◆95.両極端な二人
雅弘との電話を切り、私は聡に電話をかけた。
「もしもし?今電話いいかな?」
「あぁ・・・」
聡は疲れているようだった。
「あのね、響生の移植が決まったから、その報告だけ・・・」
「そっか・・・。頼んだぞ」
聡は心ここにあらずというような返事をした。
「忙しいのにごめんね。優生のことお願いします」
「優生はほとんどお母さん達が見てくれてるから、大丈夫だ」
本当は響生の移植が決まったと聞いて、もっと喜んでくれるのかと思っていた。
聡の反応に、私は少し戸惑っていた。
「それじゃ、忙しいところにごめんね。お母さん達にもこのこと伝えてくれると嬉しいんだけど・・・」
「あぁ。わかった」
聡はそう言うとすぐに電話を切った。
一人、切れてしまった電話を、まだ耳に当てたまま、私は一人、淋しさだけが募っていった。
雅弘と聡・・・。
あまりにも違いすぎる。
仕事が好きで、それを生きがいにして生きてきた聡。
言葉に出して伝えることが不器用で、私がいつも先回りして聡の気持ちを読み取っていた。
それとは逆に、言葉で、音楽で気持ちを表すことが仕事の雅弘。
私の気持ちを先に読み取り、優しさというオブラートに包み込んでくれる人。
両極端な二人・・・。
どちらも、かけがえのない人のはずなのに、私はいつも比べてしまう。
雅弘の優しさにいつも包まれていたいと思う反面、聡に何かしてあげなくてはと焦る。
そんな自分が、とても嫌な人間だと思えて仕方がなかった。




