お風呂①
洞窟を出て風呂場に向かっている最中にチャポンッと音が聞こえた……。
人の気配がある。誰かいるな。
盗賊たちの誰かがトイレに来たのか?
トイレは逆方向のはずだが……。
俺は風呂に入るために、下半身に布を巻いているだけだ。もし戦闘にでもなれば、最後の装備が剥がれてしまう。どうしようか……。
ゆっくり近付いて、その姿を確認した。
「えーっと……」
「ウフフ。あの水はあなたが作ったのね? 面白そうだから尾行させてもらったわよ」
風呂には昼間会った幼女が入っている。
背中に視線を感じていたが、森から離れたところで感じなくなった。
まさか、そのまま尾行されていたとは……。
幼女はバトルスーツを着たまま湯につかっている。
「そうですか……失礼します」
「え? え? え?」
布をとって俺も風呂に入った。俺の体格分のお湯が風呂から溢れ出る。
銭湯でもそうだが、タオルを湯船に入れるのはマナー違反だ。
「あー、気持ちいい」
「わたしが入ってるのに、普通入る?」
「俺が入るために作ったのに、勝手に入る?」
勝手に入っておいて文句を言ってくるとか、どんな育て方をされたのやら……。
魔族と人間を一緒くたにするのはやめよう。
「そっちが昼間嘘ついたからじゃん!」
「嘘はついてない。明日は水はない!」
あれは魔法が失敗したからだ。
明日は失敗しない。つまり、あの窪みに明日は水はない。
「水を作れる事を隠してた!」
「初対面で隠すのは仕方なくない? シルヴァーンさんだって魔族でしょ? それも四天王」
飛んでたんだから最初から魔族である事は隠していたようには思えないが……。
「う……。シルでいいわよ。それよりも魔族だって知っても攻撃しないの?」
ごめん。あれで隠していたようだ。
「シルが俺を攻撃するって言うなら反撃します。でも今はお風呂を楽しみたいので、あとにしてください」
「私だって攻撃されなきゃしないわよ!」
「それなら良かった。あ、俺の事は四郎と呼んでください」
「わかった。シロウ」
「このお風呂は一人用で狭いので……俺の足の上に来てもらってもいいですか?」
背中を付けて、足を伸ばして入れるサイズだけど、二人ではゆったりできない。
「いきなりエッチな事をする気でしょ!」
「一緒のお風呂に入っててそれを言いますか? 俺はそこまでロリコンじゃないんで安心してください。それにシルはバトルスーツを身に着けてるじゃないですか……。よっと」
俺は隣合ってたシルを持ち上げて左足に乗せた。湯船は大人用に作っていたので、幼女のシルでは床に座って入れない。
そんな問題も俺の足に座れば解消できる。
「ひゃ、お腹に触るな!」
「腕を回した方が安定するんです」
苦情が飛び出したが、気にしない。
湯船にやっと背を預けられる。
シルが恐る恐る俺に背を預けてきた。
「夜空がキレイですね」
「うん。ロマンチック♪」
街灯がないためか、星がきれいに見える。
どれが何の星座かはわからないが……。
「この黒い角って……触ってもいい?」
「本当はダメだけど、シロウは特別に許す」
空を眺めていると視界に入る角が気になった。
角は根元が太く、先端にいくほど細くなっている。
俺はシルの頭の左右から生えている右の角を触った。
シカの角みたいに硬い。でもツルツルしてて触り心地が最高だ。
「はわ、ひゃわわ、はう」
「えーっと……まさか角触られるの弱い?」
「弱いに決まってるでしょ!」
「んじゃ断ってくれても……」
「シロウは特別だって言ったでしょ! 恥ずかしいんだからこれ以上言わすな。あと触りたい時は必ず事前に言うように! 許可を出すまでは触っちゃダメだからね!」
怒り出した時は、痴漢呼ばわりされるのかと思ったが、そうではなかった。
むしろ事前に言えば、今後も触らせてくれるんだな。
「わかりました。ちなみに尻尾は?」
「尻尾はもっと心の準備がいる。次回まで待て。ブクブクブク」
顔をお湯に沈めて息を吐いている。
裸の付き合いで、相当距離が縮まったようだ。
「そうだ! シロウは恋人はいるの?」
「いませんけど?」
「本当? ハゲてるからモテそうなのに……」
ん? んん?
