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大暴れ

「危害を加えるつもりはない。そこを退()いてくれ!」


 王の間を出ると通路が左右に分かれているが、どちらも武装した兵士が詰めかけて体で壁を作っている。王の間にいた兵士より装備の質は低いようだ。


 この城の地図を見たことがないため、どちらが正解のルートかわからない。

 右か、左か……。


「素直にお縄につけば痛い目に遭うことはない!」

「捕まったら最後、人権はないんだろ? あの王様を見たらそれぐらいわかるさ」


 上司の相手、部下の世話。

 俺だって馬鹿じゃない。対人スキルは磨いてきたつもりだ。

 あんな一方的な奴は初めてだが、表裏がなくわかりやすい。きっとそのままだろう。


 とりあえず右よりも左の方が人壁が薄い気がする。

 左に歩を進めた。


「それ以上近づくな!」


 横に五人が並んで槍を前に構えて威嚇する。

 だが、武器を持たない俺を相手に、手どころか、体中がガクガク震えてる。隙間からはさらに四人が槍を構えて陣形ができあがった。

 剣山ならぬ、槍山だな。九本も向けられると怯んでしまう。


 俺はサッと兵士の前に移動して槍の穂先を握り潰す。

 鉄っぽかったのに、モロい……。

 刃物を握り潰した経験はないが、やればできるもんだな。


 俺の移動速度についていけなかったのか、兵士たちは急に近づいた俺に反応ができていない。

 俺は正面の兵士二人の肩に手を置いて、踏み台にさせてもらう。

 後ろにも人が何層にも並んでいたから、肩を足蹴にしながら一気に兵士の上を通過する。


「長い槍を持って方向転換すると隣近所で怪我するぞ?」


 俺の声に驚いて振り返る兵士たち。

 俺の忠告が仇となり、同士討ちが起こってしまった。


「言わんこっちゃないな。工事現場では安全確認は基本だ。ぶっ叩かれるぞ。俺が監督官なら危なすぎて全員クビだ」


 周囲の確認を怠るから阿鼻叫喚の地獄絵図。

 人が血を流しながら折り重なっている。

 逆側で陣形を組んでいた兵士は人混みに邪魔されて足止めを余儀なくされた。


「事故現場につきここは通行止めです。迂回してくださいっと。今のうちに逃げるか……」



 廊下を走ると途中途中にガラスがはめ込まれていない窓がある。


「へぇー。城の外は城下町か……。馬車の交通整備ってどうやるんだろうな。馬車は急には止まれません!」


 窓の下では兵士が俺の進行方向へ走っているのが見えた。


「ヤバい……」


 実はさっきから通路が上がったり下がったりする。下へ下へと道を探してるつもりだが、一向に出口にたどり着かない。この城は立体型の迷路のようだ。侵入者がいた場合に時間を稼ぐためだろう。


「参ったな。せっかく()いたのに、先回りされてしまった」

「貴様は警告を無視して逃げ出した! 脱走者と同じだ! 死刑は免れない。覚悟!」


 王の間で見た他とは違う鎧を着た兵士が叫んだ。

 逃げなくても同じだっただろ?

 しかも理不尽な死刑宣告。

 不敬罪だっけ? 上司に口答えしたらクビって事か?


「そうか! 道をたどるからダメなんだな。新しい道路を作ります。これでどうだ!」


 石壁の厚さは窓の造りでだいたいの予想はできている。およそ一〇センチ。

 俺の渾身のタックルを石壁に向かって放つと、周囲の壁もろとも破壊して呆気なく大穴を空けた。


 三階からの生身のジャンプ。二階建ての屋根からふかふかの雪にジャンプした程度の衝撃しかなかった。これにはさすがにびっくりだ。


「一斉に槍を投擲しろおおおおおお」


 なんだと!? 落()注意!


 三階から飛び降りて追えないために武器を投げ捨てるのか……。

 俺は一番最初に手元に届いた槍を腕で絡め取り、()の部分でクルクル回して降ってくる槍を弾く。

 やったことはなかったけど、色々とこの体は規格外のようだ。どの角度にどの程度の速さで振ると効率がいいのか何となくわかる。一振りで三本は叩き落としたか。


「もう終わり?」


 地面に散らばった三〇本ほどの槍の中に他と違い丈夫そうな槍が落ちていたので借りパクさせてもらう。


「あ、泥棒! それ俺のだ! 返せ!」


 投げたのはそっちだろ!

 槍のポイ捨ては良くないぞ!



