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◆82.鋭い目

どれくらいの時間が過ぎただろう。


すでに私のいる場所は、僅かな明かりがともされているだけになっていた。

昼間はあんなに人でごった返していたこの場所も、今は私が一人いるだけだった。


側の柱にある時計はすでに8時になっていた。


このまま一人でいても、何も進まない。

私は響生の顔が見たくなり、椅子から立ち上がった。


私への罰なら、私はそれをきちんと受けよう。

そして、私が響生にできることは何もかもしてやりたい。

もう泣かない。

泣いてばかりいては前に進まない。


私は、そう決心して、病室へと戻った。



病室には既に聡の姿があった。

母は私の顔を見て、にっこりと笑い

「じゃあ、優生を連れてもどるよ。明日、荷物も持ってくるから」

そう言って優生の手を握り

「今日は遅いから、おばあちゃんと、どこかでご飯食べて帰ろうね」

そう言いながら、歩き出した。

「響生はおうちに帰らないの?」

優生の言葉にまた涙が出そうになったが

「病気がきちんと治ったら、帰ってくるから、優生はそれまではおばあちゃんと一緒だけどいい?」

「うん!!」

そんな会話をしながら母と優生はドアの前に立った。


「じゃあ、いくからね。明日来るからね」

「お母さんありがとうね」

母はまたにっこりと笑って、ドアを閉めた。


静かな病室の中で、響生の寝息だけが響いている。


「おい、どうなるんだ。響生は治るんだろうな?」

聡の唐突な質問に、言葉がない。

「どうなんだよ。治るんだろう?」

私はなんといえばいいのだろう。

「7割は治るって言われたけど、それ以上は聞いていなくて・・・」

「お前何やってんだよ。響生が死ぬかもしれないていうことなんだぞ?わかってんのか?」

私は聡の鋭い目に恐怖を覚えた。

「あした、治療方法とか、色々話があるっていわれたんだけど、一緒に聞いてくれる?」

「おぉ。何時だ?」

「聡の仕事の都合もあるからって、朝の外来が始まる前に時間を作ってもらったから」

聡の表情は何も変わらず、ただ恐ろしいほどに強張った表情で私を見据えていた。


「俺はこれでうちに帰るから、明日また来る」

「うん。わかった」

私は聡の目を見ることができなかった。

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