◆72.愛する人と共にいる時間
沙希が東京に戻ったのは、それから3日後のことだった。
「私、これから彰人を探そうと思うの」
3日前の沙希とは別人になったようにそう言った。
「どこにいるのか、わかりそうなの?」
「ぜんせん・・・。でもこのままじゃ、いけないと思うから」
沙希の言葉は力強かった。
「無理しないでね。私、沙希ちゃんに何にもしてあげられないけど、応援してるから」
私は自分の無力さに情けなくなった。
「玲香ちゃんに会えたから、こうして次に進もうって思えたの」
私は、決意をもって前に進もうとしている沙希の姿が眩しくて仕方がなかった。
「今度は、ちゃんと結果を出してから、玲香ちゃんに会いに来るね」
「うん。待ってるよ。いつでも遊びに来てね」
愛する人と共にいる時間。
それは何物にも変えがたいということを、私も解っている。
それを失ってしまった沙希は、もう一度取り戻そうともがいている。
自分自身の力で、前に進む勇気。
沙希はその勇気を持ち、全身全霊で前に進もうとしている。
あの日、私の中にそんな選択肢があったとしたら、もっと違う道を歩んでいたのかもしれない。
駅で手を振る沙希の姿は、本当に輝いていた。
これから待ち受ける出来事は沙希にとって、最良の結果にならないかもしれない。
たとえどんな結果が出ようとも、今の沙希ならばきちんと受け止めることができるだろう。
そう信じて、私は沙希に手を振った。
そして、沙希の姿が見えなくなるまで見送った。