 城の中庭を走って城門を目指す。

 城門に行くには越えねばいけない関所のようだ。さっき槍を投げてきた集団より集まっている。


「怪我したくない奴は下がれ! 覚悟のできた者はまとめてかかって来い!」

「ハゲの分際で、(いき)がるな!」


 俺が大声で焚きつけると一〇人が一斉に押し寄せてきた。俺は槍の柄で力任せに横薙ぎを放つ。兵士も俺の動きを読んでいたため盾を構えて応戦した。


 俺は最初から押し寄せてきた全員を薙ぎ倒すつもりだ。盾ぐらいで止められてたまるか!

 槍が盾と接触した時にガンッと大きな音がなったがそのまま他の兵士たちも一緒に弾き飛ばす。

 一振りしただけで、一〇人全員が宙を舞った。

 ゴルフのバンカーショットより軽い。


「武器があるとリーチが違うな」


 それに剣と違い棒の部分を使えば殺傷力をかなり抑えられる。

 呆けている兵士が邪魔で先に進めない。

 俺は槍の石突きで地面を叩く。地響きによる衝撃が周囲に伝わり、残った兵士が塵尻に逃げていく。

 戦う意志のない者まで傷付ける必要はない。


 残念ながら遠目から見てもすでに城門が閉ざされているのがわかった。

 両開きの門は木製のようだから本気で殴れば破壊できそうか? そこに到達するためには再び兵士の群れを相手取らねばならない。


 開けてくれと言って、素直に開けてくれるとは思えない。ここまで暴れたら、指名手配は免れないな。嫌な世界に来てしまった。


 進路を九〇度変えて、中庭の噴水を目指す。

 噴水に使われてるオブジェは綺麗な水を均等に撒いて花のようだ。


「ちょっと借りるよ」


 オブジェの一部をバスケットボールのように片手でキャッチしながら走り抜ける。

 それを思いっきり誰もいない城壁に向かって投げた。

 ドオオオオオオン。ドオオオオオオン。


「これは………………ちょっとやりすぎた……反省してる。火薬の量を間違えたから、反省文を書いてもいい」


 オブジェをぶつけたが城壁を破壊するにはいたらなかった。しかし、その衝撃を受け流す事もできなかったようだ。壁一面全てが向こう側に倒れる。

 空から見るときっと『□』→『匚』になった。

 補修工事が終わるまで、城壁の意味がないな。

 最初から門を開けてくれれば、こんな事にはならなかったのに……。今さら言っても後の祭りだ。


「城の外に出るけど、道は塞がないでね」


 見晴らしの良くなった城壁の方を指差して言う。ああなるよ? っと(ほの)めかす。

 それでも道を塞ぐなら、その時はこじ開けるしかない。


 仕事を邪魔した若者には『俺の減点になるんだからやめろやな』ってぼやいておいて、平気で同じ様な事をしてしまった。


 城壁の周りにはどうやら掘りがあったらしい。

 らしいというのは、今は城壁が橋の代わりになっている。ところどころ下まで城壁が落ちて石の中の鉄筋が見えているが、そこさえ気をつければなんて事はない。


――――――――――


《リーカナ王国:王様》


 勇者たちを食堂に案内して立食パーティーを開いた。

 どうやら四人の中では赤髪の男がリーダーのようだ。


「勇者様、楽しんでおるかな?」

「あぁ、そうだな。王宮って聞いてたからもっと豪華な宮廷料理を期待したが……こんなものか」

「ちょっと、翼! 王様に向かって失礼でしょ。大変美味しいですよ、王様」

「…………」


 もっと豪華な宮廷料理?

 これほど贅の限りを尽くした料理は他にない。

 全ての食材にモンスター肉を使い、近隣から取り寄せた野菜で色とりどりに盛り付けがされておる。


「そ、そうじゃ。こちらのスープは如何かな? 沼で穫れるエビをふんだんに使っておるのじゃよ」

「これか? んー。正直普通。伊勢海老を使ったスープの方が美味いな。味付けの種類が少なすぎるんだよ。調味料は塩だけか?」

「それは食材の味を生かして……」


 なぜ余が言い訳をせねばならぬのだ。

 料理長を呼んだ方がいいか?


 考えていると、ドオオオオオオン、ドオオオオオオンッと轟音が二回響き渡った。


「なんだ、今の音。ちょっと邪魔だ」


 赤髪の男が余を突き飛ばして食堂から出ていく。

 近衛兵が後ろで支えてくれねば、危うく尻餅をつくところだった。


「翼! 待てよ! あっ、わりぃ」


 他の三名も後を追って出ていってしまう。その時、もう一人の金髪男が余にぶつかった。

 王にぶつかっておいて……片手をあげて謝るだけとは許せない。


「すぐに詳細を調べよ!」

「はっ!」


 これでは勇者様との大切な立食パーティーが台無しだ。

 おっさんを止める手段なし……。

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