◆8.芽生えた思い
朝を迎え、私はいつものように聡の朝食を作っていた。
でも、今日はいつもの朝とは随分と違う
心が澄み渡るような清々しい気持ちで朝を迎えることができた。
そんな私とは逆に、聡はいつもと変わらない。
軽やかな心の中を傍観しながら、私は自分の中の何かが変わろうとしているのを感じていた。
聡はまだ眠い様子で、背伸びをしながら
「今日から出かけるのか?」
単調なリズムで聞いてくる。
聡なりに、心配してくれているのだろう。
「うん。できるだけ早く来て欲しいっていわれたから」
「そっか。」
「頑張ってみる」
やけに張り切っている自分に、私自身が驚いていた。
平凡な幸せを守りながら、自分を大切にしたい。
そんな思いが、あのお店での出来事をきっかけにして私に芽生えた。
聡を送り出し、私は身支度をして外に出た。
もちろん、お店に向かう為だ。
ペットショップまでは、歩いて10分程だろうか。
私は慣れない道を歩きながら、ふと空を見上げた。
東京の桜は蕾も大きく膨らんで、週末には咲き出しそうな気配を見せていた。
これまでバタバタしていたから、周りの景色に気が付くこともできなかった。
でも、優生を迎える頃には、桜の花も綺麗に咲き揃い、春の光を浴びながら、この桜並木を一緒に歩いて幼稚園に通うのだ。
そう思うと、これまでの不安はまた少し和らいでいた。
そして、これから始まる新しい生活に、思いのほか期待を持っている私がいた。
それがなんだか嬉しく、恥ずかしく感じた。
もちろん不安が無いわけではない。
でも、これまで蟠り(わだかまり)の中にいた自分を、自らの手で救い出せたような気がして、それが嬉しかった。