「魔族の中ではハゲてる方がモテるのか?」
「人間は違うの?」
「この世界の人間の中では犯罪奴隷が悔い改めているみたいな位置付けですよ。下の下です」
「シロウ……魔族領に来たらモテモテだよ!」
魔族領いいところだ。
俺の聖地かもしれん。
勇者が魔族領で暮らすとか有りかな?
「でも、シロウに魔族領はまだ早い」
「どうして?」
「今連れてったら、私のシロウじゃなくなる」
「どういう意味でしょう?」
「教えない! ゆっくりしたいんだから静かにしてろ!」
「……はい」
急に早口になって会話が終わってしまった。
俺たちは星を見ながら、一時間ぐらいお風呂に入る。途中シルがお風呂の気持ち良さに負けてウトウトしていた。
お風呂から出るか聞いたら『このままがいい』と言うので、湯船で溺れないように支えてやる。
外気の涼しさもあり、一時間入っても湯あたりせずにすんだ。
湯あたりしなかったのは、ステータスの恩恵かもしれんが……。
「……明日も来ていいか?」
「はい。夜に」
「また一緒に入ってやるから光栄に思えよ! じゃあな!」
タイミングをずらしてくれれば、一人ずつ入れると思うけど……。
また一緒に入る宣言をして飛んで行った。
最初はどうなる事かと思ったが、意外といい子だったな。
魔王軍四天王のシルヴァーン。名前だけは知っていた。俺としては小説の登場人物が目の前に現れた気分だ。
俺は盗賊のボス部屋を占領してベッドに入る。ベッドと言っても床だと寒いので、台の上に布団を敷いているだけの簡素な造りだ。
転生初日終了。
――――――――――
《冒険者ギルド:ギルドマスター》
「森に動物をモンスターに変える泉が湧いた!」
血相を変えた三人の冒険者が建物に入ってくるなり、そう叫んだ。
「場所はどこだ? もしそれが事実なら早急に手を打たねばならない。今すぐ案内してくれ」
「ギルドマスター自ら行くのですか?」
「聞いた事もないからな。誰か他の者に行かせて俺のところまで情報が上がってくるまでに手遅れになっても困る」
「わかりました。緊急性のある情報の対価は真偽を確かめてからですが、書面を作ってお待ちしています。あなた方は確か……リク……」
「リクパスです! チームリクパス。まだ駆け出しですが、よろしくお願いします!」
「道案内は頼むぞ」
「はい!」
森まで来ると、水を飲んだ動物がモンスターに変貌していた。
「よく知らせてくれた」
「危険そうだったので、急いだ方がいいと思いまして……」
俺は青い紙をリクパスに渡す。
「これは緊急報告の真偽を現地で判断して冒険者に渡す紙だ。青は真、赤は偽になる。俺はモンスターに一当てしてから帰る。お前たちがいると、守り切れなくなるかもしれん」
「わかりました。先に戻っています」
「すまんな。五分経ったら始めるから、その間にできるだけ離れてくれ」
「はい」
俺は未来ある青年たちの背を見送ってからもう一度泉を見る。
モンスターは同種族でもケンカをしたりするが、ここのモンスターはそれがないようだ。元が動物だから、温厚なのか?
「よし、五分経ったな」
俺は泉の周りのモンスターたちに向けて走り出す。
――――――――――
《リーカナ王国:王様》
「冒険者ギルドより応援要請です」
「なにがあった?」
「突如、動物がモンスターに変貌する泉が湧いたとの事。真偽の程は冒険者ギルドですでに確認済み。要請はモンスターの殲滅です」
「丁度いい、勇者たちに国に仇なすモンスターの殲滅を任せよ!」
「王様の仰せのままに!」
「「「王様の仰せのままに!」」」




