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お風呂②

 転生二日目。


 朝から盗賊たちに【クリーン】をかけていく。

 俺は【クリーン】だけじゃ嫌なので、服を着替えているが、盗賊たちはツナギが一張羅だから仕方ない。

 ちなみに【クリーン】をしてから服を洗ったらどうなるかやってみた。新品の白い靴下を洗ってるような感じだ。悔しいが魔法は優秀だった。


 今日は黒の長ズボンと緑の長袖だ。

 無地だけど気分で服装を変えられるのは助かる。鎧なんて豪華な物はないし、ステータスが高いから着る予定もない。


 さっそく朝から脱衣所の用意をする。

 脱衣所とは名ばかり、おっさんの着替えを見たい奴はいないため、壁で仕切りを作るわけじゃない。


「シャドースネークの毒は万能だな……」


 土を盛り上げて一段高くした台に毒を薄く吹きかける。すると表面の砂が溶けてコーティングされた。毒素は解毒ポーションを吹きかければ抜ける。

 ワイルドスネークがシャドースネークに進化して、使える毒の種類が増えた。


 これだけで風呂上がりに体を拭いて着替えられるスペースの完成だ。

 昨日はせっかくお風呂に入ったのに、砂地の上で体を拭いてテンションが下がった。

 結局【クリーン】のお世話になるけど、気持ちの面で違う。


「アニキ、清掃が終わりました!」

「ご苦労様。モンスターの素材を売る事ってできるか?」

「コックの野郎に売ってこさせましょう。帰りに換金したお金で肉以外の食料を買ってこさせます」

「あぁ、それで頼む」


 コックが手間賃という名で買い食いをするのは諦めた。俺には街に入るすべがないし、モンスターが出る森を往復一時間かけて歩いてるわけだし……。


 アジトから北に進み、街道を使わない脱国経路を確認する。

 俺の移動速度の場合、寄り道をしないで進むと国境まで余裕で日帰りができる事がわかった。

 これは大収穫だ。


 その夜。

 お風呂にお湯を入れ終わり、洞窟内に干してた着替えを取って戻るとシルがお風呂に入っていた。

 気に入っているようだったけど、本当に来るとは思ってもみなかった。今日もどこかでお風呂にお湯が入るのを待っていたのか。


「こんばんわ、シロウ。お風呂って気持ちいいわね」

「こんばんわ」


 俺はあいさつだけして昨日と同じくお風呂に入る。

 シルを当たり前のように足の上に移動させた。

 二度目だと文句も言わない。


「今日シロウを監視させてもらったわ」

「監視? 今日って……風呂場の脱衣所とか、国境までの往復ぐらいしかしてないだろ? 見てて楽しかったか?」


 国境までの道すがら、たくさんのモンスターと戦ったんだから、見てたならシルも手伝ってくれよ。テイムモンスターたちが必死に戦ってたぞ。あ、結局俺も見てただけか。


「ほら……私って魔族だから。やっぱり人間を信用できないんだよね。シロウが私を罠にはめるかと思って……実は警戒してたの。監視してごめんね」

「……そっちか。考えてもいなかったな。シルはもう俺の仲間だ」


 バトルスーツを着てるとはいえ、黒いビキニ水着を着ているような際どい衣装だ。

 裸の付き合いをした仲間の不利益になる行為をする気はない。


 それになにより、俺の方こそシルを疑ってたかもしれん。

 女性の『今度一緒に』『今日は予定があるんで、また誘ってください』とかと同じだ。

『明日も来ていいか?』のセリフをシルが実行してくれた時点で俺は決意が固まった。

 俺はシルの味方になろう。


「仲間……シロウと私は仲間か……。昨日はシロウの事を信じきれなくて言えなかった事があるの」

「何かあった?」

「……魔族が来月この国に攻めてくる。シロウを巻き込みたくはない。だから、この地を捨てて逃げて欲しいの」

「知ってるよ?」

「……え?」

「正確には一ヶ月と二日後だな。魔王軍四天王のライハ……なんたらさんが、侍女に変装して城内に潜伏。開戦と同時に王の首を取る」


 いつ、誰が、誰を、どのように暗殺するのか知っているというのはかなりのアドバンテージだ。それに加えて俺にはステータスがある。

