◆85.あの人
私は、おぼつかない足を引きずるようにして病室に戻った。
ドアを開けると、父と母が座っていた。
「ダメだった・・・」
父の顔が厳しく私をにらんだ。
そして、父は私の手を掴み、病室から連れ出した。
「お父さん・・・なんでここにいるの?」
「お前がこんなことで、どうるするんや。響生の前でそんな顔するのは許さん!!」
父は、声を上げた。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
私は訳もわからず、ただ泣きじゃくっていた。
「わしは、今からお前のうちに行って、優生と一緒におるから、お前はお母さんと一緒にここいろ。いいな」
父はそう言うと、部屋に戻り、小さなボストンバックを抱えてきた。
「ここに入るときは、笑顔でいろ。泣くんやったら、別の場所にいけ!!」
私は父の言いたいことがよくわかっていた。
私だって響生の前では泣くまいと決めていた。
でも、涙は止まらずどうすることもできなかった。
「玲香、お父さんも1日早く来てくれたことやし、今日は私がついとるから、ちょっと一人になって落ち着いたらどう?」
母はドアを開、私を覗き込んでからそう言った。
「うん」
「何か飲んでこられ。少し落ち着いてからじゃないと、響生が心配するやろう?」
母はとても冷静だった。
「お母さんは、何でそんなに強くいられるの?なんで?」
私は、母に当たるようにそう言った。
「私だって、泣きたい。でも泣いて何か解決するが?するなら何回でも泣くよ!!」
母の言葉は私の胸に突き刺さった。
「玲香、現実を受け止めて、他にできることを見つけていくことしかできんやろ?」
母の言うとおりだった。
結果に囚われ、前に進めない私。
このままでは何も進まない・・・。
私の脳裏にふとあの人の顔が浮かんだ。
「お母さん。私一人で考えてくる」
私はそう言うと、携帯を握り締め、病院の外に出た。




