シルヴァーン
森に戻ってきた。
「これ急いで冒険者ギルドに報告した方がいいんじゃないの?」
「あぁ、何が隠れているのかわからん。気付かれる前に街に戻ろう」
「天変地異の予兆かもしれんからな」
黒い猫耳の女、白い犬耳の男、茶色の猿耳の男の軽装三人組が俺の魔法訓練場から避難していく。
その表情は危険を感じて青ざめていた。
盗賊の中に獣人がいなかったから忘れてたが、街で見たな。
この辺りには強いモンスターが出ないし、新人冒険者だろう。
「ちょっと魔法の制御を失敗しただけなのに……天変地異とか言って大袈裟なんだよ。俺の魔法は天災か! ってなんだ? 俺がいない間になにがあった?」
木は燃え尽き、地面の水はひいた。
しかし、風魔法が抉った窪みに残っている水は抜けきる事はなくそのままだ。
今やそこは動物たちの水飲み場になっていた。
普通だったら憩いの場になりそうなのだが……。
水を飲んだ動物が次々にその姿をモンスターに変えていく。
「…………」
どうしよう。目の前の出来事が受け止められない。
あの三人の冒険者の判断は正しい。これは天変地異だ。
俺は動物たちが飲んでいる水を見る。
――――ステータス――――
名前 魔水
内容 魔素を多く含んだ水。飲み過ぎると体内に魔核が備わる
備考 生き物をモンスターに変える
――――――――――
超ヤバい! 配水管の管を誤って破裂させたぐらいヤバいぞ。
俺の水魔法って魔水なのか?
信じられなくて睨み続けていると、透けている人がいる。
水浴び?
「この水の魔力気持ちいいわね。こんなところに水が湧いてたなんて知らなかったわ♪ ウフフ」
温泉のように全身をつかり、片足を上げて手で触っている。
水深がそれなりにある事を考えると水に浮いているようだ。
――――ステータス――――
名前 シルヴァーン
性別 ♀
職業 魔族
レベル 四七
体力 一三二二/一三二二
魔力 五八八/五八八
力 二一九
賢さ 一九〇
耐久 一二四
敏捷 二五五
称号
・魔王軍四天王
能力
・誘惑
――――――――――
「よし、帰ろう」
「ちょっと、待ちなさいよ! 人のステータスを覗き見てるんじゃないわよ!」
背中に生えた黒い光沢のある翼を動かして空を真っ直ぐ飛んできた。
まだ水から上がったばかりで、全身からポタポタ水が垂れている。
魔族の基準はわからないが、間違いなく美幼女だ。
黒色の髪は腰まであり、服の代わりに黒いバトルスーツを着ている。
「つい出来心ですみません。子供がお散歩ですか? あははは」
俺は逃げるのを諦めて声をかけた。
シルヴァーンがニヤリッと笑う。
「ちょっと犬の散歩よ」
「……犬の散歩ですか?」
犬なんて連れてないぞ?
「えぇ。あら? 疑ってる?」
「いえ、そんな、滅相もございません」
何かクレーマーの対応をしている時の気分だ。
よく仕事でやったな。
とにかく刺激しない。相手の話を聞く。
魔族の犬の散歩って……実は大事件じゃないのか?
それに国まで二〇分ぐらいの位置まで魔族が潜入してるぞ? この国大丈夫か?
「あの水は湧き出てるの?」
「いえ、今日限定です。明日は大丈夫だと思います」
「ふーん、今日しか楽しめないのね……。あなたも一緒に水浴びする? 特別に許可してあげるわよ」
俺が魔法で作った水に入るのに、他人の許可が必要か?
怪しすぎる魔水に入る気はない。
「まだまだ仕事がありますから、これで失礼させてもらいます」
「ふーん」
俺は疑っている幼女に見つめられながら、来た道を引き返す。離れてもずっと背中に視線を感じる。
まさか勇者だと気が付かれたか?
もし、気が付いたなら、みすみす逃がすような真似はしないか……。
よもや勇者資格を失った俺に魔族と邂逅する日が来るとは思ってもみなかったな。しかも初日に……。小説の中でもこんな遭遇イベントはなかった。
戦闘が回避できたのは素直に嬉しい。
しかも能力が『誘惑』という危険極まりない相手だ。俺に効果があるかはもちろん知らないし、試す気もない。
今日は何だか疲れたな。完成した風呂を満喫しようかな。
掘り風呂になっている脇にあぐらで座った。
「【ウォーター】」
浴槽の上に人差し指を一本向ける。
イメージは蛇口だ。時間はかかるが、他のイメージでは洪水になってしまう。
「慎重に慎重に……」
一〇分かけて水が貯まった。
昼間の一件があるから、水を凝視すると『魔力水』となっている。
俺の出す水は魔力水だった。余ってる魔力が水に溶け出したのかもしれんな。
「【ファイア】」
人差し指が大忙し。水の中に手を入れて、指を底へ向ける。
手持ち花火のイメージだ。
魔力を流してるせいか、水の中でも火は消える事はない。
「さて、風呂だ、風呂」
脱衣所を作る暇がなかったので、洞窟内で服を脱ぐ。今日はお試しだから色々不都合があるのは仕方ない。
下半身に白装束から取った背中部分の一番デカい布を巻いて走る。




