁に似ている。
舐めた途端、シルの体がゾワゾワゾワッと震える。あまりの衝撃に声もでなかった。
「…………しゅ、しゅごい。こんなの知ったら、もうお嫁にいけない」
くたーっと力の抜けたシルが俺の胸に寄りかかってくる。
「そんなに凄いんですか!」
「うん。リーちゃんも明日の朝、経験しよ?」
「是非!」
リーが期待の目で俺を見てくる。
今すぐでないのは、角が修復中で体内に潜っているからだ。
相変わらず俺の気持ちは無視らしい。
翌朝。
目が覚めると目の前に角があった。
朝のあいさつ代わりに触ってやると布団の中で体を捩る。
身構えていない時の反応は可愛いな。
ついでにペロリと先端を一舐め。
ん? 昨日と味が違う。リンゴ飴の味がする。俺は恐る恐る布団を捲り、その頭を確認した。ピンク色の髪の毛だ。
「リー……おはよう」
「シロウ様……こんな情熱的な朝は初めてです。もう一度角を舐めてもらう事は可能ですか?」
「リーがいいなら……」
根元から先端までリーの角を丁寧に舐めあげる。
その途端リーの体が仰け反った。
「!! はぁはぁはぁ。すごいですね。シルが骨抜きになるのもわかります。手で触れるよりも舐める方が膨大な魔力が流れ込んでくるようです」
「へぇー」
「角に触れる事が禁忌に近いのに……まさかそれを舐めようと思うとは、シロウ様はさすが勇者です」
最初はイタズラ心で角を舐めただけなのに、リーの株が上がった。
昨日の話を鵜呑みにすれば魔力波長が同一になっているから、魔力吸収効率が良くなっているはずだ。
無事リーにも《勇者の加護》が付いた。
「ところで、リーはどうして俺のベッドで寝てるんだ?」
「実は……」
リーにはもともとシル用に用意していたベッドを提供した。しかし、俺が寝ている間に二つのベッドをくっつけて三人で寝られるようにしたそうだ。俺は横向きに寝てたから、起きた時はリーがお腹側、シルが背中側に寝ていた。
「私にできる事があったら何でも言ってください。シロウ様のためならこの身を差し出すことも厭いません」
「気にしなくていいぞ。俺は大した事はしていない」
「そういうわけには参りません。シロウ様は私に力を授けてくださいました。それに一宿一飯の恩もあります」
飯に関してはアレだな。盗賊たちの方にこそリーに恩がある。
「リーちゃん……私が見つけたんだから私が一番だよ?」
「そうですね。この場合は上下関係は無用です。シルが一番。私が二番です♪」
「うん!」
魔王に貸しを作ってしまった。強いてあげれば確実に王様に報いを受けてもらいたい。
やはりこの二人が揃うと俺の気持ちは無視されるようだ。
何の一番で何の二番なんだ?
リーが朝食前に真剣な顔でシルの死ぬ状況を知りたいと言うので、条件付きで教えた。
シルにはあまり聞かせたくないため、その間にケルベロスの朝のお散歩に行ってもらう。
「……借りが増えましたね」
「これは俺の我が儘みたいなものだ。本当に気にしないでくれ」
「シロウ様はシルを愛しているんですね」
「俺はロリコンじゃないぞ?」
「……そういう意味ではないんですが」
なら、どういう意味だ?
――――――――――
《勇者:田中志穂》
「美穂を返して!」
「うるさい、女だ! きちんと訓練をしない癖に偉そうな事を言うな。お前もそこの二人と同様に気絶させられたいのか?」
三日目の訓練を終えると、隊長が『美穂を連れて行く』と言い出した。
そんな事を言われて、翼と和哉が黙っているはずがない。
二人掛かりで隊長に襲いかかったが、軍人の動きには手も足も出ずに、伸されてしまった。
「最初からさっきのように本気で訓練に取り組めば、このような事にはならなかったのにな。恨むならサボった自分たちを恨むんだな」
悔しい。
私には隊長を打ち負かす力がない。
それどころか、サポート役としての力しか備えていないから、一人では何もできない。
私たちはこれからどうすればいいの?
誰か……助けて……。




