魔族に《勇者の加護》とかふざけた称号を付けておいた
「なんだよ。この硬い……」
「ひゃう、はうあ」
枕元にあったそれを握った。
するとビューッと硬い何かが逃げていく。
「うそ……。なんで魔力が使えるようになってるの? それにこの溢れ出る魔力……」
「シル、うるさい。ベッドの中においで」
掛け布団を開くとシルが渋々戻ってきた。
きちんとシル用のベッドを隣に用意したんだが『ロリコンじゃないなら一緒に寝てもいいよね?』って言い切られてしまった。
ここで断るとロリコンを認める事になるため、一緒のベッドで寝る事になる。
実はそれ以外にも一緒に寝た理由があり、洞窟内の気温だ。意外と寒いんだよな。
鍾乳洞の中をイメージしたらわかるだろう。
シルと一緒に寝る最大のメリット。それは子供は体温が高くて温かい!
だから俺は昨日シルを後ろから抱きしめるようにして眠った。
それで朝の一幕である。
「シロウ? 二度寝しちゃうの?」
「この微睡みが好きなだけだ。魔力が戻ったのか。良かったな」
「一ヶ月かかるはずが数時間で角が治ったんだよ? なんでビックリしないの?」
布団から顔だけ出して聞いてくる。
布団の中を動いて出てきたせいで髪の毛が静電気でえらい事になってるな。
俺は横にいるシルの頭を撫でながら跳ねた部分を直す。
「もしかしたら『数日で治るんじゃないかな?』とは思ってた」
「……理由は?」
「お風呂。シルが水浴びの時に魔力が気持ちいいって言ってただろ? つまり、お風呂に入れば体内に魔力が取り込まれる」
「それで何で治るの?」
「シルが魔力を使えない状態って魔力の最大値が極端に少なくなっていた。それが回復した途端修復に回されるのか常に〇と一を行ったり来たりしていた」
「……うん? 普通じゃないの? 魔族は魔力でも回復できるんだもん」
それは先に言ってくれ。
「魔力の回復量は魔力の最大値に依存してて、魔力が多いほど自然回復量は多くなる」
「一ヶ月間ちびちび回復するはずの魔力量をお風呂で一気に取り込めちゃった?」
「正解!」
魔力回復ポーションでも同じ事ができるだろうが、最大値を気にしながら時間をかけてゆっくり飲むような真似はしないだろう。
今回はお風呂だからできたようなものだ。
「ふきゃあ」
正解したご褒美に角を触ったら可愛い声を出して、ベッドから落ちた。
地べたで女の子座りをしている。
「シルは俺の物だし、俺がシルの角に触る許可はいらんよな?」
「……そうだけど」
涙目で抗議の視線を向けてきた。
乱れた髪を直す仕草が妙に愛らしい。
ベッドをポンポンッと叩くとシルは口を尖らせて、納得いかないご様子で布団に入る。
「さて、ここからは俺も賭けだった。失敗したらシルに命令して止めればいいだけだし。そこまでのデメリットはなかったが、成功したようだな」
「この魔力が溢れ出るのはシロウがしたの?」
「ああ。魔族に《勇者の加護》とかふざけた称号を付けておいた」
「《勇者の加護》? シロウって勇者なの?」
「知らなかったのか……。嫌いになった?」
小説を読む限り、勇者は魔族を倒すために召喚されている。勇者の行いを考えると、勇者と魔族の関係は良好なはずがない。
「ううん。私はシロウが好きだから平気だよ」
「ありがとう」
「どういたし――ひゃふーひゃふーひゃふーひゃふー」
角を触ると目を見開き、荒い息を吐きながら耐えている。
角から手を離して頭を撫でてやる。
「絶対触ると思ってた……。ウフフ♪ 私はもうシロウから逃げないよ!」
嬉しそうに勝ち誇った顔でシルが俺の胸に抱きついてくる。
そんな事を言われたのは初めてだな。
「《勇者の加護》はステータスが二倍になる」
「二倍……」
「シルは強くなった」
――――ステータス――――
名前 シルヴァーン
性別 ♀
職業 魔族
レベル 四七
体力 二六四四/二六四四
魔力 一一八六/一一八六
力 四三八
賢さ 三八〇
耐久 二四八
敏捷 五一〇
称号
・魔王軍四天王
・勇者の加護
能力
・誘惑
――――――――――
もともと二〇〇ぐらいあったステータスが四〇〇になれば相当だろう。
魔力に関しては予定より高い。
「シロウは私に何をさせたいの? 魔王様の暗殺?」
「……何も」
「絶対嘘! 今、目をそらした!」
基本的に俺は隠し事が苦手だ。すぐ顔に出るから、話を早めに切り上げるようにしている。
でも、シルは片時も俺から離れようとしないため、いつかバレるなら早い方がいい。
ただし、どうしても言えない事もある。
そんな時は真実を言いつつも、嘘を混ぜる事にしている。
「シルは一ヶ月後……一ヶ月と一日後の戦いで死ぬ」
「……私が人間に負けるわけないじゃん!」
「俺にあっさり負けたよ?」
「意地悪!」
「ごめん、ごめん。シルを殺すのは……勇者の一人だ」
「むー」
「俺はシルを生かすためにシルに決闘を申し込んだ。黙っててごめんな」
「ううん、ありがとう」
修復に一ヶ月かかるなら、もしお風呂作戦が失敗しても、一ヶ月と一日あるからギリギリで間に合う計算になっていた。
「みんなにはシルの事を何て説明しようかな……」
角がないなら幼女のままで良かったけど……。
角も尻尾も見えるから誤魔化しようがない。
さて、どうしたものか……。
帽子? 角が頭のサイドから上に向かって伸びてるから無理だよな……。
「ここの人って強いの?」
「いや……」
「なら角も尻尾も見えないよ。今は体を認識できるようにしてるけど……。普段は一定以上の実力がない者は魔族を視認する事もできないし」
俺とシルは部屋を出て、食堂に行く。
みんなすでに朝食を食べていた。
「おはよう」
「アニキ、おは――角が生えてる」
「尻尾までありますよ」
いきなり盗賊のボスとコックにバレてるじゃねーか。
シルにチョップを食らわせた。
「痛い!」
「アニキ、魔族を助けるとか、心が広すぎますよ」
頭を押さえて痛みを耐えている幼女を尻目に、みんなはボスの言葉にうんうん頷いている。
お前たち……それでいいのか?
俺にはお前たちの方が心が広い気がするぞ?
朝食は俺が前日渡したモンスター肉とコックが街まで買いに行った野菜がメインだ。
モンスター肉はピンキリだけど、総じて野菜よりも高価らしい。俺には野菜の方が何倍も入手が難しいのだが……。
水事情も俺の【ウォーター】のおかげで新鮮な水で料理が行われるようになった。
肉入りの野菜スープが飲めるとみんなは喜んでいる。ただ……調味料がないんだよな。
せめて、料理の『さしすせそ』は欲しい。
盗賊のボスは洞窟内の掃除を始めた。いや再開したというべきか。
朝一番に玄関先の掃き掃除を始めるそうだ。
洞窟内が清潔になってから、掃除に目覚めてしまった。
コックにはシル用の子供服を頼んでおく。
俺が来てから毎日必ず一回は街を往復してるな。その上みんなの食事を作る働き者だ。
買い食いさえしなければ、いい奴なんだが……。