 どんな刺客が来ようと暗殺対象を守りきる事ができるだろう。


「ど、どうして……」


 シルの周りの魔力が跳ね上がった。

 俺はお腹に回している腕に力を入れる。


「シル、落ち着いて。俺もシルを信じて話してるんだから……。それにお風呂が壊れちゃう」


 毒で水漏れをしないように固めただけの土風呂だ。殴ったり蹴ったりを防ぐほどの耐久値は備えていない。


「ご、ごめん……。シロウは私を信じて打ち明けてくれたんだよね。それなのに……」


 シルが魔力を霧散させて、落ち着きを取り戻した。

 俺の腕にそっと手を添える。

 顔は見えないが声が優しい。


「知ってる理由は――まだ言えないし、言っても意味がない。それよりも俺はシルに聞きたい事がある」


 小説に書かれていた内容に注釈がなかったから、調べる方法がなかった。全知全能に聞いてもそれが本当に正解なのかわからない。


「なに?」

「魔族が角を失うってどういう意味になるの?」

「…………」

「ごめん。言いにくい事なら言わなくてもいいよ」


 俺は右手でシルの頭を撫でる。

 黙ったという事は言いにくい事なんだな。つまり全知全能が俺に教えてくれた内容が正しかった可能性が高まった。


「絶対に……絶対に内緒だよ?」

「あぁ」

「角を失った魔族は魔力が使えなくなる……」

「……そっか」


 小説の描写でも魔族の力が失われる書き方をしていた。全知全能も力を失うと言っている。

 正しくは魔力が使えなくなった結果、力を失うようだな。

 全知全能の知識は正解ではあるが、正確ではない時がある。

 これからも全知全能の情報を鵜呑みにするのはやめよう。


「でも、魔族の間では角は誓いの儀式に使われる」

「誓いの儀式?」


 それは初耳だ。

 魔族にのみ伝わる儀式ならストーリーに関係ないから今後も小説には出てこないだろう。


「うん。昔は仕える相手に自分の忠誠を伝える方法として『絶対服従の誓い』って習わしがあったの。やり方は自分の角を斬って主人に渡すの」

「え? でも、角を失うと魔力が使えなくなるんじゃ……」


 ついさっきシルが俺に教えてくれた事だ。


「実は魔族の角はくっつけると繋がるの。だから主人に血を塗ってもらって返してもらうの。もちろん返してもらえなければ角が生え替わるまでの数年間魔力が使えないから危険なのね?」

「うん」


 角って再生されるのか……。

 数年かかるようだから、失ってすぐに魔力を取り戻す事はない。

 結構危ない儀式だ。


「でも、そこに私はあなたを信じて私の人生を捧げますって誓いが生まれるの」

「……ロマンチックだな」


 星を見てた時も思ったが、シルはロマンチストだ。今の話もシルが好きそうな習わしだな。


「角がくっついて魔力が使えるようになるまで約一ヶ月。それを乗り越える意志がないとできない行為なのね。今は残念ながら力で相手を屈服させる悪しき行為に使われるようになっちゃったけど……」

「角を返して欲しければ、俺に服従しろって事か……」

「……うん」


「シル」

「なに?」

「シルの角を賭けて、シルに決闘を申し込む」

「……本気で言ってるの?」


 目を大きく広げてこちらを向き、目がスッと細められ一瞬で魔族の雰囲気に変わった。


「あぁ、三〇分後。場所は俺たちが初めて出会った森」

「本気なんだね? シロウが相手でも手加減しないよ?」

「あぁ」


 俺は風呂から上がり布で体を拭く。


「シロウ……今ならまだ取り消しを受け入れてあげてもいいよ?」

「そんな事をしても、お互いの心にしこりが残るだろ?」

「そうかもしれないけど……人間が魔族に勝てると思ってるの……?」


 俺は無視して洞窟内に戻った。

 寝間着の服ではなく、戦闘用の服を着て準備をする。

 洞窟を出て、チラッと風呂場の方を見たが、シルは飛び立った後のようだ。


「俺が遅刻しちゃダメだよな」


 俺は夜の森を走る。

 夜行性のモンスターがいるみたいで、昼間とは違うモンスターがいた。

 今は急いでるから、間合いを詰めて、一気に槍で仕留めていく。

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