◆73.フラッシュバック
金沢の雪も融け、やがて春がやってくる。
響生と迎える初めての春。
そして、4月からは優生も1年生になる。
こうして、時の流れが穏やかに思えるのは、きっと今が充実しているからなのだろう。
そして、雅弘との事も、少しづつ思い出へと変えていける・・・そんな気がしていた。
-3月-
それはまた突然私に襲い掛かった。
「玲香、俺もいよいよ、東京に腰を据えて仕事ができるようになりそうだ」
聡からの電話に、私は不安を隠せなかった。
「これからは、何年も東京で仕事をすることになりそうだから、4月からは心機一転、また東京で一緒に暮らさないか?」
聡と共に家族4人で一緒に暮らせる・・・それは嬉しかった。
ただ、ようやく私の中にできていた雅弘への距離が、近づいてしまわないかと不安だった。
「優生の学校のこともあるから、色々大変だと思うけど、頼むぞ!!」
前にもこんな会話があったような気がする。
私は、やはりあの時も、東京行きに乗り気ではなかった。
そして今も・・・。
ただ、これから先、私達が家族として共に同じ時間を過ごすことはどうしても必要だとわかっていた。
あの日、雅弘とホテルで別れた日のことが鮮明にフラッシュバックする。
でも、あれは、ずっと遠い昔の出来事・・・。
「わかってる。やっとみんなで一緒に暮らせるようになるんだね」
私は、聡にそう言うことで、自分の中の不安を消し去ってしまいたかった。




