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秋の空に

作者: 安達邦夫


冬木彩芽は、心にぽっかりと穴が空いたようだった。

彼からの別れは、たった二行のメールだった。

走馬燈のように2年間のことが、空しく思い出された。

22才の別れという曲が彼と約束していた喫茶店に流れていた。


その2週間後


彼女は、頬が痩けてしまい、同僚も心配するほどに憔悴していた。

心療内科の女性医師は、親身になって彼女の治療してくれた。

その医師は、金沢先生と言った。彼女も過去にツラい別れを経験していた。

自動車事故だったそうだ。

運転していた旦那さんと3才になったばかりの男の子を同時に亡くしたそうだ。


歯科医だった金沢医師は、苦闘しながらも心療内科について勉強するようになり、世の中には自分と同じように苦しむ人々がいて、心療内科こそが自分の進むべき道と覚ったのだった。

愛する男性と愛するわが子を失い、人は無意識的に自分を責めるらしい。それが、身体の不調となる。それを物心両面から治療していくのが、心療内科なのである。

簡単には治るものではないが、ねばり強く病気と付き合っていくことだと言った。


焦らないことが、治療になるのよ。

心身症になる人は、とても真面目な努力家が多い。

多少ルーズぐらいがいいのだという。


夕焼けに涙するような体験をした宗教家の体験を書店で立ち読みするうちに知った。

大自然には、なんと途方もない包容力があることか。

冬木彩芽は、もっとゆっくり生きようと思い、山形県に移住したのである。

空き家同然だった民家をリフォームして、畑を耕す。

やがて、見ず知らずの人達が、声をかけてくれるようになった。

たった一人で働く彩芽を気遣って、鍋いっぱいの肉じゃがを持ってきてくれた主婦がいた。

都会暮らしに慣れた30才の独身女性にとって、田舎暮らしは知らないことばかり。

土いじりなど出来るのだろうか。

案ずるより産むが易しと言うが、やがて野菜を育てることに喜びを感じるようになっていた。


それは、文字どおり人間である喜びそのものであった。

そして、近所のおばあちゃんとも、談笑してる自分がいた。

もう彼女は、以前の彼女ではない。生きることを実感している。

彼女は、近々小さなレストランを民家で開業しようとしている。

東京で食べた美味しいものを、自分が育てた新鮮な野菜でアレンジして、食べてもらうのである。





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