◆90.通過点
私の頭の中は、もやもやとした雨雲のような思いが、まだどこかで燻っていた。
このまま上手く移植までこぎつけることができるのだろうか?
響生の姿を見ていれば、母として、1分でも早く移植をさせてやりたい。
ただ、雅弘のことや聡のことを考えると、これは正しい選択なのか不安になってしまう。
「お母さん?移植に入る前に、移植の準備がありまして・・・・」
医師が顔を出した。
「はい、予定を教えていただけると、嬉しいのですが・・・」
私の返事を聞いて、医師は病室に入ってきた。
「響生くん、今日は点滴もちゃんと入ってて、おりこうだね」
医師はそう言うと響生の頭を撫でてくれる。
響生は嬉しそうににっこりと微笑んだ。
「今の状態が一番いい状態だと思います。乳児の場合は、状態がよくなっても、再発の可能性が高くなりますから、やはり移植をすることを前提でこちらも治療していますから」
医師は、私の頭の中の迷いを見抜いているのだろうか?
その後、移植に向けての過酷な治療が始まることを告げられた。
みているほうが忍びなくなるほど、姿が変わってしまうこともあるという。
放射線治療では、響生は苦しい思いをすることになる。
「これからの治療は、目を覆いたくなることもあるかもしれません。ただ、これから先の響生のくんの長い人生の通過点として見てあげてください」
私は、医師の言葉で、響生の未来を見ようとした。
響生には未来がある。
楽しいことも沢山待っている。
響生がをそれを手にするための通過点・・・。
「よろしくお願いします。五十嵐さんには結果を話してありますし、予定がわかれば、あわせていただけることになっています」
「そうですか!!心強いですね」
医師はそう言うと
「じゃあ、細かいことはまた明日にでも打ち合わせをしましょう」
そう言って、響生に手を振り、病室を出て行った。




